多くの政治家たちに切り込んできたジャーナリストの田原総一朗さん(86)。withnewsでは月に1回、田原さんもこれまであまり接点がないような「次世代を担う人材」と対談する企画「相席なま田原」を配信しています。写真やファッションを通して、イスラム教を信仰する自分の生き様を発信する「自撮家」、アウファ・ヤジッドさん(26)との対談では、ファッションや宗教やなどについて語り合いました。対談の一部をご紹介します。
田原さん:田原総一朗です。よろしくおねがいします。アウファさんは生まれは東京ですか?
アウファさん:下町で生まれて、幼稚園から大学まで日本の学校に通っていました。
田原さん:小中学校の頃はいじめには遭わなかったですか?
アウファさん:自覚がないのか、ありがたいことにいじめはなかったですね。
田原さん:大学は早稲田大学で建築を学んでいらっしゃる。なぜ、美術大学などではなく早稲田で?
アウファさん:理工学部に建築学科があるんです。小さい頃からデザインが好きで、社会に自分がデザインしたものを反映させたいなと思って。建築って、人々の生活に根付いているものだから。そんな漠然とした理由で建築学科に進みました。
田原さん:それでなぜファッションデザイナーにおなりになったんですか?
アウファさん:現在の職業としてはファッションデザイナーではなく、普段はアパレル会社のECサイトでカメラマンをしているのですが、写真や映像を通じてグラフィックデザインなどにも関わっています。
田原さん:そんな中で、ZOZOTOWNの新ブランドを作るプロジェクトに応募されて。デザインもやられるようになった。
アウファさん:大きな夢の一つとして、ファッションブランドを立ち上げてみたいと思っていたので応募しました。そこでは面接やプレゼンテーションがあったんですけど、イスラム教徒である私のファッションへの思いなどをお話ししました。
アウファさん:「モデストファッション」という、体のラインや肌の露出を過度にひけらかさない洋服を作りたいと思っていたんですけど、それはきっとムスリムの人に限らず、様々な人にも共感できるようなファッションなんじゃないかと思って。自分のブランドを通して、生きる喜びという共感を得たいとプレゼンでは話しました。
アウファさん:イスラム教徒の女性は男性の前では肌や体のラインを包み隠さなくてはいけないという教えがあり、思春期の訪れ、だいたい初潮を迎えたら、髪や肌身を包み隠す義務があります。
田原さん:いろいろなファッションのジャンルがありますけど、アウファさんにとっての「これが他とは違う自分のファッションだ!」というのは何でしょう。
アウファさん:意外とそういったものはないんです。もちろん大事にしている自分らしさはあるんですけど、いかに日本社会に溶け込めるかという、日本になじみたいという気持ちでファッションを体現しています。
田原さん:なじむというのは?
アウファさん:やっぱりヒジャブをつけていると、見た目からして外国人になってしまって、日本人からは「外国人だ」と少し近寄りがたい印象を持たれてしまう。特にイスラム教はまだまだ日本では知識が浸透していないし、ネガティブなイメージを持っている方もいると思うので。その距離を埋めるために、ファッションというわかりやすい視点からなじんでもらいたいと思っています。
田原さん:でも、本当になじみたいのであれば、ヒジャブにこだわらない方がいいと思うんだけど。なんでヒジャブにこだわる?
アウファさん:ヒジャブを取ることは絶対にないと思います。私の中ではイスラムの信仰が第一なんです。私がヒジャブをつけはじめたのは大学生の頃で、環境もガラッと変わるということでつけることにしました。そうしたら、自分の中で見える世界が変わったんですね。
アウファさん:それこそ、相手は自分のことをムスリムという認識でいてくれるから、表面的なところであれば、豚肉やお酒を口にできないことを配慮してくれたり、男女問わず、丁寧に接してくれたりするようになったと感じています。
田原さん:ヒジャブをしていると、丁寧に接してくれるんですか?
