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#13 withnewsスタッフブログ
「痛い」と言いやすい社会にするには? withnewsスタッフブログ
痛みを共感してくれるかかりつけ医の大切さ
「我慢は美徳と思っていた」「無理をするのが当たり前になっている」……。痛みとの向き合い方を考えるアンケートを「朝日新聞フォーラム面」の企画で実施したところ、900件近い声が寄せられました。そのうち9割が女性からの回答でした。全体のうち4割が「強い痛み」を感じるまで「受診する」「医療者に伝える」といった行動を起こさない現状も浮き彫りになりました。
withnews編集部がこのアンケート企画に取り組もうと考えたのは、「子宮体がん検診が痛すぎて絶叫した」というツイートが話題になったことがきっかけでした。
ネット上の反響の中には「女性の痛みが軽視されているのでは?」という指摘もありました。たしかに、生理痛や陣痛、婦人科検診……生物学的に女性特有の痛みがあることは事実です。それに十分な理解が広がっているかというと、個人的な実感としてもまだまだだと感じます。
ただ、女性だからといって必ずしも女性の痛みに「つらいね」と言うわけではありません。実際に、母親から「生理痛は痛いもの」と言われたり、女性の医師から「出産より痛くない」と言われたり……といった体験談も寄せられました。
痛みに個人差があるように、痛みへの共感力も個人差がある――。だからこそ、医療全体に絶望してほしくないし、「患者の痛みをなんとかしよう」と取り組んでいる医療者がいることも伝えたいと考えました。
わたし自身は生理痛が軽く、体育の授業も変わりなく出ていて、骨折などのけがを除くと「痛み」を感じる機会はあまりありませんでした。
それでも、子宮頸がん検診や婦人科の内診は、正直「受けたくない」と思いながら、「メリットが上回る」と自分の中で折り合いをつけて受けています。
アンケートに届いた声のひとつ「『痛いのが当たり前』という検査なんてありえない」という本音は、それこそ痛いほど分かります。
一方でSNS上では、2年に1度の検診が推奨されている「子宮頸がん検診」と、「子宮体がん検診」が混在してしまっている訴えもありました。
「痛すぎて絶叫」というツイートがあった「子宮体がん検診」は、不正出血などの症状がない人には「必要」という根拠はありません。産婦人科医の宋美玄さんはそう訴えています。
無症状の方の子宮体がん検診は不要である事が広まるためにアカウント名を変えてみました。 https://t.co/grzgg9cTZ9
— 宋美玄@子宮体がん検診は実は不要です (@mihyonsong) April 4, 2021
必要な検査を受けなければいけない場合、その痛みをゼロにすることは難しい。だからといって病気の疑いがあるのに、「検査を受けなくていい」ともいえない……。
一方で予防注射では、局所麻酔で痛みをとる方法も広がっているといいます。
婦人科検診でも研究が進められ、簡単に痛みを取る方法が生まれてほしいと願います。
ただ、アンケートに届いた声を読んでいると、「痛くてすごくつらいんです」という訴えを医師にちゃんと受け止めてもらえるかどうかが、「痛み」の強弱の実感に影響するのではないかと感じました。
長引く痛みのある患者さんと向き合う、横浜市立大学附属市民総合医療センター・ペインクリニック内科部長の北原雅樹さんは、初診に2時間をかけて「一番困っていることは?」と痛みの背景を深掘りしていくそうです。
慢性痛は、骨折などの急性の痛みとは対処法が全く異なり、初診が大切だといいます。しかし、初診に2時間もかけられる病院はほとんどありません。
医師に痛みをなかなか理解してもらえず、ドクターショッピングの末に北原さんのもとへたどり着く患者さんも多いようです。
身体的な原因がなく、孤独な介護で夜も眠れないといった要因が「痛み」になって現れることも――。
こんな風に向き合ってくれる医療者に出会えたら、痛みがゼロにならなかったとしても、少しほっとできるかも……そんな風に感じました。
寄せられた声の中には「我慢強いと褒め言葉のように言われて育ち、『我慢は美徳』と思っていた」といった日本社会の背景を考えさせられるものもありました。
痛みは人には見えません。そんな考えは、できるだけ早くなくなってほしいです。
痛みが語られることで、誰かの痛みを想像しやすくなり、誰もが「痛い」と言いやすい社会にしていきたい――。改めてそう感じました。