連載
#204 #withyou ~きみとともに~
「なんでそんなこともできないの」部活で孤立した私を救った言葉
悩むことは間違いではないし、次に進むためのもの
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#204 #withyou ~きみとともに~
悩むことは間違いではないし、次に進むためのもの
金澤 ひかり 朝日新聞記者
共同編集記者「悩むことは間違いではないんだよ」――。高校時代、ハンドボール部キャプテンとしてチームをまとめる難しさに直面した女性の経験を、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんがマンガにしました。女性は、副キャプテンからかけられた言葉によって、「人に頼ってもいいと気づいた」といいます。
エピソードを寄せてくれたのは、静岡県の23歳の女性、Sさんです。
高校生の頃、ハンドボール部のキャプテンをしていたSさん。県大会でベスト8に入るようなチームでしたが、Sさん自身は「周りの意見に耳を傾けず、勝つための練習ばかりしていた」といいます。
「勝ちたい」という思いが強くなればなるほど、周りに対しても次第にきつい言葉を投げかけるように。仲間のミスにも「なんでそんなこともできないの」「ちゃんとやって」と、後ろ向きな言葉を伝えてしまっていました。
ある日、練習が休みの日をつぶし、外部コーチを招いた練習にあてようと提案したときのことです。
同期たちからは、「急に言われても困る」「予定を入れてしまっている」と反発されてしまいました。
そんな仲間たちに対して「せっかく練習ができるのに」と思ったというSさんは、「じゃあもういいよ」。
結局その練習には誰も来ることなく、Sさんは 「なんとなく、みんなと壁を感じるようになりました」。
そんなSさんが、「私よりキャプテンに向いている」と思っていたのが、副キャプテンです。同期からも先輩からも、後輩からも慕われていました。
Sさんともいい関係で、 部活のことだけでなく、恋愛やクラスの話しも相談したりする、「私の足りない部分を補ってくれているひと」でした。
そんな副キャプテンは、チーム運営に悩んでいたSさんを見かねて、二人でいるときに笑顔でこう伝えてくれたといいます。
「一人で暴走しちゃっているよ。一人でなんとかすればいいって思っているかも知れないけど、みんなでやっている競技なんだから、みんなの気持ちも考えてあげないとね!」
しかし、当時意固地になってしまっていたSさんは「最初は受け入れられませんでした。『なんで私がそんなこと言われなきゃいけないんだろう…』って、モヤモヤしてたんですよね」
ただ、その言葉は後になってじわじわと効いてきたといいます。
少し時間が経ち、普段以上にきつい練習メニューの日のことでした。
休憩時間も少ない中、みんながコーチに一生懸命食らいついている姿を見たとき、ふと、副キャプテンの言葉がよぎったのだといいます。
「みんなのどこが強みなのか、どこを改善したらいいのか、理解してみんなで共有しないといけない」
そう感じたSさんは、練習後、その気持ちを仲間たちに話し、「みんながやりたいことも私に教えてほしい」と伝えました。その後、少しずつ、自分の思いを伝えながら、仲間たちの気持ちもくみ取れるようになってきたといいます。
すると、次第にメンバー同士の会話や笑顔が増えるなど、チームの雰囲気が変わっていきました。
迎えた、引退前最後の大会。
前日の夜に、Sさんは同期のグループLINEに長文でメッセージを送りました。
「私は1人で突っ走ってみんなにたくさん嫌な思いをさせてきたし、みんなきっと副キャプテンがキャプテンならよかったのにと思っているんだろうなって思うこもとあったこと。たくさんのごめんねよりたくさんのありがとうの方が多いということ。明日の試合はみんなで勝って次の日もみんなで試合がしたいこと。みんながいてくれたからやってこれたことを伝えました」
メンバーからは同じように長文で返信があったり、「あんな長文泣かせにきてるよ!」と言われたり。「みんなに背中を押してもらった気持ちでした」
当時、キャプテンとしてチームを強くしたいという一心で突っ走ってしまっていたSさん。そんな当時の自分に言いたいというのが、「周りを見てほしい」ということです。「そこにはあなたを支えてくれる仲間がいて、あなたが気づいてないだけで、みんなが一生懸命取り組んでいます」
「悩むことは間違いではないし、次に進むためのものだと思います。たくさん悩みながら模索して、答えを見つけ出して欲しいです」
そして、その経験から「悩んだあと、答えを見つけ出そうと思えるようになった」といいます。「1人で頑張ろうとするのではなく、誰かに頼ってもいいんだと思います」
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