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「やさしい日本語」が教えてくれた「かっこいいデザイン」の落とし穴
「書いてあるやん!」が伝わらない理由
「やさしい日本語」について、まちなかで見聞きしたことはありますか? 外国人のための特別な言葉、と思う人もいるかもしれません。ところがデザインの視点でも、それは、日本人にとって大事な気づきが山ほどありました。実は「縁遠くない」やさしい日本語の魅力について、イラストレーターの立場から考えます。(コラム・イラスト、逸見恒沙子)
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#役所をやさしくゴミ捨てを巡りトラブルになった外国人住民は、「ちゃんとごみを捨てたのに、怒られた」と訴えます。
職員は本当に「ちゃんと」できていたのか、一つ一つ、具体的に確認します。「指定の袋で捨てましたか?」「指定の場所に捨てましたか?」「ごみの分別はしましたか?」「ごみを出す曜日は確認しましたか?」「指定の時間までに出しましたか?」。
すると、その人は驚いたそうです。
よくよく話を聞けば、その人の母国ではごみを分別して、決まった日時に出す文化がそもそもなかったということで、「ゴミ捨てに細かなルールがある」という日本の前提が、共有できていなかったから起きたトラブルだったことが分かったそうです。日本の「ちゃんと」と、母国の「ちゃんと」の違いがトラブルを招いていた、というエピソード。
この記事を、私は「異文化コミュニケーションの大変さが詰まっている…」と興味深く読みました。
私はデザイナーなので、よくお客様から「いい感じでお願いします!」とか「オシャレな感じで!」という抽象的なオーダーをいただきます。でも、それぞれの「ちゃんと」や「いい感じ」「オシャレ」って、日本人同士でも全然違うんですよね。
だから、すれ違いが起きないように、具体的にどうするかを擦り合わせていく作業が重要になります。そうすれば「ちゃんと」の前提になる、お互いの意識が分かって、トラブルも防ぐことができる。
この記事を読んで、私はいつも、デザイナー言語ではなく、お客さんに伝わるような「やさしい日本語」で説明できているかな?と、振り返ったりしました。
「やさしい日本語」を知ったことで、普段の自分のコミュニケーションの自己点検にも繋がりました。
私は、普段、アプリやサービスサイトのデザインもするのですが、何をすべきなのかが見ただけで分かる設計をしないと、ユーザーが迷子になってしまいます。
作った側としては、記事内のダンさんのように、まさしく「ここに書いてあるやん!」と思うのですが、初見の方やユーザーのリテラシーによっては、全く伝わらなかったという経験もあります。
それから、「『視覚的に分かりやすくしたい』という一心で、色を使いすぎたこともあり、結局、何を強調したいのかが分かりにくい文書になっていた」という神戸市の反省点。分かる分かる!
新人デザイナーのころ、私も目立たせたい一心で赤や黄色で強調しすぎたために、高級マンションのホームページなのに、某ファーストフード店のような色使いになってしまい、先輩に叱られた苦い経験を思い出させてくれました…。
この連載がきっかけで起きた嬉しい変化もありました。
夫が、「プエルトリコ人の社員と面談をするときに、『昇給しました』だと伝わりにくいかもと思って、『お給料が上がりました』と言ってみたら、伝わったよ!」と報告してくれたのです。おお〜「やさしい日本語」が身近なところで役立っている!!と嬉しかったです。
これは外国人とのコミュニケーションでの実例ですが、「やさしい日本語」は、子どもや、歳の離れた方と話す時だったり、異業種同士の打ち合わせなど、日常で実践できることだなぁと感じています。
神戸市役所「やさしい日本語推進プロジェクト」のみなさん、たくさんの学びをありがとうございました。この連載をきっかけに、「やさしい日本語」は私の中でとても推進されています。
あ、中井係長、お酒の飲み過ぎにはくれぐれもお気をつけください〜。
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