MENU CLOSE

地元

奄美で40年撮影した写真家の「白熱授業」 世界遺産の美しさと脅威

奄美は「宝物だらけ」と生徒に語りかけた

アマミノクロウサギの特徴を説明する常田守さん=2020年12月17日、鹿児島県奄美市の住用中学校、外尾誠撮影
アマミノクロウサギの特徴を説明する常田守さん=2020年12月17日、鹿児島県奄美市の住用中学校、外尾誠撮影 出典: 朝日新聞

目次

世界自然遺産への登録が決まった鹿児島県の奄美大島。その森で40年以上、撮影を続け、保護活動も行う奄美市の自然写真家・常田守さんは、各地の観察会や講演会で講師役も務めてきました。魅力を知ってもらうことが、自然を守る第一歩につながる、との思いからです。その中から、奄美市立住用中学校で行われた特別授業の内容を紹介します。(朝日新聞元奄美支局長・外尾誠)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」

<つねだ・まもる>
1953年奄美市名瀬生まれ。80年に東京から帰郷し、本格的に自然の撮影を始める。環境省自然公園指導員。90年代にアマミノクロウサギなどを原告にゴルフ場開発許可の取り消しを求めた「自然の権利訴訟」の原告の1人。著書に「水が育む島 奄美大島」(文一総合出版)、本職は歯科技工士。

特別授業は、世界自然遺産になる地元の自然への理解を深めてもらおうと、2020年12月17日に鹿児島県奄美市の市立住用中学校で実施。講師役として招かれた常田守さんが、周辺の中学生らに、島の成り立ちや自然の特徴、魅力や課題について説明した。
【奄美シリーズ】
奄美の誤解「手つかずの自然広がる」 これ以上失うまい
「離島」イメージとかけ離れた奄美 暮らしに驚いた記者
奄美取材も楽じゃない 手にした10秒1万円のお宝映像

「東洋のガラパゴス」は間違い

いよいよ世界自然遺産。どうやって決まるかというと、IUCN(国際自然保護連合)という組織の専門家が調べて、ユネスコに「遺産に値するかどうか」を伝える。そのIUCNの人たちが2回、島に調査で訪れましたが、2回とも案内しました。

おじちゃんは40年、島の生き物を探して、見て、記録するフィールドワークをやっていて、どこに何があるかはだいたい、分かっているから。奄美大島は、地球上でここにしかいない生き物だらけ。宝物がいっぱいの「世界に誇れる島」に、皆さんは住んでいる。もし遺産にならなかったら、どこに目をつけているんだ、と思っちゃう。

では島の成り立ちから。奄美大島はもともと、ユーラシア大陸の一部だった。それが地殻変動で島になった。徳之島も沖縄本島も西表島も同じ。だから4島で一緒に遺産を目指すんだけど、4島では、すんでいる動物や植物に違いがある。大陸から離れた時期が違ったり、またつながったりしたためだ。

かつては大陸にいて、今は絶滅した生き物が、4島には今も生きている。それで、人類共通の宝だ、遺産にしよう、ということです。奄美は「東洋のガラパゴス」といわれるけど、これは間違い。ガラパゴス諸島は火山活動でできた「火山島」で、奄美は大陸から離れた「陸島」だからね。

島で一番怖い生き物って?

じゃあ、自然を見てみましょう。河原を歩くと、小さな黒いかたまりが落ちています。アマミノクロウサギの糞です。隠れる場所じゃない、いわゆるオープンスペースで糞をする。

なぜか。島で一番怖い生き物ってなんですか?そう、ハブね。襲われたら、死ぬ。だから見晴らしの良い場所を選ぶ。おじちゃんはこの間、ハブと遊んできた。威嚇してくるから、「いいねえ」って撮影してね。それができたのは路上で、こっちが先に発見できたから。足元がみえないような茂みは本当に怖い。どこに潜んでいるか、分からないからね。

クロウサギの体の特徴は、後ろ脚が短い、耳も短い。なぜか。ハブはいるけど、ほかには強い捕食動物がいないからなんです。ワシやタカ、キツネ、オオカミとかがいない。スピードを出して逃げる必要がないから、脚が短いままですんだ。耳には血管が走っていて、体温があまり上がらないような役割もあるけど、これも短いままですんだ。

つまり、大陸にいたころのまま、進化をしていない。だから「生きた化石」と呼ばれています。大陸にいた仲間は絶滅している。もしも地殻変動のタイミングが違っていて、奄美大島と西表島とつながっていたら、クロウサギも絶滅していたかもしれない。イリオモテヤマネコに襲われてね。

