連載
#206 #withyou ~きみとともに~
「バレたら終わりだ」ゲイ隠すため、ゲイを罵倒「自己嫌悪で吐き気」
「お前はお前だろ」「言ってくれてありがとう」「気付いてあげられなくてごめん」――。
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#206 #withyou ~きみとともに~
「お前はお前だろ」「言ってくれてありがとう」「気付いてあげられなくてごめん」――。
金澤 ひかり 朝日新聞記者
共同編集記者自分がゲイであることを誰にも打ち明けられずに高校時代を過ごした男性がいます。友人が多かったことが「逆にきつかった」と、時には自分からLGBTQを差別するような発言をしてしまったという男性の気持ちを、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんが描きました。同じような境遇にある人たちに向け、「苦しい環境からの逃げ道を探してほしい」と訴えます。
九州地方に住む大学生の男性、コウタさん(仮名)は、中学生の頃、同性を好きになったことをきかっけに、自分がゲイであることに気づいたといいます。ただ、高校を卒業するまで、そのことを誰にも打ち明けることができませんでした。
高校時代は体育祭の団長を務めるなど、友だちも多かったというコウタさん。特に、高校2年生の時のクラスメイトや部活の仲間とは仲が良く、スポーツや趣味のゲームの話などをしたり、なんでも相談してくれる友だちでした。
しかし、コウタさん自身は、自分の性的指向の話だけはどうしてもできず、「ずっと孤独を感じていた」と話します。
「周りには本当に恵まれていましたが、ずっと自分を偽っていたので、みんな本当の自分じゃない自分を好いてくれてるんだと思ってました」
家族に対しても同じでした。
兄が自宅に彼女を連れてきたときも、母親に「あんたも彼女できたら連れてきなさいよ」と言われましたが、恋愛に興味がないふりをしてごまかしました。
「ウソをつき続けている」という後ろめたさがある一方で、「バレたら終わりだと思っていた」と話します。
「もしバレてしまったら、自分の周りの人に被害があったり、信頼していた人に見切られたりすると思い、怖かったんです」
その頃のコウタさんは、「これが一番バレない方法だととわかっていた」と、自分から率先してLGBTQを差別するような発言をすることもありました。
例えば、一般的にイメージされる同性愛者を友人がまねたり、友人と一緒に見たテレビ番組やYouTubeチャンネルの動画に同性愛者が出てきたときに、「心にもない言葉、誰もが言われたら傷つく言葉で罵倒しました」。
「自分が言われて1番傷つく言葉をあえて自分で言っていた」というコウタさんは、「隠すことに必死だったので、バレないためならなんでもするつもりでした」。
ただ、「隠す」ことを優先させた毎日は、コウタさん自身を深く傷つけていきました。
「そういうことをしている時が、1番落ち込みました。自己嫌悪と罪悪感で、ずっと吐き気がするし、生きてる意味がわからなくなっていました」
そんなコウタさんが変わるきっかけになったのは、高校卒業という節目でした。
「もし誰かに拒絶されることがあったとしても、その先関係を絶ちさえすれば、自分が傷つかないと思った」と、仲の良かった男女10人ほどに、電話や対面などそれぞれ別の状況で、自分が好きなるのは同性であることを打ち明けました。
「女の人のことは好きになれなくて、男の人が好きなんだ」。そして「隠しててごめん」ーー。
「打ち明ける前は人生で1番ってくらい緊張した」とコウタさん。
友人たちからは、それぞれ「何も変わらないよ」「お前はお前だろ」「これからもいつも通りやろ?」「言ってくれてありがとう」「気付いてあげられなくてごめん」との言葉が返ってきました。
コウタさんは「全部の言葉がうれしかった」と、「罪悪感がなくなり、スッキリした」と振り返ります。
打ち明けるまでは、周りに多くの友人がいるのに孤独を感じ続けていたコウタさんでしたが、「なんでこの人たちに早く言わなかったんだろう」という気持ちになったといいます。
一方で、いま、同様の思いをしている人たちに対しては、こう付け加えます。
「隠してて平気なら隠してていいと思います。嘘をついて隠すことに罪はないということもわかって欲しいです」
また、悩んでいた高校時代は「大事な時間だった」といいます。「向き合った時間と、その時ずっと感じていた痛みのおかげで、いろんな人の気持ちを考えられるようになりました」
「『強くなるため』と思って我慢を続けるのは絶対によくないけど、乗り越えた結果自分にはその分の強さが得られたと思っています」
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