アウファさん:これは私の意識の変化かもしれませんが、ヒジャブって髪の毛を隠すだけでなく、体のラインも隠すんですね。だから、自然と自分の意識も「かわいい私を見て!」といったところにいかなくなり、心もつつましくなるんです。言動や思考を理性的に保ってくれるというか。そういう経験を通して、私にとってヒジャブは欠かせないものになりました。
田原さん:日本の女性も昔は肌を見せなかったんですよ。着物は夏でも長袖ですからね。だんだんとアメリカ、ヨーロッパのファッションが入ってきて、日本の女性も肌を見せるようになってきたんですね。
アウファさん:そうですよね。なぜか、「隠すことが不自由だ」という印象になっていったと思うんですけど。私は逆に隠すことで、すごく安心で心が自由になるんです。男性から性的な目で見られず、良い距離感を保ち、外見ではなく私の内面やイスラムの教えに魅力を感じてくれるようになったと思います。
田原さん:「外見で勝負をしない」と言いながら、アウファさんは「ファッションの世界」で勝負をしている。これはすごくおもしろいことですよ。
アウファさん:イスラムの教えの中で自分の自由を見いだしているので、「見せるファッション」ではなく「自分らしさを保つためのファッション」だと考えています。
田原さん:多くの日本人は、神社やお寺にお参りには行っても特定の宗教を持っていない。でも、アウファさんはイスラム教の信者になった。日本人は信者になると「縛られる」と思っている節があると思うんだけど、それは違う?
アウファさん:全然縛りはないです。それこそ私も、イスラム教徒ではあったけれど、ほぼほぼ日本的な感性を持ちながら女子高生をしていました。「もうすぐ好きなアーティストのライブがある! 楽しみ!」とか「明日のテストがんばらなきゃ〜」とか。
アウファさん:もちろん、豚肉を食べないとか、お酒を飲まないとか礼拝をしましょうとか、そういった信仰に沿った選択はある。でもそれらは強制されておらず、自分の意志で選択できる。全て意味があるもので、神様が私たち人間のために与えてくれた、正しく生きるための自由だと思っています。この教えがあるから、より高みを目指せるようになっていっています。
田原さん:アウファさんがイスラム教の信者となったことで、ファッションは変わりましたか?
アウファさん:はい。やっぱり、人間の美しさを隠しながらも、なお、楽しめるという点を追求できるようになりました。
田原さん:なぜ美しいところをわざわざ隠さなくてはいけないのですか?
アウファさん:そもそもは、この世界を創造した神様がそう教えているから、それが正しいと信じて従っています。髪や肌身を包み隠していくことは、男女が共存する世界における、理想の形なんだなと私は人生の様々な経験を積み重ねていく上で感じました。女性は体を包み隠す、男性も同様にプライベートな部分を隠すことで初めて、良い距離感ができるんじゃないかと思います。
アウファさん:ファッション業界の欧米化が進んでいった背景を受けて、それでもやっぱり体を露出したくない人もいるとは思うんです。コンプレックスを持っている人だっているはず。社会的な「女性像」にプレッシャーを感じていたりとか。私はそういったものから解放された、とらわれないファッションの実現を目指しています。
田原さん:今後、世界規模で活躍していきたいという思いはある?
アウファさん:ないんです。
田原さん:ないの!? なんで?
アウファさん:まずは世界よりも、日本に生まれた環境を活かして、日本の人と国内で頑張りたいです。自分の活動は日本でやっているからこそ、価値があるのだと思います。
田原さん:それはおもしろいね。日本人はアーティストでもなんでも、日本で成功したら世界市場に出て行きたいものだと思うんだけど。
アウファさん:逆にもうちょっと日本の人と寄り添った関係を持ちたいですね。まだまだなので。ヒジャブの概念はイスラムの教えに限らずいろいろな人にも当てはまる教えですし、ただ被るってだけじゃないんだよ、というのを共有したいです。
アウファさん:ヒジャブを被っている、イスラム教徒であるってだけで、ひとりの人間としての葛藤や悩み、うれしさや喜びを持っている、みなさんとなんら変わりない普通の人なんですよというのをどんどん共有していきたいんですね。
田原さん:アウファさんみたいな人は初めて見ましたよ。世界、世界、と言わずに日本で勝負していきたい、そういうことをはっきり言い切る姿が非常に魅力的。どんどん頑張ってほしい。
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次回の「相席なま田原」は、2月22日(月)19時より配信します。