林道に現れたアマミノクロウサギの幼獣=奄美大島、外尾誠撮影
林道に現れたアマミノクロウサギの幼獣=奄美大島、外尾誠撮影 出典: 朝日新聞

島にある二つの脅威

でも今、マングースやネコ、イヌが新たな脅威になっている。いずれも人が持ち込んだ生き物で、マングースとネコは捕獲を進めています。大事な取り組みだけど、元の森に戻しているだけ、ともいえる。

もう一つ、ロードキルという脅威もある。クロウサギはエサの植物を食べたり、ふんをしたりするために路上に現れる。道路脇は光が届くからフレッシュな植物が生えているからね。そこを車が通って、ひいてしまう。保護対策をとる前に、見学ツアーの車が増えたので、どんどんひかれている。天然記念物のケナガネズミやアマミトゲネズミ、希少なカエル、ヘビもかなりの数が車の犠牲になっている。そんな現実もある。

ケナガネズミは、すごくかわいい。リスみたいでね。奄美大島と徳之島、やんばる(沖縄本島北部)にしかいない珍獣。体長25~30㎝で、日本で一番大きなネズミ。名前の通り、長い毛が生えています。徳之島ややんばるで見るのは難しいけど、住用だと1晩で10匹見られることもある。すごいよ、皆さんが住む場所は。世界中から撮影に来るんだから。

アマミトゲネズミは奄美大島にしかいない珍獣。体長10~15㎝で、体毛がトゲ状。徳之島にはトクノシマトゲネズミ、沖縄にはオキナワトゲネズミがいて、以前は同じ種とされたけど、研究が進んで、遺伝子が違う別種と分かった。それぞれの島で進化をとげたんだね。特徴はジャンプ。最大で40㎝ともいわれる。助走なしで忍者みたいにピョンピョン跳ぶ。これもハブから身を守るためと言われています。

「日本一美しい」カエル

「日本一美しい」と呼ばれるカエルもいます。奄美大島だけに生息するアマミイシカワガエル。緑の体に金色と茶色のしずくを落としたような模様がある。苔がついた渓流の岩で繁殖するけど、身を守るために、そんな色に進化したんですね。鳴き声もきれいで、ケロケロではなく、「キョーッ」と鳴きます。オスがメスを呼ぶためで、水が流れる音に消されないように、甲高い音で鳴く。岩の隙間なんかで卵を産むけど、岩をひっくりかえしたりはできないので、一つひとつ、のぞいて、やっとのことで見つける。水のきれいな場所じゃないとダメだから、川の環境も大切。彼らは繁殖が終わると、身を守るために木の洞なんかに隠れる。公衆トイレとかパイプとかの人工物にも。

オットンガエルも面白い。「オットン」は大きいの意味で、体長約14㎝。カエルの前脚の指は4本が普通だけど、5本目がある。繁殖用の巣穴も掘る。私が見たときはオスが後ろ脚で蹴るようにして回りながら、穴を掘っていた。そこで鳴いてメスを呼ぶ。カエルは交尾をせず、抱接といって、メスが産んだ卵にオスが精子をかける。何日も通って、時には徹夜して、粘って粘って、やっとみられる。そうやって生態をつかむんです。その卵、カニに食べられちゃうこともあるけど、敵討ちというか、オットンガエルがカニを食べることもある。お互いに食べて、食べられる。アマミハナサキガエルやアマミアカガエルもいる。みんな「アマミ」が名前につく、すごいね。

アマミエビネも地球上で奄美大島だけに自生する花。でも綺麗な株はどんどん盗まれてしまう。アマミイシカワガエルも密猟者が19年に逮捕された。リュウキュウスズカケは一度、絶滅したとされたけど、奄美大島には残っていると分かった。でも、道路管理で雑草と一緒に切られて、数が減った場所もある。「この島だけ」という生き物がいるのは素晴らしいけど、地球レベルの宝だから、守る責任もある。だからパトロールをしている。

なぜ離れたところに?不思議

渓流沿いには、黄色いアマミカタバミが咲いています。自生地は奄美大島だけ、と言われていたけど、オーストラリアとニュージーランドでも見つかった。遺伝子が同じだそうです。何でそんな離れたところに?という不思議さがある。皆さんが解明してくださいね。ちゃんと調べたら、世界的に評価される研究対象が島にはいっぱいあるよ。この花も盗まれて、さらに2010年の奄美豪雨の被害で激減した。ところが最近、以前より上流に自生地が広がり、数が増えたのが分かった。水害で水位が上がって、種が運ばれたのでしょう。水害は破壊をもたらすし、人命はもちろん第一に守らないといけない。でも、創世の準備という側面もあるんだね。

