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コラム

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「けもフレ」見て捨てた「競争への執着」メッセージ押しつけない快さ

アニメから学んだ「本当の愛」

動物がテーマのアニメ「けものフレンズ」がもたしたもの。その本質について、自らもファンである記者が考えてみました
動物がテーマのアニメ「けものフレンズ」がもたしたもの。その本質について、自らもファンである記者が考えてみました 出典: けものべんばーさん(ツイッター:@kemonovember)撮影・提供

目次

「1本のアニメが、誰かの生き方を変えることがある」。動物がテーマの作品「けものフレンズ」(けもフレ)に魅せられた人たちの話を聞くたび、そんな思いが深まっています。少なくない視聴者に動物園への訪問を促し、絶滅危惧種に対する注目度まで高めている、けもフレ。人々を、そして社会を動かしたものの本質とは? ファンの言葉と、私自身の体験から考えてみました。(withnews編集部・神戸郁人)

【関連記事1】「けもフレ」が人生変えた 1万枚の動物園写真に込める「命の尊さ」
【関連記事2】けものフレンズで東大などが論文 アニメが動物園に起こした「異変」

「勝ち負け」への執着、アニメが和らげてくれた

アニメの第一作が放映された2017年の春、私はとある地方都市に勤務していました。

後輩たちと現場を駆け回る毎日でしたが、なかなか結果が出せない。会社と現場の間で板挟みになり、思い悩んでいた時期に知ったのが、けもフレです。

「フレンズ」と呼ばれる、魅力的な女の子の姿をしたキャラクター。仲間と協力し、謎の敵「セルリアン」と闘う彼女たちの勇姿。主人公らの別れを予感させるストーリー展開……。何げなく眺めていた動画サイトで、偶然視聴するや、ぐいぐい引き込まれてしまいました。

作品を語る上で欠かせない要素もあります。キャラの特徴が動物に基づく点です。長い耳や、ふさふさした尻尾はもちろん、動物の顔をかたどったような模様の髪を持つフレンズも少なくありません。外見から性格に至るまで、一人として同じではないのです。

その多様さに触れたとき、私の心に渦巻く「勝ち負け」への執着が、少しだけ和らいだ気がしました。そんな経験に後押しされ、アニメの声優による舞台など、関連イベントにも参加するように。遠方に行く際は、会場周辺の動物園まで足を伸ばしました。

現場では、他のファンたちと知り合います。少しずつ顔見知りが増えた頃、ある疑問が頭の中に浮かびました。「彼ら・彼女らは、作品のどんな点に惹(ひ)かれたのだろう」。そうした思いに突き動かされて、私は取材をはじめました。

多摩動物公園で暮らしているインドサイ。飼育舎内を、時折勢いよく走り回る(神戸郁人撮影)
多摩動物公園で暮らしているインドサイ。飼育舎内を、時折勢いよく走り回る(神戸郁人撮影)

「こだわり」によって多様化した客層

関係者を訪ねて分かったこと。それは、作品を貫く「動物に対するこだわり」に魅せられた人が少なくない、という事実でした。

たとえば、第一作のアイキャッチ。実在する動物園のスタッフらによる、生態解説コーナーです。様々な野生生物の食性や、近縁種との見分け方などについて、音声で伝えられます。中にはユニークな語り口で、アニメのキャラ顔負けの人気を得た人物もいました。

私が話を聞いたファンの一人は、このコーナーに出演した飼育員に会ってみたいと、実際に動物園を訪ねたそうです。そこで吠(ほ)え声や獣臭といった、動物に関する「生の情報」に触れ「未知の面白さにはまり、今では通っている」と語っていました。

生活圏内で触れ合う動物は、ネコやイヌをはじめとするペットがほとんど。大型の哺乳類などは、メディア経由で見ることはあっても、目の当たりにする機会はそう多くないでしょう。だからこそ、様々な生き物をまとめて観察できる動物園の魅力を、再発見しているようでした。

「親子で訪れるもの」というイメージが強い「動物園」ですが、各施設を巡るファンの中には、既に成人している人も少なくありません。

大人になってもなお、自らの好奇心を満たしてくれる。そんな「知の受け皿」として動物園を再定義するような魅力が、けもフレにはあったのだと思います。

悠久山小動物園(新潟県長岡市)の白唐丸「ダニエル」。2019年8月、多くのファンに惜しまれながら息を引き取った(同年7月撮影)
悠久山小動物園(新潟県長岡市)の白唐丸「ダニエル」。2019年8月、多くのファンに惜しまれながら息を引き取った(同年7月撮影) 出典: けものべんばーさん(@kemonovember)撮影・提供

