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「キリスト看板」聖書配布協力会の今 コロナの中、看板設置に変化
“3密”に配慮「命について考える時期」
新型コロナウイルス感染拡大の影響が、宗教活動にも及んでいる。街角でよく見かける「キリスト看板」で知られる聖書配布協力会の重要な活動は、家主に許可をもらい看板を設置すること。外出自粛や「3密」対策が求められる中、どうしているのか? 「命について、死について、考えない人はいないと思います」。伝統宗教とは違う形で続けてきた街宣活動の現状を聞いた。(北林慎也)
5月6日夕現在、新型コロナウイルスの感染確認「0人」が続く岩手県。感染防止に向けて県が定める「基本的対処方針」は、こんな一文から始まる。
「世界的に、聖書の黙示録を思わせるような、新型コロナウイルスの感染拡大が起きている」
文字通り、その聖書の言葉をかみしめながらコロナ禍に向き合う一団がいる。宮城県丸森町に本部がある聖書配布協力会だ。
プロテスタント系クリスチャンの彼らは「神の御言葉」を世に伝えるため、聖書を要約した冊子の配布や街宣といった「伝道活動」にいそしむ。
中でも有名なのが、黒地のトタン板に白や黄色で聖書の言葉が染め抜かれた「キリスト看板」。
その看板貼りを担当する「看板部隊」の朝岡龍さんに、現在の活動状況を聞いた。
キャンピングカー数台で集団生活しつつ、何カ月もかけて一つの都道府県内を回るのが、聖書配布協力会の本来の伝道スタイル。
朝岡さんによると、この手法自体が、新型コロナウイルスの感染拡大によって継続できなくなったという。
彼らは正月恒例である2020年の首都圏での街宣を終えると、年初から奈良県内で活動を続けていた。
しかし、国が7都府県に緊急事態宣言を出すなど拡大防止の取り組みが社会全体に広がると、現地でのキャンプを切り上げ、4月初旬に宮城に戻ってきたという。
朝岡さんは「その間、あれよあれよという間に学校が休校となり、外出自粛ムードになり、TVニュースはコロナの話題で持ちきりになりました」と振り返る。
小中学校前での冊子配布が主な活動の一つだったが、ほとんどの学校で休校措置が始まってからは、それもできなくなった。
ほどなく、車のスピーカーで聖書の言葉を伝える街宣活動や、プラカードを掲げた辻立ちが活動の中心となる。
その後、キャンピングカーでの集団生活のリスクも考慮し、奈良からの撤収を決めた。
現在は、県境をまたいだ移動も自粛せざるを得ない。宮城県内にとどまり、できる限りの活動を続けている。
いわゆる「3密」対策に配慮しながら、街宣やパンフレット配布を継続しているという。
それに加え、キリスト看板貼りの活動もやめてはいない。
看板の設置に適した建物や塀を見つけると、家主を訪ねて設置許可をもらうのが、看板部隊にとって重要かつ最大のミッション。
朝岡さんによると、外出自粛の広がりで家主が在宅している確率も高まり、許可を得て設置できるチャンスも結果的に増えているという。
「もちろん常識的なエチケットとして、マスクの着用や、対話する際のお互いの距離などに十分配慮しながら、活動は続けていこうと思っています」
キリスト看板ファンにはうれしい、朝岡さんの固い決意だ。
歴史的に、疫病と宗教の関わりは深い。
新型コロナウイルスの世界的流行と社会の混迷を、朝岡さんはキリスト者としてどう見ているのか。
「聖書には『全世界に出て行き、全ての人に福音を宣べ伝えなさい』、また別の箇所には『時が良くても悪くても、しっかりやりなさい』とあります。
今の状況は『悪い時』かもしれませんが、世界中で多くの犠牲者が出ている中で、命について、死について、考えない人はいないと思います。
聖書配布協力会の配布物に限らず、人々が神の言葉に興味を持ち、聖書や簡単なパンフレットだけでも読んでくれることを祈っています」
彼らが拠点とする丸森町は2019年10月、台風19号による大雨で甚大な被害に見舞われた。
朝岡さんらは当時、伝道活動を急きょ取りやめ、支援物資を避難所に届けるなどの救援活動に注力している。
「聖書には『あなたに善を行う力がある時、求める者にそれを拒むな』とあります。キリストの隣人愛の実践として、我々はそういう面での労力は惜しみなく捧げるつもりでいます」
収束が見通せないままのコロナ禍においても、いずれ必要な局面になれば奉仕活動に励むつもりだ。
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