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#9 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

懐かしい「お土産」なぜこんな場所に…? 温泉街で見えた時代の変化

「ほるだぁ~っ!」

長野・渋温泉で見つけた、キーホルダーをかける什器の看板。手書きの文字がファンシー。
長野・渋温泉で見つけた、キーホルダーをかける什器の看板。手書きの文字がファンシー。

目次

80~90年代に日本中の観光地で売られていた雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」を集める山下メロさん。時代の流れとともに消えていった「文化遺産」を、保護するために全国を飛び回っています。今回訪れたのは、長野の湯田中渋温泉郷(ゆだなかしぶおんせんきょう)です。観光客で賑わう温泉街の土産店では、「ファンシー絵みやげ」がよく売られていたのですが、今回見つけたのは「まさか」なお店でした……。

ファンシー絵みやげ紀行

「ファンシー絵みやげ」とは?

私は、日本中を旅しています。自分さがしではありません。「ファンシー絵みやげ」さがしです。

「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称で、ローマ字日本語、二頭身デフォルメのイラストが特徴です。写真を見れば、実家や親戚の家にあったこのお土産にピンと来る人も多いのではないでしょうか。

バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち

バブル時代をピークに、バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。

私は、その生存個体を保護するための「保護活動」を全国で行っているのです。

ファンシー絵みやげの保護活動において、私は手段は選びません。前回の記事では、スノーボードに行くリア充たちの車に同乗してスキー場へ行きました。

友人たちにとっては、大部屋での宿泊費や、レンタカーの料金やガソリン代などを割り勘するとなれば、車の座席がある分人を参加させたほうが安くなるので、人数合わせで私にお声がかかることが稀にあります。

なんと今回は、前回の2010年から4年の時を経て再び誘われました。野沢温泉スキー場へ行った前回と同じく、今回もスキー場が多い長野県。目指すは湯田中渋温泉郷です。今回はどんな保護活動だったのでしょうか。

軽装備の私、知恵で勝負…!

早朝に車で東京を出発した我々は、まず昼前ごろに長野県の菅平高原に到着しました。今回は前回のようにスキー場が宿泊する温泉のすぐそばではないので、私は同行したスノボ勢が滑るのに飽きるまでゲレンデの近くにいなくてはなりません。

ほんの数時間とはいえ少し不安でしたが、ゲレンデの周囲には土産店がいくつかありましたので、これは調査のし甲斐があるなと思い喜んで仲間はずれになりました。

菅平高原にて
菅平高原にて
しかしゲレンデ付近を調査するのは初めてでしたので、ここで失敗に気づきました。

自動車道路とその両側の歩道こそ除雪されているものの、そこから店やゲレンデのほうへ歩くとなると、途端に厚い雪の中へ足を踏み入れることになります。

基本的にここへ来るのはみんなスキーやスノボをする人ばかりですので、それなりに積雪の中を歩く装備をしているのです。一方、私は防水でもないスニーカーで来てしまったので、雪が浸み込んで、靴下が濡れてしまうのです。

しかし、そんなことにひるんで調査をしないわけにはいきません。苦肉の策でビニール袋を靴と靴下の間に履いてしのぎました。
あふれ出る「苦肉の策」感
あふれ出る「苦肉の策」感

どうして?スキー場で「ラグビー」モチーフ

菅平ではラグビー部モチーフの状差しを保護できました。なぜラグビー部だけ売られていたりするのか最初は分かりませんでしたが、ゲレンデから少し離れたほうへ歩いていたときに理解しました。

道の脇に、雪原が広がっていたのですが、よくみると「H」型のポールが突き出ているのです。それは、雪に覆われたラグビー場でした。

スキーのオフシーズンに、宿泊施設がラグビーの合宿などを受けて入れているようです。この状差しは、そんなラガーマンたちをターゲットに作られたものなのでしょう。

右側の方に「H」型のポールらしきものが微かに見える
右側の方に「H」型のポールらしきものが微かに見える
私は「なぜこの地域に売られている商品にこのモチーフが使われているのか」といったことも調査しなくてはなりません。ビニール袋に足を突っ込んでまで歩き回ってみると、意外なところでヒントに出会えたりするものです。
ラグビーモチーフのアイテム
ラグビーモチーフのアイテム