ハシビロコウの危機「人ごとじゃない」

かく言う私も、けもフレのアニメがきっかけで、動物への関心を高めた一人です。

作中に登場する「ハシビロコウ」という鳥について、私は当初「めったに動かない」という程度の知識しか持ち合わせていませんでした。しかしキャラクターの詳細を調べる中で、徐々に生態を理解していきます。

「求愛するときくちばしをカタカタ鳴らす」「お辞儀のような動作で親愛の気持ちを示す」。そうした独特の振る舞いに魅了され、関連書籍やぬいぐるみを購入するほど好きになったのです。

アフリカ大陸に棲(す)むハシビロコウは、開発などの影響で生息域を狭められてきました。国際自然保護連合(IUCN)も絶滅危惧種に指定しています。

【関連リンク】発表:湿原の王、ハシビロコウの保護計画 | バードライフ・インターナショナル東京

普通に暮らしていれば、接点がない生き物だったはず。でも興味を持った今、種の存続が危ぶまれているという問題は、決して人ごとではありません。そして、私と同じような体験をしたファンが、少なくないこともわかりました。

けもフレのアニメ第1作に登場する動物に関し、ウェブ上の検索数が増え、動物園における保全活動向けの寄付額も上昇していた--。東京大などの研究グループが発表した論文は、そんな結果を示しています。

【関連リンク】けものフレンズで東大などが論文 アニメが動物園に起こした「異変」

アニメが新しい世界への扉を開けてくれることもある。現状を知る中で、私はそう考えるようになりました。

直立不動のまま動かない様子が、近年人気を集めているハシビロコウ
直立不動のまま動かない様子が、近年人気を集めているハシビロコウ 出典: PIXTA

「終わり」を学ぶ場としての動物園

ファンと話をする中で、特に心動かされた場面があります。「命の有限性」を巡ってやり取りしたときのことです。

インタビューした男性は、ある動物園に行くたび、1匹のペンギンを撮影していました。しかし4度目の訪問を前に、その個体は老衰で息を引き取ってしまったのです。当時の心境について、次のように語っています。

「多くの人々に愛された動物も、いつか役割を終え、世代交代しなければならない。これはアニメでも描かれた価値観。だからこそ、縁あってつながれた動物のことを記録していこう。そんな気持ちが強まった」

一部の個体を特別視することに対しては、「エゴでしかない」という批判が寄せられるかもしれません。それでも命を迎え、やがて送り出すまでの一部始終に携わることは、人間として重要なのではないでしょうか。

私は5年前、愛猫を12歳で亡くしました。もともと捨て猫で、飼わなければ「殺処分」される運命にあったかもしれません。死後1カ月ほど泣きはらしましたが、猫との思い出は、「地域猫」活動に関わる取材などのきっかけになりました。

どんな生き物にとっても、住みやすい社会とは何だろう。そう思い巡らす機会を与えてくれた点で、男性と私の体験には、共通項があると思っています。

主にペルーやチリの海岸などに住むフンボルトペンギン
主にペルーやチリの海岸などに住むフンボルトペンギン 出典: PIXTA

他者を大切にする=自らを尊ぶ

けもフレが幅広く支持を得た理由は、「命との向き合い方」を提示しているからではないか--。取材を終えたとき、私はそう思い至りました。

「すぐ隣に異なる存在が息づいている」。動物の豊かなありようを、物語を通じて描き出すことで、そんなメッセージを押しつけず伝えてくれる。その点に共鳴した人々が、動物園に足を運んでいるのだと感じています。

他者を大切にする姿勢と、自らを尊ぶ感情は表裏一体であると言えます。生き方は一人一人違ってもいい。そう認めることに他ならないからです。けもフレを見て「『勝ち負け』への執着が和らいだ」体験をしたことで、その気持ちはより強まりました。

いつの間にか心をがんじがらめにしているものから、自分自身を解き放ってくれる。そんな「人生の清涼剤」として、けもフレは受け入れられてきたのかもしれません。

大崎公園子供動物園(さいたま市緑区)のレッサーパンダ「ミク」。白内障のため、時々障害物にぶつかることもあるが、元気に過ごしている(2019年1月撮影)
大崎公園子供動物園(さいたま市緑区)のレッサーパンダ「ミク」。白内障のため、時々障害物にぶつかることもあるが、元気に過ごしている(2019年1月撮影) 出典: けものべんばーさん(@kemonovember)撮影・提供

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