連載
#12 #自分の名前で生きる
ネットで見つけた同姓同名の人 作家・水野梓さんに水野梓が聞いた
ペンネームと旧姓、使い分けて気づいたことは…
みなさんは同姓同名の人に出会ったことはありますか? 筆者は同姓同名の作家が今春、小説を出版していることに気づきました。調べてみると「水野梓」はペンネームで、本業では自分と同じように記者をしているとのこと。不思議なご縁を感じて、「名前」について思うことを聞きたいとインタビューを申し込みました。(withnews編集部・水野梓)
水野梓さんに気づいたきっかけは、前に携わっていたサイトの編集長から「〝水野梓〟の検索流入が増えているけど、何かあったの?」と聞かれたことでした。
「何かやったかな…」とハラハラしながら自分の名前を検索してみると、4月に作家・水野梓さんが『蝶の眠る場所』(ポプラ社)を出版されていました。SNSで「次回作を楽しみにしています」という、わたしにとっては謎のメッセージをもらったことがあり「これだったのか!」と合点がいきました。
同姓同名で、しかも同じ業種。ぜひお話を聞きたいとインタビューを申し込むと、水野さんも快諾してくれました。
小さな頃は新聞記者になりたかったという水野さん。本名は「鈴木あづさ」さんで、日本テレビの経済部デスクとして財務省と内閣府を担当されています。いただいた名刺は、経済部デスク、BS日テレ『深層NEWS』金曜キャスター、そして小説に出てくる彼岸花があしらわれた「作家・水野梓」の3枚でした。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
私も不思議です。むしろ後出しの水野梓ですみません。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
そうなんですか! 私の名前の由来は神事などに使われた「梓弓」なんです。
梓という木はなかなか折れず、弓にしてもしなやかにたわむんです。今でいう「レジリエンス」というのか、しなやかで強い子に育ってほしいとつけられました。
梓弓はひらがなにすると「あづさゆみ」だったので、そのままの字になりました。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
ひらがなでもかなり間違われます(笑)
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
祖母が「水野冨美子」といって、東洋英和女学校の国語の先生だったんです。柳原白蓮や『赤毛のアン』を訳した村岡花子を教えたというのが自慢でした。
家を訪れると、いつもお小遣いのかわりに新しい本を一冊買って待っていてくれて。『いやいやえん』『小さいモモちゃん』シリーズ、『ガラスのうさぎ』『モモ』……。おばあちゃんの家はいつもわくわくする物語の世界の入り口でした。
水野梓さん
96歳のとき火事で亡くなってしまったのですが、独り暮らしで自活し、前日まで万葉集を図書館で引き写していたそうです。
自分に厳しく人に優しく、それでいてユーモアがあり、いつも教え子が家に遊びにきていました。「凜として立つ明治の女」という感じでかっこいいなぁ、私も祖母のような生き方がしたいと思ってペンネームを「水野梓」としたら、水野さんに出会えました(笑)。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
実は他にもいろんなペンネームを考えていたんですけど、別の出版社の編集者さんに「水野梓ってどうですかね」と聞いてみたら、「『水のある大きな野原に、すっくと立つ梓の木』という情景が浮かびます」と言ってもらえて。
「水があって、大地があって、木がある」って、確かに美しいなと思いました。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
実は仕事上の「鈴木あづさ」は結婚前の旧姓なんです。だから今は、仕事上で使う旧姓と、9歳の息子と同じ結婚後の姓と、ペンネームを三つ使い分けています。
水野梓さん
パスポートにはかっこがきで旧姓を入れています。旧姓で仕事をしているので、国際会議やオリンピック取材の記者証は「鈴木」でとらなければいけません。
でも、パスポートとの整合性がないので入れてもらうまですったもんだしたこともあります。
給与口座は鈴木ですが、「口座名と違う」としてクレジットカードが作れないといった不便は日常茶飯事です。とにかく面倒ですよね。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
逆に三つも名字があると、もはや思い入れもないし、正直「どれでもいいじゃん」という感覚になってきます(笑)。下の名前の方が愛着がわいて、「タイトルがどうであっても、私は私なんだから……」と思うようになりました。
ただ、選択的夫婦別姓制度は「選択」なのだから、当然、別姓の夫婦を認めてもいいじゃないかと思います。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
そうですよね。姓を変えたくない人が3割以上いて、その人たちが不幸なままのシステムで良いんですか?と疑問です。少数派を捨て置く、不寛容な社会でいいのでしょうか。
水野梓さん
いま梅棹忠夫さんの『女と文明』という本を読んでいます。1950~60年代に書かれた家庭論ですが「妻無用論」をぶち上げていて、めちゃくちゃ面白い。
水野梓さん
文明の利器があり家事全般が楽になってきているのだから「専業主婦なんて無用」「外に出て働け」とすごくラジカルなことを言っているんです。ところが出版当時、主に女性から「子どもはどうする」「子どもには母親が必要だ」と批判が噴出したそうです。
ここに、選択的夫婦別姓反対論者の「子どもの姓はどうするんだ」「子どもにファミリーネームがあった方がいい」と言い募るのと同じ構図が透けて見えるような気がします。
水野梓・withnews編集部
結婚する時に「同姓」か「別姓」かを選べるようにする「#選択的夫婦別姓制度」。反対する人からは「子どもがかわいそうだ」「いじめられる」といった意見が出てくることがありますが、本当にそうなのでしょうか?
— withnews (@withnewsjp) October 16, 2018
両親が別姓の子ども3人に本音を聞いてみると……https://t.co/70zRzGMy8q #withnews pic.twitter.com/kIp9rZOEOF
水野梓さん
「子ども」がスペードのエースみたいに使われてしまうことが往々にしてありますよね。
私は子どももひとつの人格だと考えています。「子どもが一定の年齢になったら好きな姓を選ぶ」という制度でいいと思います。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
でも、私も自分の中の「昭和性」とせめぎあっていますよ。結婚した時も「夫を台所に入れてはいけない」とか思っていましたし。
教育で刷り込まれた部分もありますし、40代で就職氷河期で、社会的規範に自分を合わせていかないと活路が見いだせない世代でもありました。だから自分の中の「葛藤」が社会の縮図なんだろうと思っています。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
今、まわりの同僚は入社したての23~24歳の女性が多くて。
大臣に若い女性が花束を渡しているのを見て「あれは古いです」「昭和です」って指摘するんです。
水野梓・withnews編集部
水野梓さん
確かにそうですね。「この人になら言っても大丈夫」って思ってもらえてるのだとしたら嬉しいです。言いにくいことを指摘してくれる環境をつくることも大事だと思います。
選択的夫婦別姓がなかなか導入されないこともそうですが、転勤制度など、まだまだ女性の社会進出を阻むシステムが残っていますよね。
水野梓さん
取材していても「なぜジェンダーギャップ120位に甘んじているんだろう」と怒りをおぼえます。ペンの力で変えようとしても、すぐには変えられない。
取材したり本を書いたりすることで、誰かがその問題に気づいて踏み出すきっかけをつくりたい。頼もしい後輩たちと一緒に大きなうねりにつなげていくしかないと思っています。
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