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「論破」しないひろゆきさん 渋谷で見た〝演説〟に記者が感じたこと

応援演説のためフランスから一時帰国したひろゆきさん=18日、東京都渋谷区道玄坂2丁目
応援演説のためフランスから一時帰国したひろゆきさん=18日、東京都渋谷区道玄坂2丁目

目次

YouTubeの生配信みたい――。参院選の取材で、まさかこんな感想を持つことになるとは思いませんでした。今月18日土曜日の夕方、記者(27)はハチ公前(東京都渋谷区)へ向かっていました。22日に公示される参院選の立候補予定者の街頭演説取材です。(朝日新聞記者・御船紗子)

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※公示直前のため、公平性の観点から特定の立候補予定者名は記載しておりません。

想定外の方向に進む演説

応援演説には「ひろゆき」の活動名で知られ、ネット掲示板「2ちゃんねる」開設者の西村博之さんが駆けつけました。「論破王」とも呼ばれるひろゆきさんはネットの生配信や番組で議論を繰り広げています。

ひろゆきさんのSNSを見ても、立候補予定者を持ち上げる様子はありません。どんな演説になるのか全く見通せませんでした。

ハチ公前に着くと、既に人混みができていました。立候補予定者の車の周りに10代~40代くらいの男女が列をなしています。すきまを縫って、なんとか前へ。午後5時すぎ、立候補予定者とひろゆきさんが車の上へ登壇しました。

「政治の応援演説、やる人が少ない理由わかった。テレビの仕事無くなるんすね!」

序盤から型破りな話題。彼のペースだ……。そう思いましたが、次のやりとりから記者の想定外の方向へと進んでいきました。

ひろゆきさんと立候補予定者の街頭演説を聞くため、多くの若者がハチ公前に押し寄せた=18日、東京都渋谷区道玄坂2丁目
ひろゆきさんと立候補予定者の街頭演説を聞くため、多くの若者がハチ公前に押し寄せた=18日、東京都渋谷区道玄坂2丁目

演説ではなく質問が続いた

「(政治家は)真面目にやると割に合わないっすよね」。ひろゆきさんがマイク片手に問いかけると、立候補予定者が「批判しかされないし、本当やるもんじゃない」と応じました。

「国会でやることの取捨選択はどうしていくんすか」
「弱者全員助けたいの?」
「(立候補予定者は)口がうまいから信用ならないって意見に対してはどう?」

演説ではなく質問が続きました。

いつの間にか、2人の半径10メートルには立ち止まって耳を傾ける人が集まり、すし詰めになっていました。10代~20代を中心に、制服姿や友だち同士、カップルの姿もあります。聴衆の輪は、通行人が間を縫って歩けないほどに膨らみました。

フランスから一時帰国し応援演説に立ったひろゆきさん=18日、東京都渋谷区道玄坂2丁目
フランスから一時帰国し応援演説に立ったひろゆきさん=18日、東京都渋谷区道玄坂2丁目

「これ、(候補者に)言いたいって人います?」

ひろゆきさんが「年収140万円以下の人」と呼びかけると、十数人が手を挙げました。

「若い人で働いていてもそれぐらいの(給料が低い)人がいる。でもみんな自分のことは弱者と認めたくない。自覚して結束すれば、多数派になれる」と呼びかけました。

応援演説も終盤にさしかかり、立候補予定者が「あと一言ずつくらいで終わります?」と言うと、ひろゆきさんは「せっかく雨のなか来てるんで、これ、(候補者に)言いたいって人います?」と手を挙げてみせました。

すると、記者の左に立っていたベージュのパーカの男性が手を挙げました。10代くらいの若者です。「あなたが国会に行って何が変わるのか、教えてください」と問い、立候補予定者から直接答えを引き出しました。他ではなかなか見られない応援演説だと思いました。

一向に減らなかった聴衆

記者になって5年、今まで何度も選挙戦を取材しました。政党名を連呼し、「GDP(国内総生産)」や「税制優遇」など日常生活で聞き慣れない言葉を並べたスピーチ。立ち止まる人は政党支援者ばかりというのがお決まりでした。

政党幹部に「口べた」と呼ばれる候補者が、政策を一切語らずに自分の名前だけを叫び続ける演説を取材したときには、何を読者に伝えたらいいのかと途方にくれました。

この日、立候補予定者が一方的に話す演説はなく、YouTubeの生配信のような言葉のやりとりが1時間半続きました。聴衆も巻き込むスタイルは、配信に寄せられたコメントを読み上げる動作にも似ていました。

結局、ひろゆきさんは一度も相手を「論破」することはありませんでした。逆に静かにうなずいて聞き役に徹することも。ひろゆきさんによると、本格的な応援演説は「今回が初めて」だそうです。

途中で雨脚が強くなっても聴衆が一向に減りませんでした。

若者が政治に関心を持たないと言う人もいますが、既存の政治のありかたそのものが若者を遠ざけていないでしょうか。選挙もそうです。対話型の応援演説が主流になることもあるかもしれません。

一方、「ひろゆき信者」を名乗る質問者や、常にカメラを回し続ける聴衆からは、その場の熱にうかされているような危うさも感じました。今回の街頭演説が若者の政治参加のきっかけになるのか、はたまた一過性に終わるのか。注目したいです。

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