多くの政治家たちに切り込んできたジャーナリストの田原総一朗さん(86)。withnewsでは月に1回、田原さんもこれまであまり接点がないような「次世代を担う人材」と対談する企画「相席なま田原」を配信しています。SNSで仏教の魅力を発信している浄土真宗本願寺派・永明寺の松崎智海さん(45)との対談では、宗教やお寺のあり方などについて語り合いました。対談の一部をご紹介します。
田原さん:田原総一朗です。よろしくおねがいします。今日はどんな話をしてくれるのか興味津々です。
松崎さん:北九州市にある浄土真宗本願寺派寺院の住職をしております、松崎智海と申します。
田原さん:仏教のどの宗派の檀家(だんか)もどんどん減っているんですね。信者も減っています。今、先が見えない時代です。先が見えない時代というのは信者が増えるはずなのに、どうして減っているんですか?
松崎さん:ニーズや求められる姿というのはあると思うんです。私たち自身がそれを発信しきれてないんじゃないか、というのが僕の今の感覚です。
松崎さん:お寺が、すごく狭いつながりの中でしか、社会とつながってないと思います。いろんなバリエーションのあるつながりを選択するべきです。
松崎さん:例えば、「葬式仏教」と言われています。葬式の時にしかお坊さんが来ない。どんなことをしているのかわからない。そういうイメージの中では、門徒さんたちもどうしたらいいのかわからないのではないかと思います。
田原さん:浄土真宗のお坊さんは葬式のときとかにお経を読むだけなんですよね。例えば、曹洞宗や臨済宗のお坊さんは、いろいろ話をしますよね。
松崎さん:浄土真宗で言うならば、1番大切なことは聞くことなんですよ。なので、聞くということを伝えることがとても大切なんです。たくさんのものを私たちは発信していかなくてはならない。でも、田原さんがおっしゃったように、法事の時にお経を読み、スッと帰ってしまう。それだとやはり、今私たちが持っている良さや伝えるべきものはなかなか届かないと思います。
田原さん:基本的な質問ですが、お経って昔の言葉で、読んでもよくわからないですよね。なんで、みんなにわかりやすい言葉に翻訳しないで、昔の言葉のままのお経なんですか。
松崎さん:例えば、翻訳するのは様々な恣意(しい)的なものが入ってしまうので、慎重になっている、というのはあります。
松崎さん:ただ、最近結構わかりやすく読めるものというのは発行されているんですよね。そういうものを活用していない。
田原さん:宗教の信者や檀家は減っているけれども、若い人がお寺に行ったり、神社に行ったり、お札をもらったり、不安が由来でスピリチュアルがはやっている。この現象をどうみればいいですか。
松崎さん:やはりみなさんが求めるものを、私たちが提供しきれてないのだと思います。私たちはしゃべることはすごく得意だったりするんです。ただ、聞くことをしていないという反省はあると思います。
田原さん:最近では仏教の本がたくさん出ていて買って読んだけど、仏教はどれも難しいよね。それにもかかわらず松崎さんの話を数万人の人が聞いている。どんな話をしているんですか?
松崎さん:僕はTwitterなどで発信していますが、ネットで教えを伝えようとは思っていないんです。なぜかというと、やはり人が伝えるというのは対面でないと伝えきれないと思っています。だから私がよく言っているのは、Twitterとかインターネットで発信しているのはPRですよ、ということです。
松崎さん:浄土真宗といろんな人たちのつながりの入り口を増やすためにこういう発信をしています。内容は、宗教がああだこうだというよりは、お寺って楽しい所ですよ、みなさん話を聞いてみませんかとか、自分の悩みを発信して、お坊さんも普通に悩んでいるんだ、普通の迷いの中で仏道を歩んでいるんだ、というところを見てもらいたいと思っています。
田原さん:生きにくい時代に、生きてるって楽しいよって思わせるのが宗教だと思うんだけど、松崎さんはどうしたらそういう風に思わせることができると考えますか。
松崎さん:自分の人生楽しいか楽しくないか、というのは気付きだと思うんです。
田原さん:多くの人は楽しくないと思っているのでは?
松崎さん:ただ、本当に楽しくないか、というのは私たちの心次第ではないかと思います。
田原さん:松崎さんはどうやって楽しくする?
