「光るアンテナ」とは
スマホネイティブ世代はきっと見たことがないと思いますが、20年ほど前、そんなガラケーが時代の最先端だった頃、デフォルトのアンテナを付け替えて使う「光るアンテナ」なるものが存在していました。
起こることは至ってシンプル。「着信するとアンテナが光る」、それだけではあるのですが、商品展開は実に多様です。4色のLEDを使ったものやパトランプのように光るものまで、あの手この手でアンテナを光らせていたあの時代。しかも、アンテナ自体には電池がいらないという「謎の科学」感。今は見る影もない「光るアンテナ」は一体なんだったのか……?
「新世紀PIKAシリーズ」という何らかのアニメの影響を受けているシリーズ名のアンテナ「クレイジー」。4色のLEDが光る。
ファミレスで光るアンテナを並べる
「段々くん」
「輝輝棒頭」と書いて「てるてるぼうず」と読む
いじらしいのは、パッケージに訴求ポイントである「超光る 3段式」という売り文句と同じくらいのフォントサイズで、「(しかもちゃんとしまえる)」というフォローも入れているところ。「もしかして、しまえないのかも?」という心配事を思いつく前につぶしておいてくれる安心設計だ。
(しかもちゃんとしまえる)…!
ライジングドラゴン、LED12個つき
パッケージの台紙の方は「C.O」になっているのに……。
山下メロさん
アンテナ、なぜ光っていた?
半年ほど前、私たちはこの光るアンテナを光らせようと、電波に詳しい中央大学理工学部電気電子情報通信工学科の白井宏教授を尋ねていました。詳しくはwithnewsの記事『携帯の「光るアンテナ」もう一度光らせたい スマホで実験、結果は…』をご参照いただきたいですが、光るアンテナが光っていた仕組みを簡単にご紹介します。
中央大学の白井教授。とても優しい。
基地局からの電波を見つけると、通話ができる状態になる。(画像はいらすとや)
白井先生
白井先生によると、今、スマホの電波で「光るアンテナ」が光らないのは、ガラケー時代に比べて電波が弱くなっているから。加えて、携帯の消費電力を抑えるために、通信環境が良い場所では電波を弱めるなど効率化もすすんでおり、アンテナが光るほどの電波が発生していないというのです。
要するに、通信環境がよくなればなるほど、光るアンテナが光らなくなる。時代の隙間に「光るアンテナ」が置き去りにされた理由が少しわかった気がしました。
「電波を遮断する用の素材とかありますか」
通信環境が良好な場合は、スマホは弱い電波しか出しません。一方、電波の入りが悪い場所では、スマホはなんとか基地局と通信をしようと強い電波を出します。また、着信だけではなく、通話状態の方が強い電波が出るそうです。この強くなった電波を利用して、光るアンテナを光らせようという作戦です。
スマホは効率化がすすんでいる(イメージ)
半年前、私たちは中央大学の実験設備を使わせていただき、限りなく圏外に近い状態で通話することで、無事「光るアンテナ」を光らせることができました。
奥にあるのが「電波暗室」。電波を遮蔽することができる部屋
手始めに、某ホームセンターへ材料を調達に向かいました。ただ、どんなもので「通信環境が悪い状態」を再現できるかわからなかった私。ひとまず店員さんに、「電波を遮断する用の素材とかありますか」と聞くと、「??? ないです」と言われました。いるかどうかわからないけど、「反電波組織の人」だと思われたかも知れない。
やはり、一人ではどうにもならないので、再び白井先生に助けを求めました。
白井先生
銀色の大きめのゴミができた
段ボールにアルミホイルを巻くことが今までなかったので、見栄えはあまりきれいではありません。しかし、光るアンテナが通話の電波を削って光っていたように、オシャレと電波はトレードオフです。
ベースにした段ボールと、アルミホイルを巻いたもの
ワクワクしながら進めていたものの…………アンテナはまったく光りません。しかも、段ボールに作った隙間は小さすぎて、中で何が起こっているのかイマイチわかりません。
入り口が狭すぎる……
もしかしたらアルミホイルの厚みが足りないのでしょうか。試しに段ボールに二重、三重に巻いてみましたが、光るアンテナはちっとも光りません。1時間くらいかけて、ギンギラギンの大きめのゴミができたところで、一旦考えるのをやめました。
出来上がった大きめのゴミ
「まあ、いいです、やりましょう」
白井先生
白井先生
白井先生
ついにその時が来た
夢中で巻いたアルミホイルを全部はがして、見慣れたAmazonの段ボールに再会。一面を切り取って、再び周りにアルミホイルを丁寧に貼っていきます。テープもアルミ製のものを使い、開いた一面を覆うためにアルミ製の網で作ったフタも用意すると、前回とは見違えるようなきれいな箱ができました。「オシャレと電波はトレードオフ」とか言い切っていた頃の自分を殴りたい。
なんとなくキラキラ輝いて見える
スマホの側面をアルミホイルで巻く
こちらが「クレイジー」。4色のLEDが光る。
クレイジーをスマホに近づけると、緑色のライトがふわっと光ったような気がしました。でも、それ以降は全く光りません。「幻?」と思い、スマホの向きを変えてみると、ついにその時が訪れました……。
………!!!
