連載
#26 #withyouインタビュー
根深い天パの悩み、ずん飯尾和樹さんに聞く「コンプレックス役立つ」
天然パーマの悩み、根深いです。どう向き合えば良いのか、お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹さんに聞きました。
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#26 #withyouインタビュー
天然パーマの悩み、根深いです。どう向き合えば良いのか、お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹さんに聞きました。
天然パーマの悩み、根深いです。思春期を乗り越えた大人の芸能人は、どのように天パを捉えてきたのでしょうか。売りにしている人も結構思い当たりますが、より気になるのは、癖毛を積極的に押し出していない人。できれば自分と似た癖具合、誰かいないかと探していると、見つけました。芸人コンビ「ずん」の飯尾和樹さん(50)。話を聞いてみると、こんな気持ちで天パと向き合えば良いのだという心構えが分かりました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
7月に設定された取材の日は、あいにくの雨。天パにとっては天敵の天気です。インタビューが始まるとすぐに飯尾さんは「外を歩いていると雨は髪につらいものがあります」。特に癖が強いのは前髪。同志たちなら分かると思いますが、厳しい季節はやはり夏だそうです。同行したマネージャーの女性によると、「今日は車で来たので、(飯尾さんの)前髪はこれでもマシな方。いつもはメイクの人がグーッとひっぱって何とかしています」と教えてくれました。
<いいお・かずき>
1968年、東京都世田谷区生まれ。1990年に芸人デビュー。所属する浅井企画の同期は、世に出てすぐに売れたキャイ〜ン。対照的に2000年、相方のやすと自称・浅井企画の在庫品コンビ「ずん」を結成。料理が得意。
家族にも癖毛が。「おやじが一番天パかな」。しかし、飯尾さん自身も負けず劣らずで「朝シャワー浴びて、急いで現場に行くと、着く頃にはうねっています」。髪をキープするヘアスプレーは手放せません。
「小学校に入る前の写真を見るとほぼストレートでした」。27歳の記者と同じく、小中学校の一番多感な時期に髪が荒れていたといいます。ただ、飯尾さんの時代は少し様子が違いました。当時はむしろパーマなどのウェーブ全盛期。校則で人工的なパーマはかけられない分、周りから「いいなあ」とうらやましがられることもあったと言います。
「先生からはパーマをかけているのでは、と疑われました。水でぬらすと髪がまっすぐになったので、それで天然のものだと証明はできていましたが…」と笑います。
天パに適した時代もあったのかと驚きました。ところが、いつの時代もないものねだりはあるようです。「前髪がクルクルになるのが嫌で、ストレートには憧れがありましたね」。いまだにストレートにしたい気持ちも少しはあるそうです。天パの悲哀を問うと、「例えば菅田将輝くんのようなおしゃれな人のパーマはおしゃれに見えますよ。私の天パは整えたとしても、ただの休日のおじさんスタイルですから。ほんと、髪質も人を選びますよ」。
同行したカメラマンからは「飯尾さんの写真を見ると、天パでないように見えますが…」と取材前に言われました。たしかに、宣材写真ではそこまで曲がっていないような。聞いてみると「一番格好良いのが宣伝写真だから、髪はうねっていないのです」とほほえまれました。やはり、髪はストレートが一番だと捉えているのでしょうか。
「周りからは良い癖だねと言われることがありますが、とかす時にひっかかるなど、嫌だなと思うこともあります」。それでも、周りから何と言われようとも、良くも悪くも「最後は自分の気持ちだけじゃないでしょうか」。
記者の中高時代は、やはりストレート全盛期。前髪にだけ縮毛矯正をかけ、前髪だけがピンと浮いている人が多かったです。記者も中学校の時は、天パそのもの。デリカシーがない同級生に「ワカメ」とよく言われました。いつの世もしょうもないことでイジったり、中にはいじめたりしてくる同級生はいると思います。
こういう人間にどう対応すれば良いか相談すると、飯尾さんは「ストレートがはやれば、パーマがはやることもあります。時代は繰り返すもの。イジってきたら今しか見てない人だなと思えば良いのです」と諭してくれました。