さて、我々はほどほどに菅平高原を離れて北上し、夕方ごろには渋温泉の旅館に到着して荷物を置きました。さっそく友達は、ナイトスキーといういかにもリア充のアクティビティに興じるため、少し離れたゲレンデへ車で出かけていきました。

私はというと、リア充たちがゲレンデでキャッキャウフフしている間、車もないので、積んできてもらった折り畳み自転車を使い、夕方から夜の温泉郷をまわる算段です。

まばゆい光「ここは……」

まずは渋温泉から1kmほど自転車を漕いで湯田中駅へ向かいました。駅から渋温泉の温泉街は離れているため電車を使ってくる人は少ないのか、駅前は少し寂しい雰囲気で、土産店もシャッターがおりていました。

湯田中駅周辺
湯田中駅周辺
遅い時間なので駅前通りは真っ暗でしたが、土産店がある可能性のあるエリアなので、念のため端まで調査が必要です。

ほとんどシャッターの閉まった通りをぶらぶら走っていると、途中に突然まばゆい光を放つ店がありました。その店は、通りに面した間口が地面から天井までの大きなガラス張り。看板こそないものの、私の経験上これは土産店である可能性が高い仕様です。
 
期待に胸を膨らませて店の前へ行ってみると、なんとそこは成人向け雑誌が並んだお店でした。いわゆる「エロ本」が前面に陳列されている店です。土産店ではなく残念だなと思いましたが、よく店内を見ると、なぜか色褪せた昔のおもちゃやジグソーパズルのようなものがあり、少し変わっています。

どうも気になったので入店して、店内を見回すと、なるほど普通に成人向け雑誌メインの店でした。諦めて店を出ようとしたとき、棚に布っぽいものが押し込んであるのが見えたのです。

違和感のあるその場所へ行って、それを手にとってみたところ、なんとそれは「SHIGAKOGEN」と地名が入ったファンシー絵みやげの巾着でした(湯田中温泉や渋温泉は志賀高原エリアにあたる)。
志賀高原みやげおそらくTOM TOMという名前のクマのトレーナー。「NICE KIBUN や~」と、英語からローマ字からのひらがなという混在っぷり。その前に何が FRESH MELODY なのか一切説明がない。新鮮な……旋律!?
志賀高原みやげおそらくTOM TOMという名前のクマのトレーナー。「NICE KIBUN や~」と、英語からローマ字からのひらがなという混在っぷり。その前に何が FRESH MELODY なのか一切説明がない。新鮮な……旋律!?

「なぜこんなものが!?」

まさかの展開に一瞬頭が真っ白になりました。さすがにこの店で「おみやげありませんか?」などと質問する勇気もありませんでしたし、そんな意味はないと思っていたので、これは完全に予想外でした。

成人向け雑誌メインの店では、店員さんに話しかけるどころか、目も合わさず商品を買ってすぐに帰るようなイメージでしたが、気になりすぎてそうも言ってられません。私は思い切って店員さんに話しかけました。

 

山下メロ

なぜこんなものがあるんですか!?

 

お店の方

え!?そんなものありました?

 

山下メロ

はい、ここに押し込まれてましたよ

 

お店の方

そんなのがあったことを忘れてました

 

山下メロ

これは以前ここで売っていたものなんですか?

 

お店の方

昔は土産店をやっていたんだけど、時代の流れで売れなくなって、今はこういうものを売るようになったんです。当時の在庫が余ってたから多分そこに押し込んであったんだと思います

店構えを見て、土産店のように感じた私の予感は当たっていたのです。

しかし土産店が成人向け雑誌メインの店になるとは……。今後は成人向け雑誌ばかり売っている店だからといってスルーせずに、ちゃんと調査しなくてはなりません。

現在は東京オリンピックなどの影響もあって、成人向け雑誌を扱わなくなるコンビニエンスストアが増えています。そして、それ以前から成人向け雑誌そのものもどんどん廃刊しています。

ファンシー絵みやげが売れなくなって、業態転換を迫られた土産店が成人向け雑誌を売り始めるも、今ではその成人向け雑誌も売れなくなっているという。まさに時代の流れを感じます。今、あのお店は何を売っているのでしょうか……。

保護活動には「自己暗示」も必要

渋温泉まで戻ってきました。こちらには外湯などがあり、夜温泉街をそぞろ歩きする習慣があるので、土産店も遅い時間までやっていたり、夜だけ営業したりするのです。

渋温泉は「千と千尋の神隠し」に登場する温泉旅館「油屋」のモデルになったとも噂される旅館「金具屋」さんがあるなど、人気の温泉街です。そのため洗練されたお店が並んでいることもあり、あまりファンシー絵みやげは見つかりませんでした。

