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連載

#213 #withyou ~きみとともに~

子どもを追い詰める「ゼロリスク思考」 過剰な警戒心が壊す信頼関係

「人を信頼するということは、完璧を求めることではない」

精神科医の井上祐紀さんは「大人たちがつくってしまった雰囲気が子どもたちの心に陰を落としていくことを防がなくては」=写真はイメージです
精神科医の井上祐紀さんは「大人たちがつくってしまった雰囲気が子どもたちの心に陰を落としていくことを防がなくては」=写真はイメージです 出典: pixta

目次

新型コロナウイルスによる休校期間や、再開後の学校では、子どもたちの「日常」が変化しました。学校ではいまも、感染対策に万全を尽くすための努力が日々続けられています。児童精神医学が専門の精神科医、井上祐紀さんは、「最大限の感染対策をした上で、子どもたちの日常を保障してほしい」と話し、「ゼロリスク思考」に対しては警鐘を鳴らします。「大人たちの過剰な警戒心は、信頼感をはぐくむべき時期の子どもたちに深刻な影響を及ぼします」とする井上さんに、コロナ禍の「信頼」とはなにかを聞きました。

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「ゼロリスク思考」、子どもたちにも影響

――井上さんは「コロナ禍は、日常が失われることにものすごく敏感な子どもたちへの影響もある」と指摘しています。
いまの首都圏における感染状況は、予断を許さない状況だというのは間違いありません。
現実的には、すぐにこの問題が解決できる方法がない以上、最大限の感染対策をやった上で、子どもたちには必要最低限の日常は保障されるべきではないか、というのが私の意見です。

――一方、「必要最低限の日常を保障」と感染症対策とのバランスで頭を悩ませている学校も多いと思います。
感染対策については文部科学省がガイドラインをつくっています。やや突っ込んだ意見になってしまうかもしれませんが、子どもたちの長期的なメンタルヘルスも確保しないといけない、ということも考えると、ガイドラインを守りながらであれば、基本的に授業や最低限の課外活動は続けていくべきなんだろうと思います。
子どもたちが日常を失うことは、コロナウイルスにかかるよりも恐ろしいことかもしれないですよね。

――ガイドラインを順守しながら、最低限度の学校生活を続けていくべきだということですか?
公教育は、物理的に密にならざるを得ない環境でやっているので、先生たちも本当にしんどいだろうなと思います。
分散登校くらいの人数にしてあげないと、感染対策はすごく大変だろうと思う。

その上で、感染症は、一定の確率で感染者が出ます。もし、「なにがなんでも感染者をゼロに」というゼロリスク思考が先行しすぎると、結論は「なにもかもやらない方がいい」という話になってしまい、結局休校しか選択肢がなくなってしまいます。
子どもたちと親御さんたちの健康を考えると、そのゼロリスク思考は子どもたちへのリスクが計り知れないなと思います。

精神科医の井上祐紀さん=本人提供
精神科医の井上祐紀さん=本人提供

「何ならできるか」を考える

――子どもたちの日常の確保と感染症対策、難しい問題です。
いまも、休み時間に友だちと話をすることすら禁止したりする学校もあると聞きます。そういう状況で2年3年育った子たちってどうなっていくんだろうと思っています。

もちろん、感染対策をないがしろにしては絶対にならないですし、クラスターが起きたときに局所的に一定期間休むということは絶対に必要だとは思います。
一方で、「子どもたちの日常を失わない」ということに、もっともっと重きが置かれても良いんじゃないかという思いがあります。

――子どもたちからは、学校行事がなくなることへの不安や「行事の中止が仕方ないというのはわかっているんだけど…でも…」という声が聞かれます。
イベントについては、内容によって判断が分かれますよね。ただ、「何もかもやらない方がいい」という思考にだけはならない方がいいと思います。「何ならできるか」ということを考えてほしい。

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信頼を学ぶ年代なのに、社会は「過剰な警戒心」

――これが長く続いた場合、子どもたちにどんな影響が出るんでしょうか。
ゼロリスク思考は子どもたちの育ちにものすごく深刻な影響を及ぼします。それが長く続いた場合…想像もつかないですが、過剰な警戒心をずっと植え付けられるっていうことだと思います。

――過剰な警戒心ですか。
極端な話ですが、お友だちと話をしただけで注意されてしまうようなことがあったら、過剰な警戒心が埋め込まれてしまうんじゃないかと思います。
それを強いられた中で、人間関係を発達させることってできるんでしょうか。

子ども時代は、「これさえやっていれば私たち大丈夫だよね」「感染対策していれば私たちしゃべって大丈夫だよね」という、お互いの信頼をはぐくむべき時代です。

人を信頼するということは、完璧を求めることではなくて、完璧じゃないことをわかり合った上で信頼するということです。
「お前絶対感染していないよな。だったら信頼する」っていうことではない。
「僕たちやれることはやったよね」「俺たち十分頑張っているよね」というコミュニケーションが必要です。
ですが、ひどい学校では、3密になっているところを監視して歩いているそうですよね。子どもが子どもを監視させるなんて、最もさせちゃいけないことです。
警戒心が強すぎる中で育つっていうのは、対人関係全般にどんな影響もあるか想像もつかないくらいだと思います。

――警戒心が強すぎるというのは、学校内の話だけではなく、社会全体としてもそうですね。
感染者が出ても絶対に責めない雰囲気作りがどこまでできるかということだと思います。たったひとりの感染も許されず厳しく糾弾されかねない雰囲気は、非常に心配です。
大人たちがつくってしまった雰囲気が子どもたちの心に陰を落としていくことを防がなくてはいけないと思います。

     ◇
(いのうえ・ゆうき)
児童精神科医。東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授。5月には「10代から身につけたい ギリギリな自分を助ける方法」(KADOKAWA)を刊行。

友だちや家族、恋愛など「中高生が生きづらさを感じたときの解決のヒントを提供したい」と執筆。


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