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「歌舞伎町案内人」が語るコロナ 来日32年、苦境の中の「気づき」
新型コロナウイルスで揺さぶられている観光業界や飲食業界の中でも、特に大きな打撃を受けているのが新宿・歌舞伎町です。「歌舞伎町案内人」として知られる李小牧(り・こまき)さんは、中国から来日してからずっと歌舞伎町を拠点に活動をしてきました。中華料理店を経営し、区議選への出馬も2度経験した李さんの目に、今の歌舞伎町はどう映っているのでしょうか。コロナから得た「気づき」について聞きました。
李さんは1988年に留学生として来日し、日本語学校やファッションの専門学校に通いながら、アルバイトでラブホテルの清掃係やティッシュ配りもしました。
その後、外国人観光客を飲食店や風俗店に案内する仕事が本業になり、さらにファッション雑誌の記者、作家、レストランの経営者など様々な職業を経験します。
2002年には『歌舞伎町案内人』を出版。現在、中国版ツイッターの微博では「日本案内人李小牧」というアカウントを持ち、フォロワーが32万人を超えています。
長く夜の世界で生きてきましたが、2015年4月の新宿区議選に立候補するため、日本人に帰化。結果は400票差で落選。2019年に2度目の立候補をしましたが、落選しています。
歌舞伎町の一角で、中華料理店「湖南菜館」を経営しながら、歌舞伎町のホスト・ホステスにも取材し、彼らの現状や本音を発信している李小牧さんですが、コロナの影響について、彼の目にはどんなものが映っているでしょうか。
湖南菜館のお客の半分以上は中国人観光客で、本場の辛めの湖南料理を提供しています。
「1月25日、旧正月の初日はまだ客席が満席でしたが、その後観光客が急激に減り、とうとうゼロになりました」
「コロナ前なら、毎晩、回転率について気になりましたが、緊急事態宣言が解除された現在でも、回転するどころか、かろうじて一つか二つのテーブルが稼働する程度です」
3年前に、ウーバーイーツに登録しており、出前サービスも提供しています。
しかし、全体の売り上げは「コロナ前と比べれば、売り上げは99%落ちました」と嘆きます。
李さんのお店だけでなく、ほかの飲食店も似ている境遇だそうです。
李さんによると、「来日観光客の増加の見込み」と「2020年東京オリンピックの開催」を期待して、昨年、新宿区歌舞伎町だけでも11軒の中国系火鍋店が開店しました。
「政府の給付金があっても、そもそも入居費などのコストが高いため、赤字状態が続いています」と李さんは話します。
2019年に2度目の選挙で落選した李さんですが、「選挙には負けたけど、人生に負けたわけではない」。現在は、「三度目の正直」として、3年後の立候補を目指しています。
70歳で港区議会選挙で、初当選を果たしたマック赤坂氏の名前を挙げ、「僕もチャレンジしつづけたいと考えています」と意気込みます。
一方、コロナは政治活動にも影響を与えているそうです。
「なかなか直接、人に会えない。無償でお弁当を配ったりすると、賄賂になりますので、僕なりに活動を考えるようにしています」
李さんが力を入れるのは、歌舞伎町の在日の華人、外国人、店長らに向けた、給付金や融資の申請などの手伝いです。
「2011年の東日本大震災を経験したので、これらの手続きに詳しくなりました。日頃から政府のホームページなども見ているし、こういう情報をいち早く確認し、必要がある人に教えています」
留学生への支援も続けており、ビザや学校の入学関連の手続きなどを、微博や微信(WeChat)などのソーシャルメディアを使って配信しました。
「とにかく、みんなパニックに陥らないように、落ち着いて行動しようと、呼びかけました」
歌舞伎町のある新宿では、感染の広がりが心配されます。李さんが特に気にするのは若者です。
「若者自身が感染しても重症化しにくいなど、軽く見てしまう場合があるかもしれません。感染源にもなる意識が圧倒的に足りないと感じます」
経済への影響も長期化しそうです。
「歌舞伎町でも犯罪率が増加するのではないか心配です」
それでも、李さんは、今の状況から得られた気づきがあると言います。
「たとえばホスト、ホステスの多くは、別の仕事に再就職する道が狭いのが実情です。そして雇用主が彼ら/彼女らのために、保険金や年金、失業保険などを加入させているかで、状況が変わってきます」
雇用主が働き手のことを考えていれば、給付金などがもらえる道が広がりますが、社会保険がまったくない場合、生活のために、出勤し続けなければならない現実があると指摘します。
「コロナは歌舞伎町に大きな試練を与えていますが、きちんと法律を守り、税金をしっかりと納め、社会福祉制度を歌舞伎町にも浸透させることが非常に大事だと、今回のコロナ禍から、あらためて教えてもらったのです」
李さんは一人の経営者として、東京五輪に期待していました。しかし、現在は、違う考えになっているそうです。
「2020年東京オリンピック・パラリンピックの中止を早く決断してほしいです」
その理由は二つあると言います。
一つめはワクチンです。「ワクチンの大量生産がない限り、来年たとえ五輪が開催されても、観光客の大量の来日はあまり期待できないでしょう」
二つめは五輪のコストの問題です。「選手村や五輪スタジオなど施設の維持費用もハンパではありません。中止を宣言し、その分を都民・国民のために使ったほうが効率的です」
歌舞伎町に文字通り根を下ろした李さん。これからも、微博などSNSや雑誌への寄稿などを通じて、歌舞伎町の今を発信していくそうです。
「最近、歌舞伎町の看板が毎日のようにテレビに出ています。これはダメージだけでなく、ピンチはチャンスだと考えています。困難の状況を何とか乗り越えて、歌舞伎町の伝統と文化をしっかりと引き継いでほしいと思います」
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