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キリスト看板、産み落とされる瞬間を見た 聖書配布協力会の制作現場
佳境を迎えた作業場に、初めて取材カメラが入った。
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佳境を迎えた作業場に、初めて取材カメラが入った。
田舎道を流していると、至るところで出くわす「キリスト看板」。この謎めいた看板が産み落とされる現場を見てみたい。年に一回の看板制作が佳境を迎える12月上旬、聖書配布協力会の活動拠点を訪ねた。(北林慎也)
黒地のトタン板に聖書の言葉が染め抜かれたキリスト看板。
郊外のさびれた農機具小屋などに、消費者金融の看板や政治家ポスターと並んで貼られているのが定番だ。
日本全国どこを走っても忘れた頃に目にするぐらい、文字通り神出鬼没の出現確率を誇る。
この貼り主は、宮城県丸森町に本部があるプロテスタント系クリスチャンの集まり「聖書配布協力会」。
自らの教義や教祖を持つ宗教法人ではなく、会の趣旨に賛同する支援者らが活動を支える。
日々、聖書を要約した冊子の配布やプラカードによる街宣といった「伝道活動」に飛び回っている。
このうち、キリスト看板を貼って回るのが「看板部隊」だ。
めぼしい場所を探しては家主に掛け合い、許可を得られるとそこに適した1枚を貼る。
家主側のリクエストに応えて選ぶこともあるという。
その実務を取り仕切るのが、23歳で洗礼を受けた朝岡龍さん(33)。
一昨年、青森県内での看板貼りの現場に押し掛けて同行取材させてもらった、アウトドア好きの頼もしいキリスト者だ。
今回さらに「看板を作る現場を見てみたい」と頼み込んで、作業風景の取材が叶った。
キリスト看板は毎年、秋から冬にかけて新たに作られる。
昨年までは、時期が来ると全国の遠征先から宮城の本部に戻って制作に着手していたが、今年は香川県さぬき市で制作を始めた。
本部が手狭になったため、会の協力者が経営していた建設会社の倉庫を借りて作業場に仕立てた。
今後は、これまで比較的手薄だった西日本での活動の拠点としても整備していくという。
コロナ禍で、学校前での冊子配布を控えるなど活動への影響は続いているが、看板貼りは徐々にペースを取り戻してきた。
よく出るMサイズを中心に、大きさや文言をバランス良くそろえるべく翌年に向けてストックを補充するのが、例年この時期に看板を作る目的だ。
12月上旬、佳境を迎えた作業場に案内してもらうと、10人ほどのメンバーが看板作りを続けていた。
同会は海外でも活動しているだけに、顔ぶれは国際色豊かだ。
12年前にタイから来日したサミュエル・ブラントンさん(30)はアイデアマンで、キリスト看板のデザインを模したウェアやバッグを手作りしている。
完成度の高さに驚いた記者が商品化とオンライン販売を提案したが、あくまで非営利の伝道のためのものだそうだ。
看板の作り方は、多くの人が想像するであろう手順とは異なる。
サイズごとに裁断された厚さ0.27ミリの白いトタン板に、まずは看板のアクセントとなる黄色い文字のあたりに、ざっくりと黄色の塗料を塗る。
しばらく乾燥させたのちに、文字部分をマスキングした木製の型枠やシルクスクリーンで、黒く塗りつぶす。
つまり、黒地のベースに白や黄色で文字を書いているのではなく、逆に、白や黄色の文字部分以外を黒く塗ることで、あの独特の風合いの看板ができていた。
この製法はいつ頃から伝わるのか詳細は定かでなく、朝岡さんがこの活動に就くずっと前から定着していたという。
この製法だと、風雨にさらされて黒地が色あせても文字自体のかすれは無いため、ずっと言葉が読み取れて掲示の効果が持続しやすい。
「特に(古くから活動している)東北地方では、半世紀近く前に貼られた看板がきれいに残っていて驚くことがあります」(朝岡さん)
一方でこの配色は、その一見おどろおどろしい警句と相まって、世間では「怖い」「不気味」といった反応も少なくない。
朝岡さんもそうした声は承知したうえで、「聖書の言葉をできるだけ目立たせて、多くの人の目に触れてもらうのが一番の目的」と、この先も変える考えはない。
塗料のシンナー臭が立ち込める工場然とした制作の現場は和気あいあいとしていて、お気に入りのBGMを流しながら、声を掛け合う共同作業では冗談も飛び交う。
ステンシル印刷の型枠に貼り付いたトタン板が作業台に落とされるたびに「ボワアアン」という鈍いバウンド音が高い天井に反響する。
意外に早い作業ペースによって、トタンの跳ね返る音が小気味良いリズムを刻む。
黒い塗料が欠けたトタン板の縁を筆でレタッチすると看板のできあがり。
倉庫に組み上がった木製のラックに立て掛けて、入念に乾燥させる。
この冬に制作したのは大小さまざま60種類、合わせて2920枚。
ラックに並べて春先までじっくり乾燥させたのち、看板部隊のワンボックス車に積み込まれ、掲出先を求め歩くことになる。
年末年始にメンバー総出で街頭に繰り出す恒例のプラカード宣伝活動を終えたら、この香川の新たな拠点を足がかりに、まずは岡山県内から新年の看板貼りをスタートさせるという。
代名詞とも言える名フレーズ「神と和解せよ」が「ネコと和解せよ」に改変されたコラ画像が出回ったり、出くわした看板を写真に収めてはSNSに投稿する「キリ看マニア」がいたりと、ネット界隈にも熱心なファンがいるキリスト看板。
「YouTubeやTwitterで公式の情報発信を始めたら話題になるし、伝道の強力な手段になるのでは?」と朝岡さんに水を向けたが、「(会には)シャイな人が多いですから……」とのこと。
かたや看板貼り活動については、「特に西日本ではまだまだ数が少ないところもあるので、これからも積極的に続けていきたい」と意気込む。
キリスト看板ファンは来年以降も、路上で新作を見つける楽しみが続きそうだ。
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