感動
難病の愛猫が回復…飼い主に届いたのは、ピカピカになったスープラ
落札者から、快気祝いのサプライズプレゼント
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落札者から、快気祝いのサプライズプレゼント
難病の愛猫の治療費捻出のため、27年間乗り続けた左ハンドルのトヨタ・スープラをヤフオク出品した飼い主。愛車は無事に落札され、根気強い投薬治療で猫は元気を取り戻しました。安堵する飼い主に、落札者からサプライズの快気祝いが届きます。それはピカピカに修復された、あのスープラでした。(北林慎也)
この飼い主は、大阪府在住の「leiz」さん。愛猫「しるく」の猫伝染性腹膜炎(FIP)発症が、今年5月に判明しました。
長らく不治の病とされてきた難病で、しるくの弟猫もこの病で亡くしています。
ただ、近年は投薬による治療例があります。
しかし、国内では未承認の試薬のため高額で、百万円単位の費用が必要でした。
そこで、leizさんは27年間乗り続けた愛車を売却し、治療費を工面しようと決心します。
北米向け輸出仕様のMA70型トヨタ・スープラ。希少な左ハンドル仕様です。
オークションサイト「ヤフオク!」に、総治療費の概算である270万円で出品しました。
この出品情報をたまたま目にしたのが、気になるクルマがないかウォッチしていた滋賀県在住の会社員「Yuto」さんでした。
「無事オーナーさん見つかって治療できますように…」と添えてTwitterに投稿すると、瞬く間に拡散します。
Yutoさんも、leizさんへの寄付を募る手法を調べるなど自ら支援に動きました。
そして迎えたオークション終了日。即決で落札したのは、大阪府内で建設業を営む「masakoba」さんでした。
ふと目にしたwithnewsの記事を読んで、実車の確認を待たずに購入を決めたそうです。
複数台の旧車を所有するカーマニアのmasakobaさんも過去に、大病を患った愛犬の高額治療の経験がありました。
masakobaさんは落札の翌日に、「修理が必要な箇所が多いから」と恐縮するleizさんからの割り引きの申し出を丁重に断り、270万円を一括で入金します。
長年連れ添った愛車を手放すという苦渋の決断を下したleizさんへの、同じクルマ好きとして最大限の応援でした。
ほどなくleizさんは、集まった寄付とスープラの売却代金を元手に投薬治療を開始します。
この善意のリレーはさらに大きな反響を呼び、地上波ゴールデンタイムのテレビ番組でも取り上げられました。
相次ぐ支援の申し出とYutoさんの助言を受けてleizさんが設けたオンラインの寄付窓口には、250人以上から総額50万円を超える善意が寄せられました。
中には、なけなしの小遣いを寄付した母子家庭の小学生もいたそうです。
これらたくさんの善意とエールが込められた投薬注射を、しるくは痛みとかゆみに耐えながら受け続けました。
病状が一進一退する局面もありましたが、しるくは少しずつ、かつての元気を取り戻していきます。
そして8月には、精密検査の結果が正常値に収まり、同月15日に最後の注射を打ちました。
治療期間は当初の予定から大きく延びてしまい、投薬開始からちょうど100日が経っていました。
現在は3カ月間の経過観察中で、2週間に1度の血液検査が続いています。
治療終了時点での取材に、leizさんは「皆さまのおかげでしるくが無事、回復することができました。本当にありがとうございました」と、あらためて支援への感謝を述べています。
コロナ禍が収束したら、そもそものきっかけを作ってくれたYutoさんや支援者を招いて謝恩パーティーを開くという夢もあります。
特に、この間ずっとLINEで励まし続けてくれた落札者のmasakobaさんには、いっそうの恩義を感じています。
それに報いるためにも、「再来年の2月の車検までに、必ずスープラを買い戻すべく頑張ります。そして、元気になったしるくと海岸線をドライブしたいです」と、治療を終えた後の目標を語っていました。
しかし、leizさんの新たな目標はすぐに、意表を突く形で消失することになります。
しるくが治療を終えた翌月のある日、自宅でくつろぐleizさんの耳に懐かしい、独特の野太い排気音が聞こえてきました。
あのスープラがピカピカになって、leizさんの元に戻ってきたのです。
leizさんの自宅前に止まったスープラから降りてきたのは、修復作業を手掛けた、masakobaさん馴染みのショップのスタッフたち。
ここにスープラを届けるよう彼らに依頼したのは、masakobaさんでした。
それは、leizさんへの快気祝いのプレゼントだったのです。
