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連載

#5 ○○の世論

安倍政権の支持者、お菓子に例えると……「バウムクーヘンのよう」

ニコニコ超会議のイベント会場の自民党ブースで、イラストが描かれた宣伝車の前で手を振る安倍晋三首相=2014年4月26日、千葉市美浜区の幕張メッセ、内田光撮影
ニコニコ超会議のイベント会場の自民党ブースで、イラストが描かれた宣伝車の前で手を振る安倍晋三首相=2014年4月26日、千葉市美浜区の幕張メッセ、内田光撮影 出典: 朝日新聞

目次

自民支持層という「常連客」を固め、無党派層という「一見さん」をつなぎとめることで歴代最長となった安倍政権。政治家や有権者の意識分析に詳しい東京大学の谷口将紀教授(現代日本政治論)は、支持者が3層構造になっている「バウムクーヘンのよう」な状態だと指摘します。長期政権を支えてきた世論を探る最終回。若者の保守化は本当なのか? 「長続き」が目的になっていないのか? 谷口教授に聞きました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)

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・2号店がつなぎとめた「一見さん」
・世論調査が示した「常連」の存在

3層構造の支持層

 

磯部

安倍政権を支持する人たちはどんな特徴がありますか?

 

谷口教授

第2次安倍政権の支持層は、安倍政権の看板政策である「アベノミクス」といった経済政策や、外交・安全保障政策といった施策を積極的に支持するコアな支持層を中心に、官邸主導で政治を進める安倍政権を「なんとなく」好感する層、安倍首相の代わりになるリーダーがいないから支持する層、という3層構造になっています。バウムクーヘンのような形状です。

安倍政権の支持層はバウムクーヘンのよう!? ※画像はイメージです
安倍政権の支持層はバウムクーヘンのよう!? ※画像はイメージです 出典:https://pixta.jp/

「より悪くない」という選択肢

 

磯部

「なんとなく」好感するとはどういうことでしょうか?

 

谷口教授

谷口研究室では、今年7月の参院選後に有権者約1千人を対象にしたインターネット調査をしました。そこで、安倍政権の評価を聞くと、アベノミクスなどの個別政策よりも「全般的な仕事ぶり」を評価する人が最も多かったのです。

 

谷口教授

そこから見えてきたことは、安倍政権は、有権者に「何かをやってくれそうだ」という期待感を抱かせることで続いてきた、ということでした。安倍政権下に行われた国政選挙の投票率の低迷が示すように、多くの有権者にとって、安倍政権は「より良い選択肢」というよりも、「より悪くない選択肢」であるということです。
2007年9月12日にあった安倍首相の辞意表明会見をテレビで見る人たち
2007年9月12日にあった安倍首相の辞意表明会見をテレビで見る人たち 出典: 朝日新聞

ライバル不在が原因

 

磯部

なぜ、こうした政権が続くのでしょうか?

 

谷口教授

第2次安倍政権が長く続いている背景には、自民党にも、野党にも、安倍首相のライバルがいないことがあります。第1次政権で安倍首相が早期退陣した理由の一つには、麻生太郎氏や福田康夫氏、谷垣禎一氏といった自民党内の後継者や、野党・民主党(当時)の存在がありました。しかし、いまは安倍首相に代わりうる選択肢がありません。

 

谷口教授

ライバル不在の現状は、自民党内に後継者を作らず、「悪夢の民主党」と訴えて受け皿となる野党を潰す、といった安倍首相の戦略が功を奏していると言えます。

若年層支持のワケ

 

磯部

第2次政権で、若者の支持率が高い理由は?

