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「男子っておバカだよね」本当にそう? 離婚裁判で見た〝母の支配〟

ほほえましさへの違和感、常に可視化を

「男の子だから」で済ませていることありませんか?
(写真はイメージ=PIXTA)
「男の子だから」で済ませていることありませんか?
(写真はイメージ=PIXTA)

目次

母と息子の「恋人」のような関係が、広告やSNS上で、ほほえましいものとして発信されることは少なくありません。男の子の子育てで「あるある」なこの空気を、どう考えればいいのでしょうか。子育てにまつわるジェンダーバイアスについての著書が話題を集め、自らも息子2人を育児中の弁護士・太田啓子さんは「言葉を磨き合うレッスン」の重要性を語ってくれました。

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【息子とデート~親子の距離感考えた~】
今年5月、「ママと息子の初めてのお泊まりデート」をうたったホテルの宿泊プランが、SNS上で批判を浴びた後、削除されることがありました。CMやSNSで身近に見かける「子どもとデート」という表現。子どもへの愛情からくるものだから目くじらを立てるほどではないという人もいます。もやもやを抱えた子育て中の記者たちが、専門家とともに改めて考えてみると、子育ての在り方や、社会が子どもとどう向き合っているのか、現代の「親子の距離感」をひもとくヒントが見えてきました。8月9日から15日まで連日配信します。
1本目:「息子とデート」子どもを〝道具〟にする危うさ 親だけ満足でいい?
2本目:陳腐化する「子連れOK」尖った商品求めた結果の「息子とデート」
3本目:「息子とデート」にひそむ〝危険な一線〟 恋愛じゃなく所有の闇
4本目:「男子っておバカだよね」本当にそう? 離婚裁判で見た〝母の支配〟
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(朝日新聞デジタルに移動します)

自分に「呪い」をかけている?

――「息子とお泊まりデート」というホテルの宿泊プランが、ツイッター上で話題になりましたが、「息子=小さな彼氏」というイメージの広告やSNS発信はよくあります。

太田さん) 遊び感覚で言っているということは重々承知で、すごくかわいい、愛していると言うことの戯画的な表現だとは思うんですけど。私は理解ができなくて。

「息子は手がかかる。でもそこがかわいい~」とうれしそうに言う女性は結構いますよね。そういう空気感と、溺愛(できあい)する息子への愛情表現として、「小さい恋人」「彼氏」みたいに言うことの空気感はどこか似ているような気がします。


――私も息子がいますが、男の子の子育てをしていると本当に周囲でよく聞く話です。

太田さん)そうなんですよ。ママ友どうしの会話でテンプレートがあるかのように、「男子っておバカだし、手がかかるほど息子ってかわいいもんだよね」という言い方をよくききますね。そういうストーリーが、あらかじめ用意されているんですよね。自分が親になる前から。

私の息子も手はかかるし、やんちゃです。「それにもかかわらず」かわいい、「それでも」愛している、というのは分かります。けれど「だから」かわいい、というのは本当にそうなんでしょうか。無意識に口にしている方が多いとは思うのですが、そこを意識して考えてみる必要があるように思います。

「だから」「だから」とお母さんたちは自分に言い聞かせて、自分に一種の呪いをかけてしまっている気がします。

誘導し合った結果かも

――太田さんは「男の子はおバカだからかわいい」と言うことの問題を以前から指摘されています。

太田さん)「女の子はおませさんだよね。小さいお母さん、ママの右腕だよね。それにひきかえ男の子はいつまでも幼いよね」という言説はほんとに強固にある。

目の前の現象としてそういう傾向はあるかもしれないけど、何割かはお互いがそういう風に誘導し合った結果ではないでしょうか。女の子が大人びているのはその方が親にほめられるのがわかっているからじゃないの?と思うことがあります。

周りの大人が期待する行動を子どもは察知して行動するので、性別によって違う評価をすることに大人が無頓着なのはどうかと思います。

「女の子はおませさんだよね。それにひきかえ男の子はいつまでも幼いよね」という言説は強固にある(写真はイメージ=PIXTA)
「女の子はおませさんだよね。それにひきかえ男の子はいつまでも幼いよね」という言説は強固にある(写真はイメージ=PIXTA)

子育ての日常

――とはいえ、何かを自分に言い聞かせないと子育ての大変さを乗り切れないということもあるかもしれません。

太田さん)そうですね。あまりに「あるある」で、私も疲れている時はいちいち正面から話さず、「うんうんわかるー。男子ってほんとおバカー」と流すように応じてしまったことがないわけではない。

ママ友どうし、保育園の前で立ち話するぐらいなら毎回そんなに長くて深い話もしないですからね。もしかしたらその場で実は何人もが「男子ってバカだよねというのは文字通り考えると本当は変だよね」とうっすら思いながら言っているかもしれない。

