問題提起として書かれた1本のエッセイ
1997年2月、直木賞を受賞した坂東眞砂子さんと、芥川賞を受賞した柳美里さん(右)、辻仁成さん(中)
出典: 朝日新聞
人格否定であふれた書き込み
人格否定の言葉であふれたネット空間 ※画像はイメージです
出典: https://pixta.jp/
スポットライトとしての共感
「共感」に基づく関心が一つの物事に集中し、それ以外が見えなくなる「スポットライトとしての共感」※画像はイメージです
害を大きくしてしまう「共感」
この効果はまた、私たちが持って生まれた感情について、より一般的なことを教えてくれる。つまり、それらが数的感覚を欠いていることを。私たちの関心が特定の個人の苦難に関する思考によって駆り立てられているのなら、一人の苦難が1千人の苦難より重要と見なされるような倒錯した状況を生み出し得る。
出典: ポール・ブルーム『反共感論 社会はいかに判断を誤るか』(高橋洋訳、白揚社)
一人の苦難が1千人の苦難より重要と見なされるような倒錯した状況を生み出し得る「情動的共感」※画像はイメージです
呪詛に満ちたメール、議論が萎縮
ソーシャルメディアが増幅させる「泥沼」
著者には「呪詛に満ちたメール」が寄せられたという ※画像はイメージです
「この世の悪はネットによってすべて暴かれる」
衝撃性のある分かりやすいストーリーの方が好んで拡散され、あっという間に〝炎上ネタ〟として消費される ※画像はイメージです
現実をも変えるリスク
統計的には減っているにも関わらず「体感治安」が悪化して社会不安が増幅される ※画像はイメージです
「じつは子猫を殺してなどいなかった」
「実際は二メートル程度の段差。下は草むらやから、落としたぐらいでは死なへん。つまり正確にいうと、子猫を裏の草むらに捨てた、ということやね」「つまり、殺すも同然ということやね。けど、私は子猫を殺してるも同然である、と書いたのでは意図が伝わらへんと思た。そこでひとつ、子猫を殺している、と」などと誇張した経緯を喋ったとしており、「たった一本のエッセイのせいで作られた誤ったイメージを、とうとう彼女が生きている間には払拭できなかったこと」が無念に思うと記している。
ところが、かつて坂東を叩いた人々はその事実をケロリと忘れたのか、ほとんど何の反響も呼ばなかった。このような顛末も含めて一連の炎上騒動は、今日ネットに氾濫する「行き場のない善意の空騒ぎ」の原点といえるものであり、「共感の飢えに促された感情のはけ口」としてのソーシャルメディアの現在地を予見させるものであったのだ。
わたしたちには「感情の拡張」というマジックと上手く付き合っていく知恵が必要である。

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