 

谷口教授

若者層で安倍政権と自民党の支持率が高いことは,必ずしも若年層が保守化していることを意味しません。確かに、谷口研究室が行ったインターネット調査では,外交・安全保障政策や治安に関する意識ではタカ派的な傾向が見られました。しかし,経済政策では現状維持の意識が強く,選択的夫婦別姓や同性婚など社会問題では他世代よりも容認する意識が高かったです。

 

谷口教授

また、自民党に対する好感・反感といった感情面でも,とりわけ若年層が自民党に好意を抱いているわけでもありません。10代~20代のころに目の当たりにしたデフレ不況や民主党政権の失敗と今を比べると、「今のほうがまし」という意識が、若年層の高支持率の背景にあると見ています。
合同会社説明会の企業ブースでの説明会で熱心に話を聞く学生ら=2018年3月1日、大阪市住之江区、小林一茂撮影
合同会社説明会の企業ブースでの説明会で熱心に話を聞く学生ら=2018年3月1日、大阪市住之江区、小林一茂撮影 出典: 朝日新聞

「長続き」が目的化?

 

磯部

7年続いている第2次政権をどう見ますか?

 

谷口教授

安倍首相は第2次政権で、ほぼ毎年のように国政選挙をやり続けています。ゆっくり腰を落ち着けて何かをやっているという感じではありません。

 

谷口教授

日本と同じ二院制ながら選挙制度の違う英国では、2010年にキャメロン元首相が就任してから5年間、一度も選挙がありませんでした。その間、日本の消費税にあたる付加価値税を増税したり、大学の授業料を上げたりして、不人気の政策を行いました。もしキャメロン元首相が、解散総選挙が頻繁にある日本にいたら、不人気政策を行うことはできないでしょう。政権を維持するために、短期的なテコ入れを選挙でやり続けないといけないということが、長期的な取り組みができていない現状を招いたと思います。
記者会見する英国のキャメロン首相=2016年5月27日
記者会見する英国のキャメロン首相=2016年5月27日 出典: 朝日新聞

 

磯部

腰を据えてやる政策がなかった、ということでしょうか?

 

谷口教授

今もそうだとは言いませんが、2012年に政権に復帰してから、少なくとも3~4年間は、おそらく政権を続けること自体、つまり、第1次政権の汚名をすすぐということ自体が政権の最重要課題だったと思います。
総裁の椅子に座り、笑顔を見せる安倍晋三元首相=2012年9月26日
総裁の椅子に座り、笑顔を見せる安倍晋三元首相=2012年9月26日 出典: 朝日新聞

支持率急落のリスクは?

 

磯部

安倍政権は盤石でしょうか?

 

谷口教授

安倍政権の支持層は「岩盤」とは言えません。「何かをやってくれそうだ」という期待感がある限りは支持率が高い状況が続くかもしれませんが、自民党や野党に安倍首相に代わるリーダーが現れたり、「アベノミクス」に陰りが出たりすれば、支持率が急落する可能性もあります。

「レガシー」って……

谷口教授の話を聞いて、この長期政権が成し遂げた「レガシー」って何だろうと思いました。

歴代の長期政権では、佐藤栄作政権なら沖縄返還、中曽根康弘政権なら国鉄民営化、といった「レガシー」と呼べる実績がありました。「アベノミクス」や集団的自衛権の行使を一部容認する安全保障関連法が「レガシー」候補なのかもしれませんが、評価は割れています。拉致問題や北方領土問題は進展が見られず、憲法改正も道筋は不透明です。

朝日新聞は世論調査で、安倍首相に第2次政権で一番力を入れて欲しい政策を定期的に聞いています。今年7月の結果は次の通りです。

あなたが、安倍首相に一番力を入れてほしい政策は何ですか(2019年7月)

年金などの社会保障(38%)
教育・子育て(23%)
景気・雇用(17%)
外交・安全保障(14%)
憲法改正(3%)
*その他・答えないは省略

「社会保障」は2014年12月の調査で「景気・雇用」に代わってトップになり、それ以降はトップが続いています。こうした中、安倍首相は今年9月、少子高齢化の時代に合わせた「全世代型社会保障」のあり方を検討する会議を立ち上げましたが、歴史の評価に耐えうる成果は生み出せるのでしょうか。

長期政権となったものの、「長さ」だけが記録と記憶に残る政権となるのか――。安倍首相の任期は2021年9月まで。残り2年を切りました。

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