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「自由研究」何のために始まった? 「幻の科目」4年で消えた理由

「魅力的だけどくせ者」足場を作って工夫

夏休み最後の日曜日の1986年8月31日、東京・日本橋のデパートの屋上で開かれた「宿題教室」で、宿題に取り組む親子
夏休み最後の日曜日の1986年8月31日、東京・日本橋のデパートの屋上で開かれた「宿題教室」で、宿題に取り組む親子 出典: 朝日新聞

目次

夏休みの宿題の定番「自由研究」ですが、何を研究すればいいのか悩んだ人もいるかと思います。自由という名前がついていながら、最近では、ネットで「お手本」の情報が出回るなど、その立ち位置がいまいちわからかない存在でもあります。その歴史は古く1947年にさかのぼり、最初は「科目」の一つでしたが、たった4年で姿を消します。その後、復活した「自由研究」ですが、どんな役割が期待されているのか。学校教育の歴史に詳しい、一橋大大学院の木村元・特任教授に尋ねると、「自由研究」の理想と課題が見えてきました。

 

木村元(きむら・はじめ)
1958年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科特任教授。著書に「学校の戦後史」(岩波書店)、「境界線の学校史 戦後日本の学校化社会の周縁と周辺」(編著、東京大学出版会)など。
 

教科として始まり、宿題として復活

――小学校の自由研究は、いつごろ始まったのですか?

自由研究は、1947年の学習指導要領に盛り込まれたのが始まりとされています。当時は算数や国語のような教科の一つに位置づけられ、子どもがそれぞれに関心を持ったことに取り組む時間として始まりました。


――どんな狙いがあったのでしょう。

普通、授業では教える内容が定められていて、子どもはそれを学びますよね。でも子どもって多様で、その枠を超えていきます。好きなことを伸ばしてあげたいというのは、教育の願いとしてあるものです。そんな時間を授業で確保しようとしたのでしょう。

ただ、それは4年間しか続きませんでした。


――なぜでしょうか。

そうした発展的な学習は通常の授業の中でやればいいという考えから、学習指導要領の改定の時になくなりました。

さらに高度経済成長がやってきて、系統的な知識・技術といった基礎的な学力を養うことが学校教育の軸になっていきました。

それが受験の学習へとつながり「いい学校に入りいい会社で働く」ことによって社会に認められる時代になって、当時目指された自由研究の理念は影が薄くなっていったのでしょう。

一橋大学大学院の木村元・特任教授
一橋大学大学院の木村元・特任教授 出典: 木村さん提供

――いったんなくなった教科「自由研究」が、夏休みの宿題として復活したんですか?

そうです。ただ、いつごろから復活してきたのかは史料が少なくはっきりしたことが言えません。

おそらく、子どもの関心を伸ばすことに立ち返ることが必要だろうという先生の意識が背景にあったと思われます。

今は学習指導要領に定められているわけではなく、各学校の取り組みとして行われていますが、子どもに有意義な夏休みを過ごしてほしいという意図から今日まで続いているのではないでしょうか。

先生の理想通りにはいかない

――なるほど。しかし、自由研究に苦労する子どもや親は少なからずいるようです。

確かに、「子どもの関心を伸ばす」という先生の理想通りに必ずしも展開してきたとは言いがたいですね。それも併せて、あり方が問われていると思います。

ある意味、自由研究は先生にとって出しやすい課題で、だからこそ続いてきた部分もあると思います。でも子どもからするとよく分からなくて、夏休みの終わりに焦ってやることもあるのかもしれません。

出典: Getty Images

――理想通りにはいかないと。

「自由研究」ってある意味で魅力的な言葉ですよね。テストで試されるのと違って、自分が好きなことを自由にやれる。先生も、日常では点数を気にしながらやるわけですが、もっと自由を大切にしたいという願いを持っていると思います。そのあたりのギャップが自由研究に表れているのかなと思うんです。


――自由研究の「自由」をどうとらえますか。

「子どもが自由に選ぶ」ということが大切だと思います。ただその「自由」がくせ者で、自分でやれる子はいいのですが、やはり足場がないと選べないということがあるのではないでしょうか。確かに子どもが自分で経験してきた範囲の中で選ぶのは難しいことです。

博物館や美術館に連れて行くとか、家に本がたくさんあるとか、文化的な資本がある家庭なら、親がうまく関与して進められるかもしれませんが、必ずしもそうでない家庭もある。選べる子と選べない子がいます。

先輩の研究に学べ

――「研究」という言葉にハードルを高く感じる人もいるのではないでしょうか。

新しいものや特別なものを生み出さなければ、という響きがありますね。それで親は身構えてしまって、教育産業の出している「キット」や雑誌の特集などに頼る場合もあるのだと思います。

大学の卒業論文を考えてみてほしいんです。論文は自分の発見を書きますが、新しいことを見つけるには、まず先行の研究を調べることが大事でしょう。今までのことを学んで、それと格闘しながら自分の知見を示す。これが研究というものに共通してあることではないでしょうか。

自由研究の歴史について語る一橋大大学院の木村元・特任教授=Zoomから
自由研究の歴史について語る一橋大大学院の木村元・特任教授=Zoomから

――なるほど。それを子どもに応用するには……。

例えば、過去の子どもの自由研究の例を見せてみてはどうでしょう。先生がリスト化して、宿題として出す前に見せてくれれば、なるほどこうやってやることもできるんだと分かる。子どもは、その中から面白いものを選び、自分なりにちょっと変えてみる、というのもひとつの方法になると思います。


――それは家庭でもできるかもしれないですね。ネットで調べれば掲載されていることがあります。

そうですね。やはりうまく足場を作ることが大切です。そのうえで、自由研究の「自由」は自分で選ぶこと、「研究」は工夫することなんだと伝えてあげるといいのではないでしょうか。

■今年の自由研究、お寄せください
この夏、どんな自由研究をしましたか? 面白かったもの、苦労したもの、ギリギリでやったものーー。
テーマや内容、経験談をぜひお寄せください。連絡先を明記の上、msta@asahi.com まで。
いただいた内容は、記事で紹介させていただくことがあります。

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