そこで何となくの惰性でテンプレをなぞるように言ってるだけじゃない? 本当に本当にそう思う? よく考えたら違わない? って突っ込んで話してみたいようにも思いますが、忙しい子育ての日常のなかではなかなかないですね。悪気があって言っているようなことでもないから、突っ込んで気まずくなるのもなあというのもありますね。

「流すように応じてしまったことがないわけではない」(写真はイメージ=PIXTA)
「流すように応じてしまったことがないわけではない」(写真はイメージ=PIXTA)

「男の子だから粗雑に扱っていい」の危うさ

――「男子っておバカ」と言う時のニュアンスには、「だからかわいい」だけでなく、「だから尊重しなくていい」というニュアンスもありますか?

太田さん)男の子だから女の子より粗雑に扱っていい、それでも男の子はいいんだ、という言説はあるし、自戒をこめて言えば、私の中にもそういう感覚があることを自覚したこともあります。

その結果、社会の中で、男の子が、女の子よりデリカシーのない扱いを大人から受けやすいという傾向は現にあると思います。

ーーそれは、どんな時に自覚されましたか。

太田さん)私が自覚したひとつの例としてですけど、例えばこうやって子育てについての取材を受けている時に、「息子に一生懸命ジェンダーの話をしても鼻ほじってどこかいっちゃうんですよ~」と息子のことをネタにして言ってしまったことがあります。

私は娘はいないですけど、娘だったら本当に鼻をほじってたとしても、それをそのまま面白おかしくネタにすることを控えるんじゃないか、よそ様に言わないくらいには配慮するじゃないかな。と後で思って、あー息子は多少いじっちゃってもいいという感覚があるなと感じました。よくないですよね。

(写真はイメージ=gettyimages)
(写真はイメージ=gettyimages)

娘にお酌させて喜ぶ父なら?

――男の子がそうした扱いを受けることが、本人に影響するんでしょうか。

太田さん)社会に女性と比べてデリカシーがない男性が多いとしたら、デリカシーある扱い、丁寧に尊重された扱いを受けたことが女性に比べて少ないからということはないでしょうか。

男の子は放っておけばいい、転がしておけばいい、というのではなくて、女の子に対するのと同様に、大事に丁寧に育てないといけないと本当に思います。

――「息子=小さな恋人」というのは大事にしているように見えて、実は意見は聞いていない、デリカシーのない扱いをしてしまっている?

太田さん)冗談なのは本当にわかるんですが、子ども自身がそれを嫌がっていないかというのも気にはなります。

それから、そもそも、「息子=小さな彼氏」につきまとうを「恋人感を面白がる冗談」って、男女逆だったら許されないんじゃないでしょうか。

父親が娘について「小さな彼女」「俺の恋人」って言ってたらどうでしょう。

トランプ元大統領が以前テレビ出演した際に娘のイバンカさんのことを「彼女はかなりいい女だ。もし自分の娘じゃなかったら、彼女とデートしてるだろうって言ったことがあるくらいだ」と言っていた、というのが、大統領になったあと、過去の女性蔑視語録が話題になるなかで知りましたが、ぞっとします。

なんで男女逆転するとほほえましい風景みたいになるんだろう。父が娘に対してしてはいけないことは、母が息子に対してもやはり同様にしてはいけないんじゃないでしょうか。冗談のつもりであっても。

他にも例えば父が娘にお酌させて喜ぶみたいなことも、性別役割分業的なことを大人が「ネタ」みたいな発想でやることで、冗談として許されることなのか、よく考えた方がいいと思います。

(写真はイメージ=gettyimages)
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「母の絶大な支配」見た裁判

――子どもが小さいうちにやるのも有害でしょうか?

太田さん)親子って、当然だけど力関係があるわけですよね。特に子どもが未成年とか小さい時には。そういうあらがえない立場で、小さい子は「恋人みたい」と言うことの意味もわからないかもしれないし、わかっていて何となく嫌な気分でもうまく言えないので、それをすること自体が子どもに対して敬意を欠いていると思います。

母親の、子どもに対する絶対的な所有感みたいなものもあるのかもしれませんね。

――たとえばそういう関係で子どもが育った時、影響はどう出るのでしょうか。本業の裁判事例でも、その難しさをお感じになることはありますか?

太田さん)いわゆるマザコンのせいで夫婦関係がうまくいかなくなったというのは、離婚事案では本当によく聞きます。夫婦で話してうまくまとまりそうだったところで一晩お母さんと話して、翌日がらっと覆されてしまったということも。

――それは息子が30歳か40歳でも?

