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連載

#11 #戦中戦後のドサクサ

「ギブミーチョコ」の衝撃的な末路 少女が見た「目を疑う光景」

誰もが生き延びるのに必死だった時代

終戦後、日本に進駐した米兵たちは、貴重品であるチョコレートを子どもたちに配って歩きました。その一部始終を目撃した、ある少女の実体験について、漫画家・岸田ましかさんが描きます
終戦後、日本に進駐した米兵たちは、貴重品であるチョコレートを子どもたちに配って歩きました。その一部始終を目撃した、ある少女の実体験について、漫画家・岸田ましかさんが描きます 出典: 岸田ましかさん提供

目次

誰もが生き延びるため必死だった、終戦直後の日本。人々が貧しさにあえぐ一方、国内に進駐する米国軍人たちは、豊かな暮らしを営んでいました。横浜の米国人宅で「メイド」として働く少女は、ある日街中で、米兵からチョコレートを受け取る子どもたちを見かけるのですが……。混沌(こんとん)とした時代を象徴する、一人の女性の実体験について、漫画家・岸田ましかさん(ツイッター・@mashika_k)が描きます。
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「敵国人」と築いた親密な関係

主人公のユキエは、終戦直後の横浜で暮らす17歳の少女です。両親と弟・妹の5人暮らし。唯一の兄は戦時中、出征先のシベリアで亡くなってしまいました。実家が貧しく、小学生の頃から学業の傍ら電機店で働き、家計を支えています。

戦争が終わってから間もなく、彼女の人生に転機が訪れます。とあるきっかけから、横浜に住む米軍家族に、「メイド」として雇われることになったのです。

本牧地域の民家へと通い、家事をこなす中で、ユキエは米国人の暮らし向きに驚きます。駐留地内にあるスーパー「PX」で、自由に日用品を購入していたからです。食うや食われずの日々を送る日本人と比べると、生活水準の差は歴然でした。

出典: 岸田ましかさん提供

「お肉、卵……何でもあるんだ」「いいなあ、アメリカさんは。うらやましい!」。勤務先の冷蔵庫を整理しながら、独りごちるユキエに、米国人の姉妹は温かく接してくれました。

“What poor Japanese girls are!(日本の女の子はかわいそう)” “I’ve only seen skinny girls like you in Japan.(あなたみたいにやせた子しか見たことないもの)”

ユキエは姉妹の英語が分かりませんが、その態度から優しさを感じ取ります。退勤時刻になると、家族のためにと、バターケーキなどの食料品を毎日持たせてくれました。

互いに、少し前まで敵国同士だったとは思えないほど、親密な関係を築けていたのです。

出典: 岸田ましかさん提供

「ギブミーチョコ」の衝撃的末路

米国人は時折、駐留地の外でも日本人と交わりました。

「ギブミーチョコレート!」。日本人の子どもたちが、街中を歩く二人の米兵のそばに駆け寄ります。彼らは求めに応じ、一人ひとりに板チョコを配りました。その脇を、外出中のユキエときょうだいが通りかかります。

「姉ちゃん、俺らもギブミーチョコレートしたい!」。去りゆく米兵たちの姿を見て、妹たちはうらやましそうにつぶやきました。しかし、ほどなくして、三人は目を疑うような光景を見ることになります。

何と、一人の老婆が、子どもたちの手から板チョコを取り上げていたのです。民家の裏側でひそかに発生した、衝撃的な「事件」。帰宅後、ユキエが両親に一部始終を話すと、思いも寄らない答えが返ってきました。

聞けば、老婆は近所の住民で、子どもたちに指示し板チョコを集めていたといいます。そして「戦利品」を、闇市で売りさばいているとのことでした。

「あの子どもたち、みんなばあさんのサクラだからな」「チョコもらえても取り上げられるわよ。お前たちはやらないようにね!」。両親の言葉に、ユキエはただ青ざめるばかりでした。

出典: 岸田ましかさん提供

戦争が生んだ混沌を象徴

今回のエピソードは、昨年12月~今年1月にwithnews上で配信した漫画「アメリカさんのメイドさん」シリーズのこぼれ話です。横浜在住の90代女性が、実際に体験したことがベースとなっています。

【アメリカさんのメイドさん・前編】「アメリカさん」のメイドになった私 胸高鳴らせた面接の意外な結末
【アメリカさんのメイドさん・中編】「アメリカさん」との国際交流 メイドになって知った「衝撃の事実」
【アメリカさんのメイドさん・後編】突然自宅を訪ねてきた「アメリカさん」メイドを辞めた私の意外な体験


戦中戦後の日本人は、慢性的な食糧不足に悩まされていました。女性の兄も「白い飯が食いたい」と軍人になり、戦地で命を落としたといいます。メイドの仕事を通じて知った米国人の生活は、女性の目に、まさしく別世界として映ったはずです。

有名な「ギブミーチョコレート」も、日米間の境遇の違いを、シンボリックに反映した現象と考えられます。貴重品のおやつが手に入るとあって、大々的に報道されました。その結果、漫画で描かれる、老婆のような人々も登場したのです。

「当時の貧困からすると、切実さの程度が違うことは明白ですが、どうしても現代の『転売ヤー』を連想してしまいます。当時の混沌を思わせる光景です」。女性の親族から話を聞き取った岸田さんは、そのように感想を語ります。

戦後の混乱期、わずかな日銭を頼りに、その日暮らしを送る人々は少なくありませんでした。老婆の行為は、現代の感覚からすればあり得ないでしょう。しかし生き延びるため、誰もが必死だった時代を、象徴する出来事と言えるかもしれません。

※本コンテンツは、戦争体験者の記憶と関連史料に基づき、可能な限り過去の風俗を再現したものです。また現代の価値観に照らして、不適切と思われる描写も含まれますが、戦中・戦後の暮らしぶりを伝えるためそのまま掲載しています。



【連載「#戦中戦後のドサクサ」】
激しい闘いのイメージが強い「戦争」。その裏には、様々な工夫をこらしながら、過酷な環境下でもたくましく生き抜こうとする「ふつうの人たち」の姿がありました。戦中・戦後の混乱期、各地で実際に起こった出来事に基づく「小さな歴史」について、漫画家・岸田ましかさんの描き下ろし作品を通して伝えます。(記事一覧はこちら

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