IT・科学
「自由研究は、完成しなくてもいい」 老舗雑誌「子供の科学」の教え
テーマ変更、途中でやめるのもOK
夏休みの自由研究では、工作や自然観察を選ぶ子が多くいます。締め切りに追われるなかで、納得いく形に仕上げるのは至難のわざ。最近では、〝自由な研究〟にもかかわらず、ネットで公開されている「お手本」に頼ってしまう人も少なくありません。そんな自由研究の悩みについて「途中でテーマを変えてもいいし、完成できなくてもいい」と話すのは創刊97年の老舗科学雑誌『子供の科学』の根岸秀編集長です。自由研究への向き合い方について聞きました。
『子供の科学』とは:1924年創刊の子ども向け科学雑誌。第一線で活躍する研究者への取材をもとに、工学、化学、物理から医学、薬学、数学、ITまで幅広いテーマを扱う。
昨春の突然の一斉休校の際は、ウェブ上でバックナンバーを無料公開して話題を集めた。
公式サイト「コカネット」では、実験や工作、自然観察、プログラミングの第一線で活躍する専門家が自由研究のテーマを教える特集「夏休み自由研究スペシャル」(https://www.kodomonokagaku.com/jiyukenkyu)を組んでいる。
――『子供の科学』の読者は何歳ぐらいでしょう?
小学校3年生ぐらいから中学生ぐらいまでが多いです。中には就学前の子もいますし、大人で読んでくださっている方もたくさんいます。
――今の親世代が子どもだった頃と比べて、過去20~40年のテイストの変化はありますか?
デザインなど見せ方は変わっていますけど、基本の考え方は変わっていないと思います。知識だけ頭に入れて終わりとするのではなく、自分の手を動かすことを大事にして、自分で実験や工作をして過程や結果を確かめ、考えてもらうことを変わらず大事にしています。
昔の号を見ると、今よりも難易度の高い工作が紹介されていて、昔の子の方が工作力は高かったのかもしれません。しかし今でも、面白いものや紹介する価値があると思ったものは、やや難易度の高いものも紹介しています。
――あえてハードルは下げない?
あまり子ども扱いするのはよくないと思うんですよね。子どもたちは興味を持ったものなら1人でもどんどん先に進められる力を持っていて、言葉にしなくても、大人が思っているよりもずっと物事を深く考え、学んでいると思います。
だから、工作についても、難易度は高くても「面白い」「やってみたい」と感じてもらえるようなものをできるだけ紹介していきたいと考えています。
――正直にお話しすると私自身、小学校高学年の時に初めて『子供の科学』を読んで、あまりに本格的で高度で、「同年代の子たちはこんなに難しいことがわかるのか」と軽くパニックになった記憶があります……。今読んでも難しいところも……。
全てを理解するのは大人でも難しいかもしれません(笑)
雑誌なので、大切なことは、子どもたちが面白そうなところをひとつでも見つけ、科学に興味を持ってくれることだと考えています。そのためにも、なるべく偏りなく色々な分野を盛り込むように気をつけています。
――夏休みの自由研究としては、今の小学生にはどんなテーマが人気なのでしょうか。今の親世代の20~40年前と比べて、違いってあるんでしょうか。
今年の4月号と7月号の巻末はがきでアンケートを取ったのですが、計310人ほどの結果を見ると、全体としてはテーマにそれほど大きな移り変わりはないようです。
7月号のアンケートではまず、夏休みの自由研究があるかないかを聞いたのですが、回答してくれた読者約80人のうち、「ある」と「ない」がほぼ半々でした。昨年もコロナの影響で自由研究をしなかった学校が多かったようなので、まだ影響が続いているのかもしれません。
そのうえで、「自由研究でどんなことをやろうと思っていますか」と聞くと、昆虫や植物、魚、植物の観察やスケッチ、実験・工作など、昔からの人気テーマが並んでいました。
「プログラミングを取り入れて何かをしたい」という子も複数いました。テーマ自体は変わらなくても、その手法は変わってきているかもしれません。
例えば、以前、ヒマワリの種のつき方を調べて研究成果を送ってくれた子がいました。ヒマワリの種が規則的に並ぶ様子をプログラムで描画してどんな図形になるか実験したり、種が配置されている角度(法則)を少し変えると図形がどう変わるのかを試したりしたもので、実験を進める中で「フィボナッチ数列」や「黄金比」のことも調べていて、素晴らしい研究でした。
