連載
#3 #医と生老病死
「胃ろうは非人道的」ですか? 佐々涼子さんが向き合った終末期医療
大切なのは「割り切れなさを割り切れないまま考え続けること」
7年にわたって在宅医療の現場へ通ったノンフィクションライターの佐々涼子さんは、母の難病がきっかけで取材を始めたといいます。「想像と違って、医療は一部にしかすぎず、日常が戻ってくる感じだった」と振り返ります。医療が高度化して選択肢が増えている現代ですが、「割り切れなさを、割り切れないまま考え続けることが大切」と言う佐々さんに、終末期医療との向き合い方のヒントを聞きました。
佐々涼子:1968年、神奈川県生まれ。日本語教師を経て、ノンフィクションライターに。2012年『エンジェルフライト国際霊柩送還士』(集英社)で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『駆け込み寺の男』、『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(ともに早川書房)など。
『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル):
2020年2月出版。第3回Yahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞を受賞。
2013年から取材を始めた京都の診療所。そこで200人もの患者を見送ってきた「看取りのプロフェッショナル」である友人の看護師に、がんが判明する。自身の最期の迎え方は――。「これは、私の友人、森山文則さんの物語」。難病の母と、「完璧な介護」で母を支える父の姿をまじえながら、さまざまな「命の閉じ方」と向き合った作品。
――『エンド・オブ・ライフ』で在宅医療の現場に同行し、さまざまな命の閉じ方をみてきた佐々さん。ベストセラーの『エンジェルフライト』を含め、「死」にまつわるテーマを描かれることが多いように感じました。
周りからは、自分で選んで、現場に突っ込んでいっているようにしか見えないと思うんですけれど、どちらかというと「出会ってしまう」という言い方に近いと思っています。
――在宅医療の現場を取材しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
私の母は難病で、在宅で療養していました。編集者さんから「在宅医療のいいお医者さんがいる」と紹介していただきました。ほかの人はどうしているのだろうと思い、取材にいかせていただきました。
――そのほかにも、美しい妻と子どもがいても冷たく当たり、「子どもを作る気はなかった」と言ってしまう男性も出てきました。身につまされましたし、こういったきれいごとではない状況もたくさんあるのだと感じました。
苦しい状況の中で、そうふるまってしまう人もいますよね。理解できるところもあって、とても責められないと思いました。本当にいろいろな人生があるんだろうなと思いましたね。
――『エンド・オブ・ライフ』の中では、臓器移植や胃ろうなど、昔の医療なら助からなかった命の話にもふれられています。私も「臓器移植」は当事者の方々を取材してきました。終末期医療に関しても、昔だったら「神様にお任せ」「祈るしかない」というところが、今は選択肢が増えている……そういうつらさもあるなと思います。
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