太田さん)もちろん、もちろん。息子が成人になっても、母が絶大な支配を及ぼしているパターンはそんなに珍しくない。離婚事案なので極端なケースを見ているのかもしれないですが。

「ママの言う通りにすればいいのよ」とか、逆に「ほら、ママの言う通りにしなかったでしょ」とか、刷り込まれすぎていると、その支配を脱却するのに人生のかなりの時間を費やしてしまう。

(写真はイメージ=gettyimages)
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「お母さん間違うことあるからね」

――気をつけていても、親として大なり小なり負の影響を息子に与えてるんじゃないか、息子をマザコンにしてるんじゃないかと常に不安です。

太田さん)私も子どもは小中学生だからまだ渦中にいて、常に失敗しているかもしれないと不安を抱えながらの試行錯誤です。

マザコンにしないようにという発想ではないけれど、私はふだん「お母さん間違うこともあるからね、あなたたちがしっかりしないと間違っているときに気づけないからね。お母さんが間違っているのに気づいた時は間違っていると言うんだよ」とは言っています。今朝も、学校関係で重大なミスをしたんですけど、しょっちゅう間違ったことを息子に認めて謝ってます。それで母を絶対視しない息子に育ってほしいとは思っていますが……。

――なるほど……。自分は絶対じゃないよと子どもに言い続けることが親子の対等な関係につながるんですね。

太田さん)とはいえ親子って本当に、対等でいるのは難しいですよ。親は圧倒的な権力者だから、子どもを尊重して子どもの考えをリスペクトしながらやっていくのは日々日々難しい。

私もいつも自戒しなきゃいけないと思ってます。子どもと私は別々の人格なんだけど、心配も期待もあるし、こういう風に育ってほしいなということにどう折り合いをつけてあらがうかっていうのが全ての親の課題ですよね。

「小さい彼氏」というのは、対等に扱うという以前の問題だと思いますけど。


――対等以前、ですか。

太田さん)「息子とデート」にしても、「ほほえましい」親子のひとつのアイコンになっていると思う。文字どおりとらえるほうが野暮だろうという批判はあると思うけど、私は言葉でズドンと来てしまう。

私の祖母の世代からずっと言い習わされてるような言い回しだと思いますよ。「息子は恋人で娘は親友」みたいなのは。変な意味はないとわかっているけど、深く考えず言い習わしてきた言葉を折々に見直す必要があるんじゃないでしょうか。

(写真はイメージ=gettyimages)
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いったん立ち止まって「可視化」する

――そういう連綿と続く言葉やストーリーを、少しずつアップデートしていくために日々どうしたらいいでしょう?

太田さん)空気を言葉にして可視化することでしょうか。「息子とデート」とか「小さい彼氏」だけでなく、例えば「バージンロード」という言葉もそうですけど、文字に起こされたものを、なるべく文字列だけ見ようとして見ると違和感あったり気持ち悪いことってないでしょうか。

「バージンロード」って和製英語だそうですけど、バージンなんていう性的経験に関わる言葉、しかも新婦側についてのみの言葉をその場で用いる。 

儀式として、新婦と腕を組んで登場した父親が、新婦を新郎に引き継ぐみたいな形式も、なんでそんなやり方をするんだろうと結婚式に出るたびに私は思ってしまいます。対等なパートナー同士が結婚するという儀式で、「親から新郎に娘を手渡す」というセレモニーをやる必要は本当にあるんでしょうか。

このように何となく流し流されていたことが、「これ、どうなんだろう」と意識しやすくなることはあると思います。

――毎日の生活の中で、なかなか全てに立ち止まるのは難しいです。

太田さん)立ち止まっていられないこともいっぱいありますよね。私は話が合う友達との間で、ばーっとチャットし合うことがしばしばあるんですが、そういう言葉のキャッチボールをできる仲間が1人でも2人でもいると、普段は愚痴の吐き合いでも、ふとした時に言葉を磨き合うレッスンになることがあります。

――この企画も実はそうやって、複数の記者のチャットから生まれました。

太田さん)そうだったんですね。ツイッターなどにいきなり投げる前に、「これにモヤモヤしているけどどう言葉にすればいいかわからない」という時に、いったん立ち止まって話せる関係性は大事するのがいいと思っています。

「母と息子の関係」をより深く考えるための、太田さんのおすすめ本



「女の子だから、男の子だからをなくす本」(エトセトラブックス、絵本)
「男しか行けない場所に女が行ってきました」(イースト・プレス)
「ひだまり保育園おとな組」(双葉舎、漫画)
「モヤる言葉、ヤバい人 自尊心を削る人から心を守る『言葉の護身術』」(大和書房)
「『母と息子』の日本論」(亜紀書房)
「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」(河出書房新社)

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