渋温泉にある旅館「金具屋」
渋温泉にある旅館「金具屋」
新しい土産店や商品の入れ替わりが激しいお店は、ファンシー絵みやげを取り扱っている可能性が低いのです。それでも、新しい土産店の一角に売り尽くしコーナーが存在したケースもあるので、すべての店で調査をします。

しかも、先入観から「無いだろうな」と思ってしまうと見落としの元です。あくまで「絶対にここにもある」と思いこむことが重要です。

「無いだろうというものを探す」のと「あるはずのものを探す」のでは脳の働き方が違うような気がするのです。そのため私は常に「ある、絶対ある」などとつぶやきながら店内を見回っています。自分に暗示をかけているのです。
渋温泉は、プログレバンド・エマーソン、レイク& パーマーの名盤と同じ名前の店があることでも有名。
渋温泉は、プログレバンド・エマーソン、レイク& パーマーの名盤と同じ名前の店があることでも有名。

什器、それは当時の「空気感」

そんな中、とあるお店にて干支と星座のキーホルダーを見つけました。普通の人はまず見落とすような、店内の隅っこにポツンと置かれた什器(じゅうき)にかかっていたのです。地名こそないものの、ファンシー絵みやげのイラストが描かれていました。

お店の女性の方に、それを購入したいと言ったところ「これを欲しいと言われたの何年ぶりかしら。ずっと売れないから親戚の子供なんかが来たら無料で配っていたんだけど、欲しい人が現れるとは思いませんでした」とのお返事。

恐らく子供の星座や干支のものを全部あげてしまったのか、歯抜けになっています。その後、この商品を見つけるたびに買っては補充していますが今もまだ揃っていません。
恐らく子供の星座や干支のものを全部あげてしまったのか、歯抜けになっています。その後、この商品を見つけるたびに買っては補充していますが今もまだ揃っていません。

無料で配っていたためか各種1個くらいずつしか残っておらず、どのみち干支と星座を全種類買うので、全部買うのと一緒だなと思ったので、いっそその什器ごとまとめて買わせていただけないかとお願いしました。

なぜならその什器の上には、当時の空気感が残された手書き文字の看板が付いていたからです。すると、前例のない申し出に、女性の方は自分だけで判断できなかったのでしょう、二階から旦那さんを呼びました。

什器の看板。手書き文字が特徴的。
什器の看板。手書き文字が特徴的。
「なんでこんなものが欲しいの?」と言う旦那さんに、自分のファンシー絵みやげ保護活動の意味などを説明して、ご理解いただき、什器まるごと購入させていただきました。
 
この日の保護活動はまだまだ続けるつもりでしたが、什器を抱えて他の店を回るわけにもいきません。什器を自転車になんとか載せて、宿に戻りました。

お店の方の優しさを抱えて帰る

宿に戻って什器を置いてみると、店頭で見るのとは違う存在感に改めて驚きました。保護活動は一瞬の出会いであり、もう二度と出会えないかもしれないため、後先を考えてられません。毎回とりあえず保護するべきものをすべて保護して、それから運搬手段を考えます。
で、でかい……。
で、でかい……。

戻ってきたスノボリア充たちに什器を見せると驚いていましたが、「みんなのボードとかも積むし、折り畳み自転車もあるし、そんな大きいもの乗せるスペースないよ?」と言われてしまいました。

しかし、四の五の言ってられません。東京まで持ち帰るしかないので、私の膝の上にのせて乗車することにしました。

この段ボールにも訳があります
この段ボールにも訳があります

東京までの数時間、什器を入れた段ボールを抱えて過ごすのは快適ではありません。周りはみんなスノボで疲れて眠っていますが、さすがに私は眠れる状況ではありませんでした。

しかしこの段ボールは、お店の方がちょうどいい段ボールを探し、2つの段ボールを組み合わせてまで梱包してくださったものです。普通売ることのない什器を引き継がせてもらえたことがとても嬉しく、まるでお店の方とハグしているような気持ちになり、気がつくと眠りに落ちていました。

  ◇

山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則週1回、山下さんのルポを紹介していきます。

ファンシー絵みやげ紀行

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