連載
#4 ○○の世論
安倍政権が「定食屋」だったなら…2号店がつなぎとめた「一見さん」
歴代最長の通算在職日数を伸ばし続ける安倍晋三首相。長期政権を支えてきた世論を探る第2回は、特定の支持政党がない「無党派層」の動きも見ていきます。自民支持層のような「常連客」とは異なり、お店の前を通りがかった「一見さん」とも言える無党派層。安倍政権の強さを「定食屋」に例えながら、探ってみました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
<5年にわたって繁盛した定食屋「小泉食堂」を継いで「安倍食堂」は2006年9月にオープンしました。1号店は、店主である安倍首相の体調不良などにより約1年で閉店しましたが、2012年12月に再スタートした2号店は現在まで7年つづいています。そんな「安倍食堂」がある永田町商店街のランチタイムは、様々な職種の人が、気の向くままにお店を選ぶ姿がありました>
無党派層とは、世論調査で支持政党を尋ねた際に、「支持する政党はない」と「答えない・分からない」と回答した人を合わせた数字です。
いわば、ランチを食べる決まったお店がない人と言えます。そんな無党派層、朝日新聞の11月調査では、次のような結果でした。
無党派層は44%。自民支持層の36%を上回り、「最大勢力」です。
特定の支持政党がない無党派層は、2009年衆院選で自民党から民主党への政権交代が起きたように、選挙で大きな「風」を吹かせることがあります。
安倍政権に限らず、歴代政権にとって、おろそかにはできない「一見さん」なのです。
<同じ定食屋「安倍食堂」でも、1号店の客足には波がありました。2007年7月の参院選が近づくにつれて、常連客が減り始めます。ひいきのお店を持たない一見さんとともに、ライバル店「レストラン民主」に流れていったのです>
安倍政権で、無党派層の内閣支持率の平均はどうだったのでしょうか。
この数字を見る限りは、第1次政権と第2次政権はほぼ同じようです。しかし、その内実は異なっています。
第1次政権では、無党派層の支持が政権発足時は47%でしたが、3カ月後には30%を切ります。
参院選の直前は16%となり、その後も支持が20%に届かないまま、退陣となりました。この間、無党派層の動きとともに見逃せないのが、自民支持層そのものの先細りです。
第一次政権は自民支持層が39%、野党第一党の民主支持層(当時)は14%でスタートしましたが、2007年7月の参院選直前の調査では、自民支持層23%、民主支持層22%と拮抗。参院選直後には自民支持層21%、民主支持層34%と逆転します。
この間の無党派層は4割前後で推移しており、自民支持層が無党派層や民主支持層に、無党派層が民主支持層へと徐々に流れていったとみられます。
やせ細っていった自民支持層とそっぽを向いた無党派層により、かつての繁盛店も傾いていったのです。
<「安倍食堂」1号店が閉店した後、「レストラン民主」が永田町商店街で一番人気の店に躍り出ました。しかし、「レストラン民主」には「オーダー通りの料理が出てこない」「店員同士がケンカばかりしている」といった客の不満の声が相次ぎ、客足が遠のいていきました。そんななか、看板メニュー「アベノミクス定食」を売りにした「安倍食堂」2号店が出店すると、「レストラン民主」から人気店の座を奪い返します>
第2次政権では、無党派層の支持率は38%でスタートし、2013年5月に最高の45%に達しています。
その後、小渕優子経済産業大臣と松島みどり法務大臣(ともに当時)が「ダブル辞任」し、その直後の2014年11月には無党派層の支持率が最低の12%まで下落しました。
しかし、同年12月の衆院選直前には19%まで持ち直し、2016年1月には甘利明経済再生大臣(当時)の辞任がありながらも回復基調が続き、2017年1月には3割台まで戻りました。
公文書改ざんなど財務省の一連の不祥事が発覚した直後の2018年3月と4月も12%に落ち込みました。それでも7カ月後には2割台に回復し、2019年7月の参院選まで支持率をほぼ維持しました。
さらに第2次政権での政党支持率をみてみましょう。
第2次政権では、自民支持層は30%台~40%台をほぼキープし、第1次政権のような支持離れは起きていません。
このように、一見さんをつなぎとめたうえに、常連客も逃さなかったことも第2次政権の安定につながったようです。
<「安倍食堂」2号店では時折、店員さんが注文を間違えたり、品切れが続いたりなどのトラブルが起きますが、いまだに客の不信感がぬぐえない「レストラン民主」やその系列店にお客は定着しません。そして、永田町商店街に強力なライバル店が現れないことで、「安倍食堂」2号店の客足はいつのまにか戻っていきました>
では、無党派層の安倍政権の評価はどうでしょうか。11月調査をみてみましょう。
さらに、安倍政権の実績についても尋ねています。
無党派層の安倍政権への評価は「辛口」と言えます。それでも、無党派層の支持が離れきらないのは、自民支持層と同じく消極的な支持が大半だからです。朝日新聞の世論調査では16年7月以降、内閣を支持する人にその理由を次の4つの選択肢の中から聞いています。11月は次のような結果になりました。
11月調査では長期政権の理由についても尋ねたところ、無党派層は「安倍さんの政治姿勢や政策がよい」が7%だったのに対し、「他に期待できる人や政党がない」が87%と大きく上回りました。
安倍政権の支持理由は、無党派層も自民支持層と同様に「他よりよさそう」が常にトップでした。不祥事などで離れた無党派層の支持も、安倍首相や自民党の他によさそうな政治家や政党が見当たらず、時間がたつとじわりと戻ってくるようです。
<現在はにぎわっている「安倍食堂」2号店ですが、永田町商店街には、新たなライバル店の出店準備が進んでいるようです。実際、お客さんはどんな気持ちなのでしょうか?「安倍食堂」2号店には老舗の安心感があるものの、「近くによさげなお店があれば、特にこだわりはないんだけどなあ……」というのが本音のようです>
安倍首相の自民党総裁としての任期は、2021年9月までです。ただ、自民党内では党の規則を変えるなどして、さらに党総裁・首相を続けられるようにしようという意見が出たこともあります。世論はどう考えているのでしょうか。今年7月の調査をみてみましょう。
安倍首相には任期をまっとうしてもらいたいけれど、それ以上はちょっと―。3割近くが任期の延長を支持する自民支持層とは異なり、無党派層はわずか7%と長期政権に対する「飽き」の意識が透けて見えるようです。
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