奥深い渓流沿いには、アマミスミレやアマミデンダもあります。これも奄美大島だけ。アマミアワゴケは1990年代に山下弘さんが見つけた新種。これも本当に数が少なくて、今の自生地から消えたら、本当に地球上から消える。奄美の川には、沖縄では絶滅したリュウキュウアユがいるけど、放流したコイが卵や稚魚を食べてしまっている。コイは外来種なのに、一時期、放流していたんですね。今はこれも捕獲が進んでいます。リュウキュウアユについては、住用町と宇検村のでは遺伝子に違いがあり、別種かもしれないとの指摘があります。つまり、スミヨウアユ、ウケンアユとなる可能性がある。

一方で、本当のリュウキュウアユ、つまり沖縄のアユはすでに地球上から滅んだのかもしれない、とも考えられる。奄美は「宝物だらけ」と説明しましたが、それは「遺伝子の宝庫」という意味でもある。新種の発見も続いている。だから、壊していい場所なんて、この島にはないんです。

大好きな野鳥も少し説明させてね。ルリカケスは体長約38㎝。世界的な珍鳥です。青い羽根がかつて、帽子飾りとしてヨーロッパに輸出され、そのために乱獲され、数が減ったことがあった。保護が進んで、今は絶滅の心配はなくなりました。アカヒゲは、学校の近くでも鳴いているでしょ。学名(の一部)は「コマドリ」で、コマドリの学名は「アカヒゲ」。違う種なのに、学者さんが標本を取り違えた。でも見た目も鳴き声も本当に美しい。

キーワードは「ミミズ」

大好きな野鳥も少し説明させてね。ルリカケスは体長約38㎝。世界的な珍鳥です。青い羽根がかつて、帽子飾りとしてヨーロッパに輸出され、そのために乱獲され、数が減ったことがあった。保護が進んで、今は絶滅の心配はなくなりました。アカヒゲは、学校の近くでも鳴いているでしょ。学名(の一部)は「コマドリ」で、コマドリの学名は「アカヒゲ」。違う種なのに、学者さんが標本を取り違えた。でも見た目も鳴き声も本当に美しい。

奄美大島だけのオオトラツグミは、以前は生息数が100羽切るかも、と心配されました。原因は森林伐採。今は数が回復してきて、分布域が広がった。「キョロンピリンキョロン」と美しい声で鳴きます。英名は「Amami Thrush」とアマミがつく。これも世界中からバードウォッチャーが見にきます。親鳥がヒナに、ミミズを与える姿を撮影したことがあります。

「ミミズ」もキーワードの一つです。なぜか。森が元の姿に戻っていくと、落ち葉が多いので、林床が豊かになる。土壌も豊かになるとミミズも微生物も菌も増える。ミミズは色んな生き物のエサになるんです。世界遺産を目指すために、森を国立公園にしましたが、意義はここにあります。森を守るというのは、こうした生態系を守ること。

木の上で羽を休める国の天然記念物のルリカケス=奄美大島、外尾誠撮影
木の上で羽を休める国の天然記念物のルリカケス=奄美大島、外尾誠撮影 出典: 朝日新聞

皆さん、すごい場所に住んでいる

森の真ん中に「中央林道」という道が走っています。かつて、これを舗装する計画があって、止めようと一生懸命に動きました。入り口の名瀬市(今の奄美市)は耳を貸してくれず、反対側の宇検村にお願いにいった。そしたら当時の村長が「将来の奄美のためにはどうしたらいい?」と質問してくれた。「(舗装を)止めて下さい」と答えると、「分かった」と。舗装すると森が分断されるので、環境保護に厳しい目を持つヨーロッパ人は世界遺産とは認めてくれない。舗装しないから「登録を目指せるぞ」となったんです。

探し回ったけど、奄美には原生林はありません。どこも一度は伐採されている。一番古い森でも200年ぐらい。森に入ると、若い木が多いんです。でも国立公園になったところは今後、半永久的に残る。これはすごいこと。そうやって失われかけた自然を守り、一度は壊されたところが元に戻りつつあるのが今の奄美大島。ずっと守るため、遺産にしないといけない。広い視点でみると、奄美だけの、鹿児島だけの、日本だけの宝ではない。人類共通の宝がたくさんある。それが奄美大島であり、徳之島。もちろん沖縄も。

住用町では、今日、説明したような珍しい生き物をたくさん見ることができます。根っこの回りが38mもあるガジュマル、落差が約100mという「タンギョの滝」、マングローブ林もある。みんな日本最大級です。すごい場所に住んでいる、皆さんは。ぜひ楽しんで下さい。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます