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連載

#11 記者が見た帰還

震災でつぶれたままの家、息をのんだ息子 原発事故の被害、伝える父

「人が住んでいて、生活があったんだ」

崩れたままの家が並ぶ鴻草地区を歩きながら妻と息子に話しかける大沼勇治さん=2022年1月29日、福島県双葉町、小玉重隆撮影
崩れたままの家が並ぶ鴻草地区を歩きながら妻と息子に話しかける大沼勇治さん=2022年1月29日、福島県双葉町、小玉重隆撮影

東京電力福島第一原発の事故から11年。いまでも全町民が避難を続ける福島県双葉町では今年1月から、帰還をめざす住民らが自宅に泊まれる「準備宿泊」が始まりました。震災後に生まれた子どもたちと妻と初めて泊まる大沼勇治さん(46)は、家族で訪れたい場所が町内にありました。

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「原子力明るい未来のエネルギー」考案者の一家に密着…記者が感じた「奇跡」
東京電力福島第一原発が立地する福島県双葉町で、今夏の帰還に向けた「準備宿泊」が行われています。大沼勇治さんは1月下旬、東日本大震災後に生まれた息子たちと地元に戻り、約11年ぶりに自宅に泊まりました。原発被災地に足しげく通い、取材してきた記者(31)が大沼さんの3カ月に密着しました。【記事はこちら】

屋根瓦の間から木

「(原発事故前は)一軒一軒に人が住んでいて、生活があったんだ」

大沼さん一家4人は1月29日昼、「帰還困難区域」の双葉町鴻草地区を歩いていた。草木が伸びてジャングルに囲まれたような家などが並び、どこもバリケードで門をふさがれている。

「えっ!」

大沼さんの後ろを歩いていた長男の勇誠君(10)が息をのんだ。目の前には東日本大震災の地震でぺしゃんこになったままの家があった。崩れ落ちた屋根瓦の間からは一本の木が伸び、足元の雨どいにコケがむしていた。私と大沼さんが3日前、言葉を失った家だ。

その家の脇にあったバケツの水面に次男の勇勝君(8)が手を伸ばすと、大沼さんは「触っちゃダメ」と注意した。事前に地区の空間線量を測定してはいるが、水は汚染されているかもしれないからだ。

鴻草地区を歩きながら妻と息子に話しかける大沼勇治さん=2022年1月29日、福島県双葉町、福地慶太郎撮影
鴻草地区を歩きながら妻と息子に話しかける大沼勇治さん=2022年1月29日、福島県双葉町、福地慶太郎撮影

目に見えにくいけど

大沼さんは道を歩きながら家族に語りかけた。「原発事故の被害は目に見えにくいけど、それを伝えたくて来たんだ」

さらに歩くと、大沼さんが小学生のころに友達と行った床屋があった。バリケードの向こうの建物は入り口の引き戸が開いたままで、室内に倒れたテーブルや青い箱などが散乱しているのが見える。

大沼さんは息子たちに説明した。「避難するときに戸締まりができなかったか、空き巣が入ってそのままにしたか。開きっぱなしだから、動物も入っていると思う」。勇誠君と勇勝君は、不安そうな顔で床屋のほうを見つめていた。

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