――自由研究に、コロナの影響は出ているのでしょうか。
この夏、オンラインで自由研究フェスというイベントをやったのですが、12講座あったなかで、特に人気が集まったのが、国立天文台の縣秀彦先生を招いた「天体観測」でした。
コロナの影響でキャンプを楽しむ方が増えているようですが、もしかすると、そういった方たちの中で、望遠鏡で星空観察もしたいという方が増えているのかもしれません。
あと、これは自由研究に限らずですが、コロナ禍で家にいる時間が増えたことで、難易度や完成度の高い工作に取り組む子が増えているという傾向は感じます。
――工作と言えば、今年の7月号には、自由研究用に電子工作ロボットの作り方を書いた付録冊子がついています。「コッパーくん」と名付けられていて見た目はかわいらしいものの、作り方を読んでいると、複雑な配線図が出てきて、難しそうです。
おっしゃる通り、決して簡単な工作ではないと思います。ただ、これは「作ってみたい」と思ってくれた子が多いみたいです。ポータルサイトで販売している部品は、想定の倍以上の売れ行きを見せています。
――小さい頃の私のように、途中で「できない……」となってしまった子にメッセージはありますか。
夏休み中に最後まで完成できなかったとしても、自分で手を動かして考えたこと、試してみたことをまとめてみてください。夏休みの後に続けて完成させてもいいと思います。
完成させることで一つの達成感は味わえると思いますが、それに縛られすぎなくてもいいのではないかと思います。
完成だけを目的にしてしまうと、「途中から親が全部やってしまう」というようなことにもつながりかねませんから。
未完成でも、自分で考えたこと、試したことをちゃんとまとめた方が、よい経験になりますし、何より、結果だけを追って確認していく作業よりもずっと楽しいはずです。
――自由研究については、取材した小学生親子から、突然「自由」と言われても難しいという声も聞きました。
自由って何かという話にもつながりますけど、自由研究については、何をやろうか選ぶときに、自由がもたらすある種の拘束もつきまとって、そこで悩みが出てきたりもします。読者からも「どうやってテーマを決めたらよいのか」といった悩みが多く寄せられます。
自由研究というと、はじめにテーマを決めたら、最後までそのテーマをやり切らないといけないと思うかもしれません。でも、途中でテーマを変えてもいいと思うんです。
テーマを追っていくうちに、こっちの方が面白そう、こっちの方が不思議、というのはどんどん出てくると思いますから、それに合わせて変えたり、途中でやめたりする選択肢はあり、それも含めて自由なのかなと思います。
――書店やネット上には、割と簡単に組み立てるだけ、混ぜるだけの自由研究キットがたくさん売られています。この現状は、どうとらえていらっしゃいますか。
これは正直、どちらの意見もわかるんです。
今の子どもたちは塾や習い事などで使える時間が限られていて、保護者の方も忙しい。そうした状況で、結果が見えやすいキットに頼りたい気持ちもわかりますし、実際に学べることもあると思います。
我々も読者から『難しい』という意見をもらうことがあるので、取り組みやすくしたい気持ちもある。一方で、昔からの『子供の科学』をよく知っている先生からは「キット化」の傾向に厳しいご意見もあって、やはり、できるだけ自分で手を動かし、考えることを大事にしていきたいという気持ちも強い。
バランスを考えた結果、本誌と同様に付録やキットでも、作りやすいものだけでなく、難易度は高いけれどやりがいのあるものを紹介してきました。
――親が自由研究を手伝う家庭も多いようですが、その際に気をつけることはありますか。
薬品や刃物など、危険な物を扱うときは手助けが必要な場面もあると思いますが、とにかく子ども自身が考えて、手を動かすのを大事にすること。それに尽きると思います。
――それ以外に、親が助けられることはありますか。
情報の扱い方、調べ方を一緒に考えることでしょうか。例えば、信頼できる専門家を見つけ、その人がすすめているリンクや本、雑誌を見るのもいいと思います。
どう検索すれば知りたい情報にたどり着けるのか、科学的により正確な情報を得るにはどうすればいいか、そもそも正しい情報かどうかをどうやって判断すればいいか、子どもと考えてみるのもいいかもしれません。
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