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IT・科学

17年耐えた生理痛、受診したら 医師「痛みがあるのは普通じゃない」

脂汗が出る激痛、経血が漏れる恐怖も……

就寝中や仕事中…生理痛は突然始まる ※写真はイメージです
就寝中や仕事中…生理痛は突然始まる ※写真はイメージです 出典: PIXTA

目次

お腹が痛くて爆発しそう。漏れていないか不安。たくさん寝たはずなのに、仕事中いつの間にか眠っている……。
月に一度やってくる生理中、体調不良に悩まされてきた私(28)が病院を受診すると、「子宮内膜症」という診断を受けました。ずっとがまんしている体の不調、当たり前だと思っていませんか?「生活に支障が出るような生理痛は、普通ではない」と医師は話します。

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月に1度「人生で一番の痛み」

生理中の体の不調は、人それぞれ。
私の場合は、出血が始まると、「今月もヤツが来たな」と殺気立った気分になります。毎回つらすぎるからです。

最も苦しんだのは、腹痛です。大きな事故や病気を経験したことのない私にとって、「人生で一番の痛み」でした。

ドラッグストアには、薄さ、長さ、吸収力など様々な特色をうたう生理用ナプキンが並ぶ=2017年3月9日、寺下真理加撮影
ドラッグストアには、薄さ、長さ、吸収力など様々な特色をうたう生理用ナプキンが並ぶ=2017年3月9日、寺下真理加撮影 出典: 朝日新聞

たいがい、生理が始まる前日か、始まった後の二日目くらいまでの間に、突然起こります。
ちくちくした不快感とともに、下腹部の臓器が破裂する寸前まで膨張したかと思えば、逆に強く握られ、ひねられているような感覚が繰り返されます。

トイレの中で、便座の上に前のめりになり、頭を抱え、気をそらすために「痛い、痛い、痛い」とつぶやき、20~30分ほどで激痛が過ぎるのをひたすら待ちます。
まさに死闘です。

耐えて、耐えて、脂汗まみれ

仕事中や人と会っている時に始まると、大変です。
痛みに耐えることしか頭にないので、話を聞いているふりをしながら、ほとんど上の空で相づちを打っていました。終わる頃には、全身脂汗まみれ。

「ちょっと今、お腹が痛いので」と伝えるほうが誠実な気もします。でも、鎮痛剤を飲んで少ししたら普段通りに戻ることが多いので、「仮病だったと思われたら嫌だな」と考えてしまい、できませんでした。

生理が来てから17年の間ずっとそうしてきたので、耐えることが当たり前になっていました。

スカートにシミが…高校時代のトラウマ

痛みの他にも心配なことがありました。

漏れてしまう恐怖です。

高校生の時、授業を受けた後に黒板の文字を消していると、友達が小声で「スカート、汚れてるよ」と教えてくれました。

焦って見ると、グレーの生地に、薄茶色のシミが広がっています。座っていた椅子の表面にも、血をこすった跡がありました。
少し前に「多い日用」のナプキンをつけたはずなのに……。

移動教室での授業だったため、座っていたのは私の椅子ではなく、男子の友達の椅子でした。

別の教室から戻り戸惑っている彼に「ごめんね」と謝り、恥ずかしさで逃げ出したい気持ちを抑えながら、湿らせたティッシュで椅子を拭きました。

以来、1時間ほど連続で座った後に立ち上がる時は、必ず椅子の表面を確認するのが習慣になりました。

漏れることへの恐怖から、生理中は薄い色の服を避け、黒っぽい服を選ぶようになった
漏れることへの恐怖から、生理中は薄い色の服を避け、黒っぽい服を選ぶようになった

思えば、出血が多いほうだったのだと思います。貧血気味だったのか、立ち上がった瞬間にふらつくことも、ここ数年で増えていました。

ほかにも、デスクワーク中に眠ってしまうほどの強い眠気、熱っぽさとだるさ……。心身への影響は、数え切れないほどでした。

「もしや…?」語る中での気づき

ここ数年、メディアなど色んなところで、「生理について語ろう」という動きが生まれています。私自身も、そうした記事を読んだり、友達と生理について話したりする機会が増えました。

そんななかで、気づきました。私、もしや生理が重い方なのでは?

