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連載

#3 凸凹夫婦のハッタツ日記

炊飯器にカビ、部屋にキノコ…掃除が苦手なADHD夫が変わった理由

片付けるということは“全く物がない空間”を作らなければならないと考えていた。

夫・光さんが書いたメモ=西出夫妻提供
夫・光さんが書いたメモ=西出夫妻提供

目次

抜けもれが激しいADHD(注意欠如・多動症)の夫。こだわりが強いASD(自閉スペクトラム症)の妻。西出光(ひかる)さん(25)・弥加(さやか)さん(31)夫妻は共に発達障害です。まるで「妻が先生、夫が生徒」のような関係で、凸凹を補っているという2人。離れて暮らす選択をしましたが、同居していたとき大きくズレていたことの一つは”掃除”でした。夫・光さんの視点でつづります。

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キノコが生えた部屋

僕は、部屋の掃除が極端に苦手だった。実家で暮らしていたときから自分のスペースだけは荒れていた。

一人暮らしを始めてからはさらにひどくなり、炊飯器でご飯を炊いたまま放置してカビだらけにしてしまったり、部屋にキノコが生えてしまったりするほど片付けを怠っていた。

散乱した部屋は住みづらく、物が壊れてしまうことにもつながった。実際、エアコンのリモコンを踏んで壊したこともある。

ここまで影響が出ているのに部屋の掃除ができないのは、自身の特性も影響していると思う。

僕は重度のADHDで、視覚での情報処理、連想をする部分が弱い。物を収納したり、元の場所に戻したりすることが極端に苦手だった。この状態は見た目からは判別しにくく、周りから発達に特性があると気づかれにくい。

服を引き出しにしまうと、服は僕の視界から消える。通常であれば引き出しを見て「入れたものや残りのスペース」などを連想できるはずだが、僕の場合「引き出し」としか判断できない。引き出しを見て、物の記憶を呼び出すことは困難なのである。

結果、収納したことで物があることを忘れ、何度も買ってしまう。大量購入する癖はなかったので、部屋の物自体は決して多くないはずなのに、いつも買い物していてお金はたまらないままだった。

本やネットから「片付け術」の情報を集めたが、解決には至らなかった。こうした生活が5年ほど続いて半ば諦めていたが、奥さんとの出会いによって少しずつ変わっていった。

光さん(右)と妻の弥加さん=西出夫妻提供
光さん(右)と妻の弥加さん=西出夫妻提供

乱雑な生活を脱した三つの方法

これまで、片付けるということは“全く物がない空間”を作らなければならないと考えていた。しかし「試しにチェックインしたときのホテルくらいきれいにしてみたら」と奥さんが基準を言ってくれたことで、目指すべきイメージがついた。

物がない空間が正解なのではなく、生活しやすい空間にしたらいい。僕は、初めから“100点”を目指すのではなく、毎日70点くらいを維持していくことにした。まずは全体を掃除しようと頑張るより、少しだけ整理整頓をすることから始めた。滞納したらまずい支払い書類、腐らせたらダメな食品、「期限付き」のものから整頓をした。

僕が乱雑な生活を脱した方法を三つ挙げる。

①玄関に提出する書類を貼り付ける

一つ目は、玄関のドアに提出する書類を貼り付ける方法。僕は、郵便受けに投函(とうかん)された書類を紛失したり、提出期限に間に合わなかったりすることがとても多かった。原因は、見える範囲にない物の存在を忘れることや、スケジュール管理が極めて困難なことだと考えられる。

しかし、毎日見る玄関のドアに貼り付けた結果、書類を紛失することは格段に減った。書類の存在が可視化できたことと、無限に貼り付けるスペースが無く処理しなければならないことから、僕にとって有効な手段だった。奥さんが書いてくれたものも全て貼った。

妻・弥加さんが書いた「毎日チェックすること」メモ=西出夫妻提供
妻・弥加さんが書いた「毎日チェックすること」メモ=西出夫妻提供

②買い物はその日食べる分だけ

二つ目は、スーパーでその日食べる分だけ買う方法。冷蔵庫に食材を大量に詰め込まず、最低限の量を入れて整頓しておくことにした。

大学時代は何日分か食材を買いだめしていたが、そもそも何を冷蔵庫に入れたか忘れてしまい何度も腐らせていた。それに購入した分をその日のうちにドカ食いしてしまい外食より高くつくことがあった。

