ネットの話題
27年乗ったスープラをヤフオク出品 「難病の愛猫のため」に支援の輪
「皆さんの想いを注射に込めて打ってもらいます」
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「皆さんの想いを注射に込めて打ってもらいます」
27年もの間、大切に乗られていた希少な左ハンドルのトヨタ・スープラ。ひっそりとヤフオクに出品されているのを見つけた男性がツイッターで紹介すると、大きな反響がありました。出品は、難病の愛猫の治療費を工面するための苦渋の決断でした。クルマ好きと愛猫家たちの間で、交流と支援の輪が広がりつつあります。(北林慎也)
滋賀県在住の会社員「Yuto」さん(26)は大のクルマ好きで、ネットサーフィンで面白いクルマ情報を見つけてはツイッターに投稿しています。
その日もぼんやりと、オークションサイト「ヤフオク!」で希少なクルマの出品情報を眺めていました。
ふとYutoさんの目に止まったのは、270万円で出品されていたトヨタ・スープラ。
ロングノーズとリトラクタブルヘッドライトが特徴的なMA70型で、本格スポーツ志向となった後継の80スープラとはまた違った、おおらかでアメリカンな雰囲気が魅力の一台です。
しかも、左ハンドルの北米向け輸出仕様という希少モデル。気になって商品紹介画像をスワイプしていくと、なぜか飼い猫の写真が載っていました。
慌てて商品説明欄を読み返すと、Yutoさんはそこに書かれていた売却理由に驚き、そして思わず、自身のツイッターにその出品内容を投稿したのです。
愛猫の治療費捻出のために、やむなく愛車の70スープラを出品していた大阪府在住の「leiz」さん(52)。
彼が異変に気づいたのは、Yutoさんのツイートから間もなくのことでした。
70スープラの出品ページに、急にアクセスが殺到したのです。
不思議に思っていると、「出品者への質問」欄に「ツイッターで拝見しました」「応援してます」といったコメントが続々と届きました。
ツイッターをやっていなかったleizさんは、「この人が紹介してくれてます」というコメントを頼りに、新たにアカウントを作ってYutoさんの投稿を確認。探りさぐりDMでやり取りを始めて、電話で感謝の気持ちを伝えました。
10日につぶやかれたYutoさんの紹介ツイートは、すでに3.2万超のリツイートで拡散され、leizさんの出品情報は1000人以上がウォッチリスト登録しています。
寄せられた励ましの声を見て、leizさんは思わず涙したそうです。そして、質問欄に寄せられる全てのコメントに、感謝の言葉を返しています。
拡散のきっかけとなった紹介ツイートをしたYutoさんは、コミック「頭文字(イニシャル)D」や映画「ワイルド・スピード」シリーズを見て育った、根っからのクルマ好きです。
もともと走り屋系が好きでしたが、SNSを通じたクルマ仲間の影響で欧州車にも惹かれるようになりました。現在は、トヨタのAE111レビンとメルセデス・ベンツCクラスのステーションワゴンを所有しています。
そして、家族で猫3匹と犬1匹を飼っている大の動物好きでもありました。
愛猫の治療のためにleizさんが出品した70スープラは、アメリカ留学帰りの友人から1994年に譲り受けて以来27年間、大切にしてきた一台です。
国産車なのに、マイル表示メーターで左ハンドルの輸出仕様。ETCが普及する前は、高速道路の料金所で車から降りて精算するたびに、後続車から驚かれたそうです。
珍しい仕様のため購入当初はトラブルも多く、信頼できるショップを探し回ってコツコツと仕上げてきました。
転勤を繰り返す間もずっと乗り続けた愛車を手放すという、leizさんの重大な決意。
その出品情報を偶然見つけたYutoさんは、同じクルマ好きの愛猫家として、自分が生まれる前から乗っていた愛車を手放すことの痛みと、それに代えても救いたいという飼い猫への深い愛情に衝撃を受け、思わず自身のツイッターでフォロワーたちに紹介したのでした。
Yutoさんのツイートは、本人の想像以上に猛烈に拡散しました。
治療法の助言のほか、「左ハンドル車の購入は難しいが、クラウドファンディングなどで支援できれば」といった声が多く寄せられ、それを見てYutoさんは自らも支援に動き出します。
「自分のツイートがきっかけで、たくさんの人が動いてくれようとしている。こうなったら、行けるところまで行こうと決めました」
看病に追われるleizさんに代わって自ら、ツイッターのDMで適切な支援方法のアイデアを募りました。
そして、リプライで寄せられた助言を参考に、クラウドファンディングやPayPayを活用した寄付などの仕組みを調べて、実現可能な支援の可能性を探りました。
一方、leizさんもまた、Yutoさんとの交流や励ましの声を受けて、ある決意を固めました。
本末転倒にならないように、支援に甘えず、当初の考え通り70スープラは必ず売却すること。
その上で、寄せられた思いを何らかの具体的な形にして、その人たちに感謝の気持ちと共に還元したい、という思いです。
このほど12歳のメス猫「しるく」が発症したのは、「猫伝染性腹膜炎(FIP)」という病気です。
物怖じしない社交的な性格のしるくでしたが、先月末に別の愛猫を亡くした前後から食欲が無くなり、検査で感染が発覚しました。
leizさんにとって、飼い猫がこの病気にかかるのは2回目でした。
しるくの弟猫「せぴあ」も、7年前に同じ病気で亡くしていたのです。
この病気は長らく不治の病とされていましたが、近年は投薬による治療例があります。
ただ、未承認の試薬のため高額で、体格のいい成猫の場合は百万円単位の費用がかかってしまいます。
70スープラのヤフオク出品は、そんな愛猫の治療費捻出のためでした。
90年代の国産スポーツは近年、価格相場が急上昇しています。さらに左ハンドルという希少性と、タービン交換を始めとする本格チューニングを鑑みて、「マニアが見つけたら買ってくれそうな金額」であり、かつ、想定されるしるくの投薬治療費の見積もりの結果が、270万円という出品価格だったのです。
ただ、やはり左ハンドルというのがネックになってか、14日未明の時点で入札はありません。
それでも、15日のオークション終了時点で買い手が付かなかったとしても、クルマ好きのツテを頼りに売却先を探すそうです。
一方で、同じ病気で愛猫を亡くした人、あるいはクラウドファンディングなどで支援を募りながら懸命の治療を続けている、同じ境遇の愛猫家が多くいることを、今回の反響によってあらためて知らされたといいます。
そこで、leizさんは今回の拡散と、今後の治療の経過の発信によって、FIPという難病の存在と、現在は高価な試薬しか治療法が無い実情を多くの人に知ってもらい、治療を巡る状況の改善につながれば、と考えるようになりました。
さらに、Yutoさんを始めとする、支援を申し出てくれている人たちの気持ちを、治療薬という形に変えてしるくに与えることで、「多くの人の励ましが、きっとしるくに力を授けてくれるはず」とも考えています。
具体的に検討しているのは、元気な頃のしるくの写真のダウンロード販売や、PayPayでの少額送金などです。
いずれも今回の反響の中で教わった方法で、今後、自身のブログで検討結果や治療の経過を報告するとのこと。支援に対するお礼の形についても検討していて、アイデアを募っています。
leizさんはあらためて、拡散のきっかけとなったYutoさんや多くの支援の声に感謝するとともに、ブログの報告エントリーをこう結んでいます。
「すみませんが、闘病中のしるくに力を貸してください。皆さんの想いを注射に込めて打ってもらいます」
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