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ネットの話題

虫が気持ち悪いと言わないで!沖縄こどもの国、大人への苦言が話題

「怖いものがあっても…」スタッフの願い

虫関連の企画展会場に登場した掲示物。大人をいさめる内容が話題です。本文中の写真で、全体像が確認できます。
虫関連の企画展会場に登場した掲示物。大人をいさめる内容が話題です。本文中の写真で、全体像が確認できます。 出典: 沖縄こどもの国提供

目次

私たちを取り巻く、たくさんの虫たち。個性的な見た目の種が多く、嫌悪感を抱く人も少なくありません。その思いを、大人が子どもに対して、むやみに表明しないでほしい。そう訴える掲示物が、とある生物関連の企画展に登場し、SNS上で話題を呼んでいます。背景に、どのような思いがあったのか。掲示物の制作に関わった展示施設のスタッフに、話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「虫は美しい」と訴える掲示物

注目を集めたのは、動物園などを備える施設・沖縄こどもの国(沖縄県沖縄市)の取り組みです。

今年3月26日~6月26日、同園で企画展「小さな先生たち」が開かれました。年度ごとに実施され、園の敷地内に生息する昆虫や植物について調べる市民ボランティア「いきもの調査隊」。その昨年度の活動を報告する内容です。

期間中、展示スペースの入り口に、布製の掲示物が設置されました。ハチやガなど、園内で見られる9種類の昆虫の写真と共に、以下のような文章がつづられています。

虫に対して「気持ち悪い」「きたない」「こわい」と、
お子様の前で言わないでください。
虫たちは美しく、
素晴らしい能力を持っているいきものです。
保護者の方が「気持ち悪い」というと、
この価値観はずっとお子様に植え付けられてしまいます。
ひとそれぞれの好みはありますが、
いきものが持つ魅力を感じた上で、
お子様自身から出てくる感情を
大切にしてあげてください。

6月下旬、ツイッター上に関連画像が出回りました。「これは本当にそうだ」「親が苦手だからって生き物を子どもから遠ざけるべきじゃない」「気を付けているけれど難しい。でも大事なこと」――。そうした反応が、現在まで相次いでいます。

沖縄こどもの国の敷地内に、期間限定で設置された掲示物。園内で見られる9種類の昆虫の写真と共に、大人の来園者へのメッセージがつづられている。
沖縄こどもの国の敷地内に、期間限定で設置された掲示物。園内で見られる9種類の昆虫の写真と共に、大人の来園者へのメッセージがつづられている。 出典: 沖縄こどもの国提供

400種超の標本から選抜して撮影

今回の掲示物は、どのようにして生まれたのでしょうか。沖縄子どもの国の教育普及員で、制作を主導した陳佑而(ちん・ゆうじ)さん(35)を取材しました。

陳さんは現在、いきもの調査隊にスタッフとして関わっています。小学4年生以上の子どもから大人までのメンバーと共に、園内を探索。道中見かけた昆虫・植物の生息状況や、外来種の侵入の形跡といった点について調査してきました。

「子どもを中心とするメンバーたちは、みんな興味を持って虫に触れています。ガやハチ、芋虫を『きれいだ』と表現する場面も珍しくありません。しかし一般来園者の大人の中には、『汚い』『怖い』と子どもを虫から遠ざける人がいるんです」

いわく、虫と向き合う調査隊メンバーの間近で、露骨に嫌悪感を示す来園者とも、過去に出会ったといいます。大人には、子どもの感性を大切にしてあげて欲しい。そう呼びかけたくて、企画展の開催に先立ち、掲示物を手掛けることにしました。

掲示物のサイズは高さ約180センチ、幅約160センチ。似た趣旨の看板を作った、他県の施設の事例も参考にしつつ、文章を考案しました。虫たちの写真は、調査隊メンバーが展示のために採取・作成した標本を撮影しています。

企画展「小さな先生たち」の告知用ポスター。
企画展「小さな先生たち」の告知用ポスター。 出典: 沖縄こどもの国提供

来園者から届いた賛否両論

掲示物に写真を載せた9種類の虫は、どれも陳さんにとって思い入れがあるものばかりです。

例えば、アフリカやインドなどに分布するガの一種・キョウチクトウスズメ。緑色を基調に、斑紋状に広がる羽の保護色が特徴です。陳さんいわく、故郷の台湾でも見られるとか。調査中に出合ったときは、郷愁にかられたといいます。

木の葉のような模様が印象的なガのキマエコノハ、国内各地で観察されるキアシナガバチ……。調査隊メンバーとも相談しつつ、400種類を超える標本の中から、撮影対象とする虫を選出していきました。

「どのメンバーも本当に虫が好きで、みんなで新種のハチを発見したこともあります。掲示物の完成品を示すと、『調査中に見たことがある』『この虫を入れてくれてうれしい』と、とても喜んでくれました」

今回の掲示物に対しては、一部の来園者から「撤去して欲しい」という要望が上がったとのことです。一方で、寄せられた意見の大半は「大切なメッセージだ」など好意的な内容でした。「伝えたい層に思いが届いた」と陳さんが振り返ります。

虫の標本を掲げる「いきもの調査隊」の関係者たち。背景には、活動の成果を伝える、詳細な資料も貼り出されている。
虫の標本を掲げる「いきもの調査隊」の関係者たち。背景には、活動の成果を伝える、詳細な資料も貼り出されている。 出典: 沖縄こどもの国提供

「議論の機会つくれて良かった」

ところで、いきもの調査隊には、どんな人々が参加しているのでしょうか。

陳さんによると、虫への純粋な関心を抱く子どもが、多く在籍中だといいます。調査は自然研究を専門とする外部組織のプロと行うため、活動を通じて、メンバーたちの採取技術がどんどん向上していくそうです。

「中には、自分は虫が苦手だけれど、参加を望む我が子の意志を尊重した、という親御さんもいらっしゃいます。そうした大人の理解のお陰で、調査の重要性を、多くの人々に伝えるためのきっかけをつくれています」

そして、今回の掲示物が耳目を集めたことについて、陳さんは次のように語りました。

「SNS上には、掲示物の内容に対する賛否両論が起きました。自らが、虫にどんな感情を抱いているか。お互いの考え方について、議論して頂く機会を設けられただけでも、とても良かったと感じています」

「怖いものや苦手なものは、誰にでもあります。私も同じです。でも、できれば、ネガティブな感情を子どもたちに広めないで頂けたらうれしい。そう思います」

いきもの調査隊の成果物企画展は、7月29日~9月4日に、沖縄市立郷土博物館でも開催されます。同館によると、沖縄こどもの国が制作した掲示物も、公開する方向で検討中とのことです。

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