ネットの話題
夏休みの宿題、最後日まで残した少年の〝その後〟父は「斬新だな」
自由研究の本質に「さまたげない教育」
夏休みも残り少なくなると、焦り始めるのが宿題の量……。これを逆手にとって、2年前の夏にとても話題になった自由研究があります。制作者は、岩手沿岸の町に住む小学6年生。彼のその後を家族に聞きました。
自由研究のタイトルは、「宿題をさいごの日まで残しておいた時の家族と自分の反応」。
記者もInstagramで読んで思わず噴き出してしまいました。
投稿主を見ると、岩手県久慈市の自動車板金塗装店の名前が。
この店のホームページを開くと、「マスコットは鈑金塗装子ちゃん」「300年つぎ足した秘伝の塗料」とうたっており、面白さが漂っています。
店に電話をかけると、「社長はいま塗装中……。あっ、今終わりました!」。
板金屋2代目の佐々木睦(まこと)さん(39)が応じてくれました。
――この斬新な自由研究をされたのは、どなたでしょうか。
息子の大(まさる)です。
――当時は小6だったので、今は……?
中学2年生です。地元の中学に通っていて、剣道部に入って夏休みは毎日のように練習に行ってるみたいです。
――当時は取材もたくさん来ましたか?
一日中、店の電話が鳴りっぱなしでした。テレビも新聞もネットメディアも、いっぱい来ました。息子は「全部受けてちょうだい」と言ってノリノリでしたが、ワイフ(妻)と話して、取材には子どもは出さないことにしています。
本人の話を聞きたかったので残念ですが、日記形式でノート1冊にまとめているこの研究の一部を、紹介します。
――宿題をやらなかったこの年の夏休み、大くんはどう過ごしていましたか。
息子は毎日のようにプールに行ってましたし、家族でキャンプに行ったりして堪能してました。
――日記にも生き生きとその様子が書かれています。「過酷な100キロ徒歩の旅に行った」とも。
小学生と付き添いの大人だけで、岩手の二戸市からぐるりと100キロ、3日かけて歩くイベントですね。
小4、5、6と自分から3年連続参加して、歩き通したみたいです。
すごいですよねぇ。
――お店とご自宅は、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」の舞台として有名な、岩手県久慈市にありますね。
沿岸からは数キロ離れていて、「あまちゃん」で有名になった小袖海岸とは10キロぐらい離れています。
私が子どものときはしょっちゅう釣りしてましたけど、今の子たちは全然、自然の中では遊びませんっけね。
――日記で焦りが見えてくるのは、夏休み残り3日ごろからですね。
全然知りませんでした。ふだんからうちは宿題は「子どもにお任せ」で。
――ふだんから、ご両親ともに何も言わない?
はい。勉強しなさいというスタンスは好きじゃなくて。
宿題をやるよりも、元気に育ってくれればそれでいいです。
息子3人はいつも、おのおの床で寝転がって宿題をやっていたりやっていなかったりです。
「やっててもやってかなくても自分のせい。やってかなければ怒られんのは自分だべ」っていっつも話しています。
――そして明日で夏休みが終わるという日。家族に事実を告げます。それまで全く明かされなかったんですよね?
はい。たしか夜、私が帰ってきたら、リビングで言われた気がします。
「ふざけてるな」と思いましたが、思わず「斬新だな~」と思って笑ってしまいました。
とっさに出た一言は「ま、いいんでねえか」だったと思います。
最終日の日記には、こう書かれています。
――圧巻の文才ですね。
本人はことあるごとに、何かと比べて「俺の自由研究の方がすごかった」と冗談で言いますが、家族はみんな「あーはいはい(笑)」と流していますよ。てんぐになってもよくないですしね。
――ネット上のものを切り貼りしたりキットを買ったりして自由研究をすませる人も多いですが、どうお考えですか。
ま、別に自由でいいんじゃないでしょうか。自由研究なんだし。
銭はかけないようにとは思いますけど。
――今年の夏休みは、息子さんはどのように過ごされていますか?
毎日のように剣道部の練習があるみたいで、行ってます。
あとは任天堂スイッチのゲームを楽しみにやってますね。
うちは1日1時間と決めているんで。
チャリンコで友達と町(繁華街)の方にも遊びに行ってるみたいですっけよ。
勉強はそんなに好きじゃないみたいですよ(笑)
――文章に引き込まれたのですが、本を読むのが好きだったりするんでしょうか?
愛読書は、リビングに並んでる『こちら葛飾区亀有公園前派出所』ですね。
もともと私が持ってたんですけど、途中から自分で集めるようになって、今では全200巻。
小学生のころから何度も何度も読み返してて、今でも自分の部屋でもトイレでもどこででも読んでます。
――渋いですね!
彼の今の夢は、東京に行って、こち亀の舞台の亀有に行くことですからね。
――ちなみに弟さんも自由研究はぎりぎりまで未着手になりそうですか?
小5の次男は、もう7月からやり始めてるみたいで、なんか騒いでましたよ。
内容は全然知らないですけど、自分の子どもの頃を考えても早いですよね。
筆者は最近、息子(4)と本屋に行った時、児童書コーナーの横に、自分の子ども時代にはなかった「自由研究キット」が山積みになっていて、驚きました。
自由研究の「自由」って、何だっけーー。
疑問に思うと同時に、以前「これぞ自由!」と話題になっていたこの研究が思い出され、すぐに取材を申し込みました。
住所を見ると、6年前まで記者が勤務していた岩手県沿岸。
懐かしい岩手弁でひょうひょうと語ってくれた睦さんは、拍子抜けするほど気負いがなく、「うちは子どもにお任せですから~」と何度も繰り返していました。
のびのびと育っている大さんの環境を実感しました。
後日、哲学者に、自由研究の「自由」とは何か、聞く機会がありました。
「子どもの関心や疑問を、さまたげなく展開すること」と話していました。
大さんの研究を見て、私は「こんな斬新な発想や文才はどんな環境から…」と安易に考えてしまっていました。
しかし、何よりもまず大切なのは、佐々木家のような、「さまたげ」のない環境だと教えられました。
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