がん検診のついで 受診してみたら

2020年12月、自治体から知らせが来た子宮頸がん検診で、産婦人科を受診しました。

その「ついで」と考え、予約の電話で「生理痛がひどいので、相談したい」と話しました。

緊張しながら迎えた当日、生理中の症状を聞いた後にエコーで子宮を見た医師は「子宮内膜症ですね」と言いました。

当たり前だと思っていた生理痛は、病気だったの?
思ってもみない診断でした。

鎮痛剤をのんでしばらく経つと普段通りに戻ることが多かった、生理の痛み ※写真はイメージです
鎮痛剤をのんでしばらく経つと普段通りに戻ることが多かった、生理の痛み ※写真はイメージです 出典: PIXTA

子宮内膜症とは

日本産科婦人科学会によると、「子宮内膜症」とは、子宮の内側にできるはずの子宮内膜やそれに似た組織が、子宮の内側以外の場所で発生し、発育する疾患です。

代表的な症状としては「痛み」があり、「不妊」の原因になることもあります。

患者の約90%に生理痛がみられ、患者のうち妊娠を希望する人の30%に不妊があると考えられています。

また、卵巣の子宮内膜症性のう胞は長い年月を経ると、まれにがん化することもあるといいます。

子宮内膜症を疑うサイン
子宮内膜症を疑うサイン 出典:朝日新聞

「生活に支障が出る痛みは病気」

産婦人科医の太田寛さんに話を聞くと、ひどい生理痛がある人は、それだけで「子宮内膜症の可能性が高い」といいます。

「生活に支障が出る痛みは、普通ではない。痛み止めを飲んでいる時点で、病気です。生理痛で苦しんでいる人には信じられないかもしれませんが、生理痛がほとんど無い女性もいるのです」

そして「今の痛みをほぼゼロにする解決法があるということを知ってもらいたい」とも呼びかけます。

産婦人科医の太田寛さん
産婦人科医の太田寛さん 出典: 提供

子宮内膜症は、生理が来る度に進行し、症状が悪化する病気です。

様々な治療法がありますが、太田医師は、若い人には低用量ピルを勧めています。この薬によって、生理が来る回数を減らして、悪化を防ぐことができます。

これから妊娠を希望する予定がない人は子宮を摘出することもあるといいます。

「子宮を取り出すなんて何か体に悪いことが起こるのではないかと思う人もいますが、生理痛や出血で苦しんでいる人にとっては、子宮を取ることでその苦しみから解放されて、とても楽に暮らせるようになったという人が多いです」

いろいろな薬なども開発されたため、個人の状況やライフプランに応じた治療法を選ぶことができるそうです。

患者数「昔より増えている」

私の場合は、いずれ妊娠・出産したいと考えているのと、生理中の症状をなくしたいとの思いから、低用量ピル(LEP)での治療を選びました。
最大で120日間連続で薬を飲みます。その間、生理は来ません。

これで、1年に来る生理の回数は、月1度の12回から、3回にまで減らすことができます。

毎日同じ時間にピルを飲む
毎日同じ時間にピルを飲む

妊娠・出産をすれば2年ほど生理が止まります。よって、10代後半から20代にかけて数人の子どもを産んでいた時代に比べて、現代の女性は妊娠・出産の時期の回数が減り、生涯の生理の回数が増えているといいます。

そのため、「子宮内膜症の患者数は増えてきている」と太田さんはいいます。

内診恐れず「早めの受診を」

太田さんは、生理痛などがあればできるだけ早く、中高生のうちに病院を受診することを勧めています。

「早めに対処して治療することによって、不妊症や慢性の腹痛など、将来のトラブルを防ぐことができます」

さらに、薬で病気の進行や生理中の症状を防ぐことはできても、病気がなかった状態に戻すことはできないといいます。

「『内診が不安』といって婦人科の受診は敷居が高いと思っている人も多いかもしれません。必ず内診をするわけではないので、その不安も安心して打ち明けてほしい」と話します。