5月にスープラを落札した当初のmasakobaさんの計画は、手元でコツコツと修復しながら、治療を終えたleizさんが落札額と同じ値段で買い戻すまで、大切に預かっておくというものでした。
計画を打ち明けられたleizさんは、masakobaさんの厚意に応えるためにも、いつか愛車を買い戻すのを最終目標に自らを鼓舞しながら、しるくの投薬治療を続けてきました。
masakobaさんは落札したスープラを引き取ると、コンクリートを敷いた専用ガレージを会社の一角に設置。保管場所を確保してすぐに、修復作業に着手します。
エアロパーツや外装部品を取り外し、ボディパネルや車体の傷んだ箇所を補修しながら、純正色のスーパーホワイトで再塗装しました。
また、劣化したゴム部品や機関回りのパーツなどは可能な限り交換しました。
しるくの治療終了までに終わらせる計画でしたが、古い個人輸入車両のため部品を確保するのに手間取り、翌月にようやく完成しました。
完全なオリジナル状態に戻すことはせず、leizさんの思い入れのあるアフターパーツはそのまま、という粋なレストアです。
スープラの修復作業を進めながら、masakobaさんはしるくの回復を願い続け、leizさんを励まし続けてきました。
いっとき容体が悪化した際には、敬虔なクリスチャンでありながら初めて、京都の伏見稲荷大社で病気平癒を祈ってお守りをもらって来たり、leizさんの愛猫たちとスープラの写真をあしらった一点物のジグソーパズルを作って、願掛けに贈ったりしました。
そうやってleizさんを励ましつつも、難しい治療で困憊する姿を目の当たりにしたmasakobaさんは、「スープラも、leizさんにとって大切な家族。元気なしるくちゃんと愛車に囲まれた穏やかな日常を、早く取り戻してほしい」と願うようになります。
その思いは日増しに強くなり、スープラの買い戻しを待たずに無償でプレゼントすることを決めました。
leizさんへのスープラ返却当日、masakobaさん自身は「気を使わせたくない」との理由で、あえて立ち会いませんでした。
その日は一人で伏見稲荷大社に出向き、治癒のお礼参りをしたそうです。
「うまく言えないですが、leizさん一家には元の平和な時間を取り戻してもらい、私は徐々にフェードアウトしていこうと思ってます」
それにしてもmasakobaさん、格好良すぎるし気前が良すぎでは? 心意気に感嘆しながらも心配する記者の問いに、「いちど気になってしまうと、身内みたいに世話を焼きすぎてしまう性格なんです」と照れ笑いで答えてくれました。
実はスープラとは別に、数十万円の治療費を工面して、快く受け取ってもらうために「自分の仲間からの気持ちです」と偽ってまで寄付していたという、本当に世話焼きすぎなmasakobaさん。
「家族もみんな(leizさんの)ブログを通じて、すっかりしるくちゃんのファンです。
だからきっと、leizさんに買い戻してもらうなんて言ったら怒られると思います。
これからは(スープラの落札と修理でレストア作業が先延ばしになった)自分のクルマのために、頑張って働きます」と、明るく前向きに語っています。
masakobaさんから届いたまさかのサプライズに、leizさんは驚きを隠せません。
久しぶりに対面した愛車は、「いつか直さなきゃ」と思っていた、あらゆるところが修復されていました。
「さすがに、このまま受け取るわけには…」と恐縮するleizさんに、一本気なmasakobaさんの性格をよく知るスタッフは「彼はそういう人間ですから。どうぞ受け取ってください」と言い残して去っていきました。
masakobaさんがスタッフに託したleizさんへの手紙には、こう書かれていました。
「しるくちゃんの病気のことを知ったのが、何年も前のことのように感じています。
スープラは無償でお受け取りください。
いろいろと直してきました。まだできていないところもありますが、お返しできるぐらいにはなったのではと思っています。
以前に送ったジグソーパズルにたとえると、スープラはleizさん一家にとって大事な、最後のピースのようなものです。
leizさんのご家族に幸せが訪れるよう願ってます」
leizさんはmasakobaさんの心遣いにいたく感激しながらも、「ぜひいつか、元気になったしるくに会いに来てもらい、感謝の気持ちを直接伝えたうえで、(スープラをどうしたらよいか)相談したいと思ってます」と話しています。
たくさんの善意と愛情、励ましを受けながら、しるくは11月の精密検査に向けて経過観察が続きます。
leizさんは支援へのお礼と感謝を込めて、ブログでしるくの近況報告を続けるとのことです。
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