「そういう人は、どうせパーマがはやったら5千円握りしめてパーマをかけに行くのだから」と場を和ませてもくれます。
飯尾さんが以前、「笑っていいとも!」で共演したタモリさんに言われて記憶に残っているのは、「時代を追ったらいけない」。何かはやっていることを感知してから始めても、絶対に先駆者にはなれません。「私もよく考えたら、昔からずっと同じことをやっています」
そもそも思うことがあるそうです。「髪とか、服とか、興味がある人同士だけで話すべきじゃないでしょうか。こちらは興味ないのに価値観を押しつけてくる。野球部が帰宅部の人に、野球の指導をしているようなものですよ」。否定だけをしてくる人は許せません。
「否定するならアドバイスも欲しいです。お笑いでも、一方的に『つまらない』と言ってくる人は気にしないようにしています。『つまらない、あそこでさらに間をとったら面白くなると思う』という建設的な意見を付け加えるのが大事。そうすれば改善のしようがある。お客さんにウケなくても、芸人仲間にウケれば、3年後にはお客さんにもウケるという伝説があります。髪に関しても『ワカメみたい、こうすればかっこいいんじゃない?』をくれって感じですね」。親身になって相談に乗ってくれます。過去の自分に聞かせたいです。
一方で、自分の思春期にその考えに至るのが難しいことは、飯尾さんにも分かるそうです。「年齢が若いほど表現は残酷ですよね」。でも、前向きな意見がない人に対してはこう思ってほしいそうです。「『はいはい、そうですか。自分はそんなことは言いませんけどね』と反面教師に何とかしてもらいたいです」
大人になっても合わない人はいます。飯尾さんも「あいさつしても返さない人もいます。チラッと見ただけで通り過ぎていく人。そういう時は頭だけ下げて、『はいはい、俺はこうはならないよ』と思っています」。ペッコリ45度の裏にも確固たる思いがありました。
そして「嫌な奴と一生付き合うわけじゃない」と言い切ります。「でも、子ども時代は明確なパワーバランスがありますからね。自分の時は腕っ節の強い友達がいじめるような奴じゃなく、小中も全校1千人いましたから、違うクラスに逃げ込むこともできました。本当に狭い世界で悩んでいる子にはどうやったら伝わるでしょうか…」
何度も言葉を選びながら悩む飯尾さんの姿が印象に残りました。
悩みは髪だけに尽きません。「色白だから相方には『白はんぺん』と言われます」。人より大きい顔や、きょうだいげんかで「めんたいこ」と言われて傷ついた太い唇も。「ただ、言われても認めてしまえば良いのです。『そうだよ、天パで、5頭身で、唇厚いよ』って」
さらには「今でいうと、格好良いとされているのは(ジャニーズの)King & Princeの平野紫耀くんとかですかね。だったら、何か言われたら心の中で『言っているお前も平野くんよりはあれじゃん…』って思えば大丈夫です」。とにかく心の中で思う、大事です。
飯尾さんは思い返すように「イジってくる人って自分に自信のない中途半端な人が多かったです。そういう人の末路って今思えば微妙ですよね…」とつぶやきました。
他にも歌が苦手。フジテレビの「歌がへたな王座決定戦スペシャル」で目立っていた飯尾さんですが、カラオケは「基本口パク」。小学生の時、出席番号1番で最初に歌ったら、上手にできずに「それおかしい」と言われたことが記憶に残っています。「その後、その時の先生には謝られちゃいましたがね。こちらが申し訳ないというか」
くすっと笑われるカラオケは好きじゃなかったそうです。2次会でカラオケの場合は行きません。「でも人生、何の問題もなかったです。芸人としては強みになりましたし」
ミュージカルに出演した時も、飯尾さんの歌が本番5日前に急きょカットされ、ジェスチャーに変更となりました。意気消沈かと思いきや、コンプレックスだった顔の大きさが「舞台映えする」と高評価。「人生、コンプレックスもどこかで役に立ちます」
飯尾さんと同じく天パで、唇が厚くて、歌が下手な記者。取材中も珍しくずっと共感していました。とても目立つコンプレックスではないけれど、髪のことをちょっと言われるだけで絶望していた思春期のあの頃。こんな考え方ができていれば、また違った学生生活になっていたかもしれません。
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