常時光っている訳ではありませんが、箱の向きやアンテナとの距離を調整すれば、長くて10秒ほど光り続けます。家の隅でカラフルなLEDがチカチカと光るのを見て、思わず空を仰ぎました。この小さな希望の光を抱きしめて、今の気持ちを忘れずに生きていきたい。
無事実験が成功したことを記念して、少し前までゴミだった箱を「光るアンテナ光らすボックス(略して光箱)」と名付けました。
コントロールできなくなった、人間の力
弊社の会議室で光箱を見た山下さん、「こういう感じなんすね……」。やや複雑な表情を浮かべつつも、コレクションの品々を光箱に入れていきます。スマホとアンテナの向きや位置を調整し、アルミの網でフタをした光箱をのぞき込みながら、「おおっ光った!」。
山下メロさん
「なんか懐かしい感じっすね」と山下さん
今回の挑戦者たち
「クレイジー」4色に光っている
山下メロさん
【動画】「光るアンテナ」を身近なアイテムで光らせてみた(野口みな子撮影)
携帯3社・本社前、光りやすいのは…
ソフトバンク本社。めちゃくちゃ天気が良かった。
ソフトバンク本社を見つめる山下さん
ソフトバンク本社前で「光箱」をのぞき込む山下さん
確かに花が咲いていた
NTTドコモ本社(左)とKDDI本社
NTTドコモ本社前で光箱をのぞき込む山下さん(左)とKDDI本社前で光箱をのぞき込む山下さん
「家では向こうから甘えてくるのに、外に出ると急によそよそしくなる彼女っていますよね」と山下さん。まさにそんな感じです。寒空の下で、まさかのアンテナにツンデレをされ肩を落とす私に、山下さんは「でもまあ、いいことですよね、電波良好なんですから」。
あきらめの表情の山下さん
どうにか光らせられないか私が試行錯誤していたら、山下さんは落ち葉に興味がいってしまった
そして「携帯会社の前だからといって、電波の強弱には影響しないと思いますよ」と優しく教えてくれました。とても勉強になりました。
場所は、関係なかった
20年前に起こった小さなブームを、更に未来に語り継げるか。光るアンテナの受難は、まだまだ続くようです。
何度も申し上げますが、アンテナが光ると「ちょっとおしゃれ」なだけで、あとは強い電波を出してスマホの電力を削るばかり。それ以外はあまりいいことは起こりません(何なら私のスマホの電池の減りが早くなりました)。だけど、今ある「当たり前」を改めてありがたく感じることができ、いつか見れなくなるかもしれない光を、忘れまいと心の中に灯しました。
おまけ
「光るアンテナ」を段ボールとアルミホイルで光らせられたのがすごく嬉しかったので、ポスター発表風にしました
— 野口みな子/withnews (@noguchiminako) November 27, 2019
ガラケーの遺産「光るアンテナ」 身近なアイテムで光らせてみたhttps://t.co/6NjuqLU0y0 #平成B面 pic.twitter.com/165oDoIgpb
「光箱」を展示します
「クレイジー」4色に光っている
そこで、今回制作した「光るアンテナ光らすボックス(略して光箱)」と、山下メロさん私物の光るアンテナを展示します。うまくいけば、実際に光るアンテナが光っているところが見られるかもしれません。イベントにお越しの方は、ぜひご覧になっていってください。

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