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連載

#11 凸凹夫婦のハッタツ日記

スケジュール帳が最後まで使えない…ADHDの夫を救ったスマホ活用術

ADHDの夫・西出光さん
ADHDの夫・西出光さん 出典: 画像はいずれも西出夫妻提供

目次

お互いの凸凹を補いながら生活している注意欠如・多動症(ADHD)の西出光(ひかる)さん(26)と自閉スペクトラム症(ASD)の弥加(さやか)さん(33)夫妻。スケジュール管理についても得意・不得意が顕著に表れました。夫・光さんの視点でつづります。(聞き手・イラスト:西出弥加)

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スケジュール管理が苦手な僕

学生のとき、スケジュール帳を購入したことがあります。しかし買ったはいいものの、授業時間は決まっているし、突発的な予定が入ることもあまりないので結局使わずに終わりました。巻末にある路線図や地図、表紙の雰囲気は好きで、それをよく眺めながら、「はやく大人になってこれを埋められるようになりたいなぁ」と子どもながらに憧れたのを覚えています。

そして成人してから親元を離れて暮らし、社会人になってからは本格的にスケジュール管理をする必要が出てきました。そこでまたスケジュール帳を買って書き込もうとしたのですが、少し書いて終わりました。また、ノートを買ってメモを書いてもノート自体を最後まで使うことなく、数ページだけ文字が書かれたノートが何冊も部屋に散らばりました。

そして僕はスケジュール管理が苦手なのだと、こうした過去を振り返って、やっと最近気づいたのです。苦手な理由は主に「不注意」と「時間感覚のなさ」という二つでした。

まず予定を書くこと自体を先延ばしてしまい、そのまま忘れてしまいます。そして手帳やノートをなくす、家に忘れるなどの不注意が重なる理由です。また、あとから手帳を見ても書いていないために空白のままで、予定を思い出すことがなく他の予定を入れてしまったことが何回もあります。そして直前になってから、または先方から連絡があってから思い出して予定を変更するので、周りに迷惑をかけてきたと反省しています。

また、事前に準備が必要な予定もあります。例えば役所の手続きなどは印鑑や書類など、普段持ち歩かないものを持参する必要があります。それを用意することもスケジュールに含めないといけないので、それは僕にとってハードルが上がります。

まだ印鑑など自宅にありそうなものは比較的できるのですが、取り寄せなくてはいけない書類など、用意に時間がかかるものを持参する場合は更にハードルが高くなります。僕は不注意で取り寄せることを忘れている場合が多いので、そのときはもう一度予定を組み直すことになってしまいます。一つの予定だとしても準備を含めるといくつもの予定が重なっているのです。

そうしているうちに完了するまでに時間がかかってしまい、周りよりも進行が遅くなってしまいます。そうしているうちにスケジュールがたまり、不注意も増え、悪循環となります。僕は圧倒的に段取りを組むということが苦手です。

また、時間感覚がないので、家事なども同じように苦手です。「最初に洗濯機を回し、その間に掃除をして、顔を洗い、着替えてこの時間までに家を出よう」など、まず最初に頭の中で逆算して予定組みをしないといけないのですが、僕は洗濯物を干す時間を出発時刻までに取れないなど、時間感覚のなさから段取りを組むことが難しいときがたくさんあります。限られた時間で処理をする能力が求められる家事はかなり難しいです。その上何かをミスするという不注意が重なり、家はごちゃごちゃになります。

几帳面で段取りが得意なサヤカさん

そんな僕が2019年に結婚した相手も、僕と同じように発達障害を持った人でした。

同じ発達障害と言えど、蓋を開けたら全く違っていて、相手のサヤカさんはASDの傾向が強く、僕のADHD気質とは異なる性質を持っていました。すごく几帳面でスケジュールを管理することと段取りを組むことが得意でした。その差は、かなり大きいと感じています。

結婚当初、周囲の方々や心理士にスケジュール管理のことで相談したのですが、みんな口をそろえて「得意な人がやればいい、奥さんが頑張ればいいこと」と言いました。しかしサヤカさんが頑張った結果、あまりにも負担が大きく疲弊させてしまいました。そんな過去があり、スケジュール管理の苦手克服を僕自身もしようと強く思ったのです。

「得意な方がやればいい」という意見に反対はしておらず、実際僕たちもお互い苦手なことを避けて得意な分野を伸ばす方法で役割分担ができ、スムーズに進むときもあります。しかしスケジュール管理においては、僕とサヤカさんの能力のギャップが大きすぎてサヤカさんの負担が大きくなってしまいます。得意な方がやれば良い、のですが、問題はその量だと思います。

サヤカさんは2人分以上のスケジュール管理をすることになりました。そして管理しているサヤカさんから家事や用事などを一つお願いされた場合にも不注意によって完了できないときがかなり多く、管理を何重にもしないといけなくなり、自分がサヤカさんの行動をかなり制限してしまうのです。そして僕は完了できたとしても、ミスをします。

