連載
#220 #withyou ~きみとともに~
「さっさと離婚しろ」両親にぶつけた怒り 本当に欲しかった支えは…
「一言でいい。『話を聞くよ』と言ってほしい」
連載
#220 #withyou ~きみとともに~
「一言でいい。『話を聞くよ』と言ってほしい」
金澤 ひかり 朝日新聞記者
共同編集記者両親がケンカをする声が聞こえる家の中で、「とにかくぐちゃぐちゃで訳のわからない感情」をただひたすら抱え込んだ中学時代。19歳になった男性の中にいまも残る当時の記憶を、イラストレーターのしろやぎさんがマンガにしました。男性に、「あのとき必要だった支え」を聞くと、意外な答えが返ってきました。
男性は九州地方に住むトオルさん(仮名)です。
トオルさんが中学3年生になった頃、両親の仲が険悪になっていきました。
自宅のリビングで言い争いをしていることもしばしばあり、トオルさんが別の部屋にいても二人の声が聞こえてくるような状況でした。
トオルさんは、両親がケンカをしている「声」自体にストレスを感じると同時に、「家族が壊れていっている」という悲しさもあり、「感情が頭の中でぐちゃぐちゃに絡まっているような気持ちでした」。夜、ベッドの中で涙があふれることもあり、「とにかく混乱していました」と振り返ります。
トオルさんには2人の兄弟もいましたが、両親は3人の子どもたちに気を遣ってか、子どもたちの前では「平静を保つようにしているように見えた」。ただ、両親がケンカをしていることも、母親が結婚指輪を外していることも、新しい仕事を始めたことも、トオルさんたち兄弟は気づいていました。
トオルさんが中学3年の12月のある日、この頃はもう自宅に帰らなくなりつつあった母親の姿が、久しぶりにリビングにありました。
しかしそのときもまた言い争う両親を見たトオルさんには、怒りや悲しみ、あきれ…様々な感情が止めどなく押し寄せてきました。
「我慢の限界が来て、怒りが収まらないような状態だった」と、「白々しく笑うなよ」「ケンカしてるの知らないわけないだろ」と二人を激しく責め立てました。
そして、こんな言葉も口からこぼれました。「そんなに嫌いなら、さっさと離婚しろ」――。
それを聞いた父親は黙り込んでしまい、母は、「こんなん言われたら、もう書くもん書くしかない」と言って、離婚を決意した様子だったといいます。
「このとき感じたのは怒りでした」とトオルさん。
一方で、こうも思ったといいます。
「離婚しろとは言ったけど、そんな簡単に離婚すんのかよ」
数日後、母親がトオルさんに謝罪した際には「はよ出て行けや」と告げ、数週間後には母親は自宅を出ていき、両親は離婚しました。
その後、親族からは「離婚しろ」と言ったことに対してトオルさんが責められることもあったそう。
「夜もあまり眠れなくなり、友だちや彼女に八つ当たりしてしまうこともあった」と振り返ります。
当時、トオルさんには相談事をできるくらい親密な友だちだったり、彼女もいましたが、「両親のことについての相談はできませんでした」。
中学3年生ということもあり、周りは受験モード。相談する相手のことを考えると、自分のことを話す気になれなかったといいます。
「『親が離婚しそうで毎日辛い』と他人に言うことは、簡単そうに見えるかもしれませんがかなり難しい」とトオルさん。
一方、2人の兄弟とは愚痴を言い合ったりすることもあり、「そこで少しは気晴らしができたのかもしれない」。ただ、弟に対しては「自分のせいで両親の離婚を経験させてしまった」という気持ちがあり、いまも罪悪感がぬぐえないのだといいます。
当時のトオルさんにとって、どんなサポートが必要だったかを聞くと、「誰かに何かをしてほしかったというより、自分から信頼できる人に相談すべきだったと思います」という答えが返ってきました。
「もしいま、僕と同じような状況にいる人には、勇気を振り絞って誰かに打ち明けてほしい」と訴えます。「当時、話を聞いてもらっていたら、気持ちが軽くなっていたかもしれない」とトオルさん。
自分と同じような悩みを抱えた人から相談を受けた場合は、「親身に話を聞いてあげてほしい」。
「もし何かトラブルを抱えていそうな人がいたら、一言でいいので『話を聞くよ』と言ってあげてほしい」
「シンプルすぎるかも知れませんが、結局これに尽きると思います」
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