結婚後、「物を無駄にしない」奥さんの影響でその日食べる分のみ買うようにしたところ、食材のロスや食べ過ぎが減った。毎日スーパーに行くという、一見効率が悪いような行動も、ルーティンができて規則正しい生活につながる結果になった。

まとめ買いはせず、その日食べる分だけを買うことにした=西出夫妻提供
まとめ買いはせず、その日食べる分だけを買うことにした=西出夫妻提供

③植物を育てる

三つ目は、植物を育てること。これまで僕は、生き物を育てることを避けてきた。物の管理もできない僕が、生き物を飼ってはいけないと思っていた。植物も例外ではなく、学校の授業などで育てることはあっても家で育てることはなかった。

植物を育てることでタスクが増えるように感じるが、結果として生活習慣の改善につながった。朝に水をあげて時々剪定(せんてい)や植え替えをする程度だが、おかげでスケジューリング能力が充実した。植物は動物と違い、声や動きで訴えることができない。こちらが気付いて体調管理を行う必要がある。種類によっては放置しても育つものがあるが、基本的には毎日チェックをしなければならない。水やり、剪定、根詰まり防止……。こうした地味な作業を通じて、生活も規則正しくなった。

精神面でも大きな変化があった。「植物にふさわしい部屋にしよう」という気持ちが強くなったのである。植物を大切に扱うことで物を大切にすることを覚え、片付けることもできるようになった。僕にとってはそれが自然と整理整頓、掃除をすることにつながった。もしかしたら僕は掃除をしているのではなく、物を大切にしているだけなのかもしれない。

奥さんのおかげで、ハーブの素晴らしさにも気付いた。育てたミントやレモングラスを使ったハーブ水を飲んだり、料理したりすることで「こんなに色々使えるのか!」と感動した。ハーブは種類や楽しみ方も豊富だった。

ハーブを使うことで、料理がかなりおいしくなる。ハーブを使うために料理をし、料理をするためにハーブを育てる。こうした相互作用が日々の生活に彩りと変化を与えてくれた。

イチゴも育てるようになった=西出夫妻提供
イチゴも育てるようになった=西出夫妻提供

無理なくゆっくりと

周りの力を借りながら自分なりの工夫を続けた結果、整頓できる範囲が増え、今では自然と部屋は片付き、育てた植物を使って料理までできている。これが3ヶ月以上続いているということは自分に合っているのだと思う。

以前の僕はADHDの影響か、片付けはかなりのエネルギーを必要としていた。人が家に来る前日に徹夜で大掃除していたような僕が、ごく自然に掃除に取り組めているようになったのはとてもうれしい。

僕はこうなるまで2年かかった。発達障害は一過性のものではないので、長く付き合っていく必要がある。短期的に大きな変化を求めることは悪いことではないが、自分に無理がない方法をゆっくりと探すのも一つの手だと思う。

【妻の視点】「掃除をしたことがない」夫を変えた、「片付け好き」ASD妻の工夫【関連リンク】

西出 光(にしで・ひかる)

1995年生まれ。発達障害の一つ「注意欠如・多動症(ADHD)」の不注意優勢型と診断される。2019年に「自閉スペクトラム症(ASD)」のグラフィックデザイナー・弥加(さやか)と結婚。当初は家事が極端にできず、仕事も立て続けに辞めていたが、妻の協力の末、現在はホームヘルパーとして勤務。名古屋と東京で遠距離夫婦生活を続けている。当事者の視点から、結婚生活においての苦悩や工夫、成功について伝えていきたい。
Twitter:https://twitter.com/Thera_kun

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withnewsでは、西出光さん・弥加さん夫妻のエッセイ「凸凹夫婦のハッタツ日記〜先生と生徒になってみた〜」を原則隔週火曜日に配信します。先生と生徒のような夫婦関係について、夫と妻それぞれの視点で描きます。

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