連載
#2 #医と生老病死
感動話だけじゃない…在宅医療のリアル 佐々涼子さんが託されたもの
自分は透明な管のようなもので、受け取ったものをそのまま読者に渡すことができたらいいんじゃないか――。ノンフィクションライターの佐々涼子さんは、7年にわたって在宅医療の現場へ取材を重ね、さまざまな「命の閉じ方」を見つめてきました。その取材で出会った看護師・森山文則さんは、がんになって49歳で亡くなります。森山さんに「頼みます」と託されたものを、佐々さんはどのように受け止めてきたのでしょうか。
佐々涼子:1968年、神奈川県生まれ。日本語教師を経て、ノンフィクションライターに。2012年『エンジェルフライト国際霊柩送還士』(集英社)で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『駆け込み寺の男』、『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(ともに早川書房)など。2020年2月に『エンド・オブ・ライフ』を出版。
『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル):
第3回Yahoo!ニュース|本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞を受賞。
2013年から取材を始めた京都の診療所。そこで200人もの患者を見送ってきた「看取りのプロフェッショナル」である友人の看護師に、がんが判明する。自身の最期の迎え方は――。「これは、私の友人、森山文則さんの物語」。難病の母と、「完璧な介護」で母を支える父の姿をまじえながら、さまざまな「命の閉じ方」と向き合った作品。
その森山さんの過ごし方をジャッジすることなく、ただ素直に正直に書きました。
それをどう受け止めるか。あとは読者の方を信じて委ねるしかない。私の経験したことは分かって下さるだろうと信じて出したところがあります。
――本には、さまざまな医療・ケアの方々が登場しますが、本当に真摯に患者さんに向き合われていますね。そのなかに「死が怖い」とおっしゃる医師が登場したのが驚きでした。
今でも「怖い」って言ってますよ(笑)。「100歳まで生きると恍惚感の中で亡くなることができるらしいから、100歳までは生きます」って。
――亡くなる本人だけでなく、医療者も死との向き合い方はさまざまなんですね。
お医者さんって何でも知っている気がしてしまいますが、聞いてみるとそれぞれの死生観をお持ちだし、家族・自分自身との向き合い方も違います。考えてみれば当たり前なんですよね。
その反応を一番聞きたかった人がその場にいないというのはすごく残念でしたが、森山さんの声が届いているんだなというのはとてもうれしかったですね。
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