松崎さん:僕は、まずは自分が楽しんでいるところを見せるかな。楽しそうに仏教を学んで、お寺にかかわっている姿をみなさんに楽しんでいただけたらなと思います。
田原さん:数万人が松崎さんの話を聞きたくて集まってくるってすごい話よね。なんでなんだろう。
松崎さん:やっぱりお寺というものに対して興味はあると思うんですよね。お寺って必ずお葬式とかで出てくるじゃないですか。一般的に敷居が高いものを私はなるべく下げようと思ってますので、そこに興味を持ってくださっているなというのはわかります。
田原さん:下げるってどういうこと?
松崎さん:入り口を増やすことですね。例えば、インターネットもそうです。YouTubeの配信でもそう。Twitterでもそう。お寺ではイベントもしています。お寺マルシェといって、地域の方々に40~50店舗来てもらって境内でお祭りをする。あとはコンサートをしてみたり、ヨガ教室をしてみたり。いわゆる昔の寺子屋のようなかんじです。
田原さん:イベントを催すわけね。
松崎さん:僕の目的はお寺に入ってもらうこと。お寺の門に入ってもらうことなんです。なるべくいろんな人がお寺に来られるように。門徒とか檀家とか、囲い込むじゃないですか。みなさん入っていいのかわからないんですよ。誰でも入ってもいいんですよと広げるために、いろんなイベントをしています。
田原さん:入れば楽しいってことを提供したいわけね。
松崎さん:そうです。で、お寺に興味を持ってもらって、お寺って楽しい所ですよ、というのを発信しています。
田原さん:話を聞いてくれる人たちは全国的に広がっているんですか?
松崎さん:そうですね。Twitter上では全国的ですし、色んな方がいらっしゃいます。
田原さん:松崎さんのどういう所に興味を持つの?
松崎さん:どうなんですかね。伝統的な仏教のイメージが変わってくるからかなと思います。
田原さん:伝統的な仏教はつまらないと。お坊さんの意見は?
松崎さん:そう、つまらない。変な話、エンターテインメント性がないじゃないですか。例えば、法然上人や親鸞聖人の時代は、お寺の行事というのはまさにエンターテインメントなんですよ。行って楽しい、ごはんも食べられる。みんながワイワイやってにぎわっている。そういう意味では、とってもその当時のおもしろかったもの。今の時代ではもっとおもしろいものが出てきているじゃないですか。テレビも、映画も、ゲームも。そんな中、私たちが何も変わることなく、ずーっと同じアプローチを続けているのは少し問題かなと思いますね。
田原さん:これから先、どういう展開をするおつもりですか?
松崎さん:僕はですね、お寺を少し大きく改造していきたいと思っています。いろんな層の人たちが気軽にアクセスできる。例えば、ただ単にお寺に興味があるとか、お寺行ってみたいという人も入れるし、お弔い、ご先祖様や仏事、亡くなった人たちにかかわっていきたいという人もすぐアクセスできる。本当に仏教の深いところにも触れていきたい人たちにもかかわれるし、どんな人でも気軽にポッと入れるようなお寺を作っていきたいなと思っています。
田原さん:松崎さんは仏教というものをどうわかりやすく説明しているんですか。
松崎さん:仏教は、仏様になる仕事です。慈悲の道を歩むということですよね。人を傷つけず、人に思いやりの心をもって接するということができる、そんな人たちになるための教えだと思います。
田原さん:だけど世の中には、人のためって言ったって、自分の生活が苦しい人もいっぱいいる。例えば、日本で年収200万円以下が1200万もいるんですよ。こういう人にはどうしたらいい?
松崎さん:もちろん、お金を手に入れることも大事です。でも、それにしがみつかないということも大事なんじゃないかなと思います。仏教では手放すっていうことを大事にしていますけど、例えば、今ここにある手に握ったお金に固執するんじゃなくて、手放していけるような心持ちですよね。だから所得が高いから幸せ、低いから不幸、というわけではないと思うんです。
田原さん:多くの人が、特に50過ぎると、生きづらさ、不安を持つが、そうじゃなくて人生は楽しいんだよということをいかに松崎さんがみんなに思わせるかですね。
松崎さん:田原さんが今おっしゃってくれたことは僕が目指しているところと同じ。とっても勇気をもらえました。