そしてミスに先に気づくのもサヤカさんです。そしてもう一度僕に指示を出し、その上でもまたミスをしているので、サヤカさんは結局自分ですることになってしまいます。毎日の生活でこうしたことが何回も起こるので、「頼りたくても頼れない」「ミスをしていないか心配」という気持ちにさせてしまいました。

自分なりに工夫をしたり、ミスがないように努力したこともありましたが、結果を急ぎすぎて空回りしてしまうことが多かったです。

サヤカさんは「本当はぜんぶ気にしないでいられたら良いけど、私の性格上気になってしまうから申し訳ない。あとはこのままだと生活苦になってしまうから気にしないといけない」と話していました。

間違いを言ってないはずの相手が謝る状態、そして周囲は「得意な奥さんがやれば良い」と言っている重圧に、こちらも申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

試行錯誤してたどり着いた三つの結論

僕自身もこの状況を打開すべく試行錯誤し、3年が経過した今、ようやく少しずつ対策ができるようになりました。たどりついた結論は三つです。

まず一つ目は「予定がわかったときに必ずメモを携帯に残す」ということです。当たり前のことかもしれませんが、僕は意識をしないとできませんでした。これだけは徹底しました。

「予定が発生すること」と「忘れないように書き込むこと」が二つ離れたものになっていたのですが、「予定が発生したら書く」と二つをセットにして一つの行動にする意識をしました。先延ばしをしないようにしたのです。

二つ目は、不注意や抜け、忘れを防ぐため、普段見るカレンダーを1ヶ月のものから1週間単位のものにしました。「7日先までのスケジュールだけ把握する」ことをしました。僕はこれで予定を忘れることがかなり減りました。

8日目以降の予定は一目では分かりませんが、予定を入れるときにチラっと色が目に入ることが多いので、予定を被せてしまうことがなくなりました。

また、週のカレンダーはスマホで管理しており、毎日自動で更新されます。これは曜日を問わず7日先の予定まで見ることができるのです。僕は、月〜日まで固定されていて次の月曜日になってはじめてその週の予定が分かるパターンの切り替えだと、また抜けが出てしまうので、この機能には大変助かっています。

三つ目は「日用品の買い物は通販で行う」ということです。これもADHDの性質が関係しています。

「営業時間内に店舗に行くと決める、家で出発の準備をする、鍵を閉めて家を出る、店に向かう、たくさん並んでいる商品から間違いなくほしいものをだけを買う、お会計をする、買ったものを袋に入れる、それを持って店を出る、家に向かう」

この工程を減らした結果、ネットで買い物をすることになりました。買い忘れや買い間違えの防止にもつながりました。直接店舗へ赴くと、メモを見ているにも関わらず何か一つ買い忘れたりするのです。そしてシャンプーとトリートメントの容器が似ていて間違えたりすることもあります。

ネット通販では「トリートメント」と打てばシャンプーが出てくることはありません。それで僕は間違いが減りました。

そして工程が減ったため、以前より安定したスケジュール管理ができています。

しかし先日、間違えてトイレットペーパーを120個買うという事態も起きているので、油断はできません。そのペーパーも部屋に散らかっていたので、サヤカさんが袋から出して綺麗に棚に並べていました。

僕はスケジュール管理に限らず、多くの人ができることが苦手です。そのことで悩むことも多いですが、まずは苦手だということを自覚しはじめたらとても楽になりました。

結婚した頃はサヤカさん自身が当事者ということもあり、発達障害を持つ知り合いの人が多かったので、その人たちにもアドバイスをいただきました。しかし僕はその厚意にも応えることができませんでした。

同じ発達障害者同士でも、得意不得意の個人差があり量も質も違っていました。僕はその人たちと比べ、不得意の度合いが強すぎる部分があり、その部分に至っては全員、手の施しようがなかったのです。

同じADHDの人でさえ「なぜできないのか分からない……」と困っていたので、ASDのサヤカさんからしたら未知の領域だったと思います。

僕が大切だと思うのは、「こうしたい」と思う気持ちと、「こうしたら簡単にできる」というコツの連続です。

これからもできるだけ不注意をしないよう、工程を減らす努力をしたいと思います。

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西出 光(にしで・ひかる)

1995年生まれ。発達障害の一つ「注意欠如・多動症(ADHD)」の不注意優勢型と診断される。2019年に「自閉スペクトラム症(ASD)」のグラフィックデザイナー・弥加(さやか)と結婚。当初は家事が極端にできず、仕事も立て続けに辞めていたが、妻の協力の末、現在はホームヘルパーとして勤務。名古屋と東京で遠距離夫婦生活を続けている。当事者の視点から、結婚生活においての苦悩や工夫、成功について伝えていきたい。
Twitter:https://twitter.com/Thera_kun

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