連載
#28 #withyouインタビュー
悩みが一杯、ずん飯尾和樹さん 語る居場所「逃げたい子、逃げなよ」
飯尾和樹さんも学生時代、天然パーマ・音痴・厚い唇・大きな顔といった「今思うとどうということないこと」で悩んでいたことがあります。
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#28 #withyouインタビュー
飯尾和樹さんも学生時代、天然パーマ・音痴・厚い唇・大きな顔といった「今思うとどうということないこと」で悩んでいたことがあります。
独自の芸風で、人を傷つけないネタを得意とするお笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹さん(50)も学生時代、天然パーマ・音痴・厚い唇・大きな顔といった「今思うとどうということないこと」で悩んでいたことがあります。色々あって学校に生きたくない時、どのような心構えでいれば良いか、さらには芸人として感じる「いじり」と「いじめ」の違いを聞きました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
飯尾和樹さんのメッセージ
飯尾さんを取材することになったのは、記者も思春期の頃に天然パーマに思い悩んだことがあったことです。天パに関して話を聞きたいとお願いしたところ、快く応じてくれました。2時間ほどの取材を終えて帰路に着いた後、記者に電話がかかってきました。「途中で話に出た生きづらい10代へのメッセージ、じっくり考えたいからもう一度取材しませんか」
誠実な言葉に甘え、前回の取材から約1カ月、夕方の都内の喫茶店で落ち合いました。
東京・世田谷で小中と生まれ育った飯尾さん。「クラスの中心なわけでも、1人でいるわけでもない、びっくりするくらい普通の存在でした。けれど、一緒にくだらないことで笑い合える友達がいました」。ある意味では王道の学生時代を歩んできたようです。
「だから、自分の体験から話せることはあまりありません」と前置きした上で、「こんな普通な存在だからこそ語れることもあると思います」と言葉をつないでいきます。
<いいお・かずき>
1968年、東京都世田谷区生まれの50歳。1990年に芸人デビュー。所属する浅井企画の同期は、世に出てすぐに売れたキャイ〜ン。対照的に2000年、相方のやすと自称・浅井企画の在庫品コンビ「ずん」を結成。
まず、芸人の世界で感じる「いじり」と「いじめ」の違いについて聞きました。飯尾さんは「これは簡単です。学校生活でも同じだと思いますが、一方通行で言われるだけなのは、いじめ。反対に『バーカ』って言われたら『バーカ』って言える関係なら、いじりです」。
テレビの世界は特殊だそうです。「よく上島(竜平)さんや出川(哲朗)さんが攻め合っているじゃないですか。あれは言う方も言われる方も、お互い好きでやっています。プロレスの技の掛け合いのような。収録の1時間後には楽屋で笑い合って、2時間後にはみんなで仲良く飲みに行っているのです」
どんどんぶっちゃけます。「結局、交番の前やその人の家族の前でも同じことをできるのか、って話ですよね。僕らはテレビと同じようにいじることができます。一方で、学校でいじめているような人らは、どうせ同じことできないだろうって感じですね。だって後ろめたいから。一方的に言ってくる人って、自分に自信のない人なのです」。普段テレビで見る様子からは想像できない強い口調でした。
逆にいじめている人も、10代ならまだ自分の過ちに気づくチャンスがあるといいます。「30代とか40代とかになって、経営のセンスがあって成功したとしても、人がついてこないから悲惨ですよ。そこまで気づかないと、人から指を指される人生で終わりますよね」
飯尾さんの好きな奥田民生さんの「息子」という曲の中に、「本当にその通りだ」と思うフレーズがあります。
♪いじめっこには言ってやりな。そればっかりはやってられないよ
「いじめっ子同士で気の合うことってないと思います。いつ自分がいじめられる立場になるか、ってお互いに疑心暗鬼で付き合い続けるから」
飯尾さんは、むしろそういう人たちを哀れむような感じで続けます。「50歳のおっさんがこれまで見てきた答えとしては、そういうことを続けてきた人はみじめになっていますよ。本当にみじめ」。子どもの頃のいじめっ子に会うと、「会社の若いやつが続かない」って愚痴ばかりを聞かされるそうです。
「自分の周りには立場が上だったり、実力があったりする方ほど、本当に優しい人が多いです」
7年ほど前、ビートたけしさんと関根勤さんがインタビューを受けている現場に、飯尾さんも同行したことがあるそうです。その際、たけしさんから「こっち来いよ」と呼ばれ、「次やる番組手伝ってくれない?」と言われました。「こんなペーペーな自分にあえて『手伝って』なんて。しかもスタッフにも聞こえるようにしてくれていました。人より実力がある人ってこうあるべきだなと思いましたね」
学校で嫌なことがあったらどうするべきなのでしょうか。飯尾さんは無責任な言い方になるかもしれない、とした上で「嫌なことがあったら学校に行かなくても良いのではないでしょうか」と言い切りました。
その代わり、「学校から出るというのは進学とかやりたいことに制限がかかる部分も」。その幅を戻すには、自分で教科書を広げるなり、絵をやるなり、興味のあることを広げることも必要だとします。飯尾さんだったら、実は得意としている料理のレパートリーを広げて、プロを目指すだろうといいます。
「我慢しちゃう子ほどそんな環境から出て、ゆっくり景色でも見てほしいです。旅して、旅して、旅して」。言葉が止まりません。「中田英寿さんじゃないけれど自分探しの旅に出ましょう。何かが見つかるかもしれません。見つからなくても戻ってきたら見つかるかもしれません」
けれど、ふと、「逃げるには親御さんの協力が必要か…。どうすれば良いんでしょうね」と問い直す飯尾さん。
「親に言える関係だったら、そもそも改善するような気もします。親でも祖父母でも近所の人でも、居場所があれば大丈夫です。交番に行ったって。ただ、第三者に言える子は少ないか…」。取材中、何度もより良い言葉がないか考え込む姿が印象的でした。
「それでも、東京だけで23区、全国なら47都道府県もあります。そこだけが世界じゃない。少しありきたりだけど道は続いています。旅していれば、居場所は見つかると信じています」と10代に語りかけてくれました。
「逃げたくなるのは健康の証し。色々言ってくる馬鹿に付き合わないことも大事。極論ですが、言われた相手のことを好きじゃなければ無視しても大丈夫です。むしろ、その人と付き合うかどうか、答えが早く出て良かったんじゃないでしょうか」
逃げ先としての芸人はどういう存在なのでしょうか。飯尾さんは「容姿でも何でも笑いにできますからね、素晴らしい世界だと思います」。そして、最後にこう締めくくりました。「芸人良いですよ。興味があったらぜひ、と言いたいですね」
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