エコーを膣から入れる内診をすれば、病気の状態を細かく見られますが、症状によっては必須ではないそうです。

「特に中高生の場合は、まだ生理が始まって数年しか経っていないので、見逃して困るような病気があることはほとんどありません。もし内診を提案されても、断って大丈夫です。『生理痛がひどい』ということなら、内診しなくても、『子宮内膜症の疑い』や『月経困難症』として、ピルを処方できます」

「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)」、いわゆる「低用量ピル」が効くしくみ
「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)」、いわゆる「低用量ピル」が効くしくみ 出典:朝日新聞

太田医師によるとピルの値段は、月経痛のある人には保険適用され、1カ月分で1000~2400円ほど。

副作用として挙げられる「血栓症」のリスクは、服用していない人の1万人当たり年間1~5人に対して、年間3~9人と少しあがりますが、妊娠中や分娩後の人よりは低いといいます。

耐え続けることもなかったのに…

私が低用量ピルの服用をはじめて約半年。生活の質が劇的に変わりました。生理痛に振り回されることはもうありません。

痛みがない日常が当たり前になってはじめて、これまでの生活の中で、無理をしている時間がどれほど長かったのか気づきました。

一度生理を起こした時も、血の量や症状が大きく減りました。もう前の生活に戻りたくありません。

もしもっと前に病院に行っていれば、授業を早退することも、大学受験の筆記試験中にトイレに駆け込むことも、痛みで取材に集中できなくなることもなかったのに……。

そんなふうに後悔する気持ちもあります。

ピルを飲み始めて、ナプキンを使うことはほとんどなくなった(画像の一部を加工しています)=2019年10月25日、渡邉元史撮影
ピルを飲み始めて、ナプキンを使うことはほとんどなくなった(画像の一部を加工しています)=2019年10月25日、渡邉元史撮影 出典: 朝日新聞

体調のほかにも変わったことがあります。

診察のたびに、「何でも聞いて」と言ってくれるかかりつけの婦人科の医師との出会いです。小さな不調でも相談できる環境ができ、安心感を得られるようになりました。

あのとき勇気を出して診察してもらってよかったと思いました。

17年 がまん続けた理由

そもそも、17年もの間、私はなぜ痛みを放置し続けたのでしょうか。
それは、「生理が来ている人はみんながまんしているもの」と思い込んでいたからです。

私が初めて生理になったのは、11歳の夏。
その日も、腹部が割れるような生理痛がありました。トイレに駆け込み、数十分痛みに耐えては、トイレから出る。そんなことを1時間ほど繰り返していました。

当時、そんな私を見かねて、母が言いました。「毎月そうなっていたら、学校も行けないし、会社で働けないよ」
たしかにそうだ、と感じました。痛くても、きっとみんな、耐えて過ごしている。

子宮内膜症と診断され、母にこれまでのことを説明したとき、「そんなにつらいとは知らなかった。私はそこまで生理でつらかったことはない」と驚いていました。
 
17年前の子煩悩だった母に、悪意は全くありません。ただ単に、「生理中の一人一人の痛みが違う」ということを知らなかっただけでした。
そして私も、20代後半になるまで、「生理痛はがまんしなくていい」という考え方を知る機会はありませんでした。

「生理を語る」の先に

「生理について語る」という動きが広がってから、生理に関する情報に触れる機会が増えました。私が「自分の生理痛は重いのでは」と気づけたように、大切なことだと思います。

そして語ったその先に、あともう一歩、これまで痛みや不調に耐えていた人が「受診」という行動に進んで症状が楽になったら、もっといいなと思います。

いまの「マイナス」の状況が当たり前ではなくなり、「ゼロ」からの生活ができる人が増えるように願っています。

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