連載
懐かしい「お土産」なぜこんな場所に…? 温泉街で見えた時代の変化
「ほるだぁ~っ!」
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「ほるだぁ~っ!」
80~90年代に日本中の観光地で売られていた雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」を集める山下メロさん。時代の流れとともに消えていった「文化遺産」を、保護するために全国を飛び回っています。今回訪れたのは、長野の湯田中渋温泉郷(ゆだなかしぶおんせんきょう)です。観光客で賑わう温泉街の土産店では、「ファンシー絵みやげ」がよく売られていたのですが、今回見つけたのは「まさか」なお店でした……。
私は、日本中を旅しています。自分さがしではありません。「ファンシー絵みやげ」さがしです。
「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称で、ローマ字日本語、二頭身デフォルメのイラストが特徴です。写真を見れば、実家や親戚の家にあったこのお土産にピンと来る人も多いのではないでしょうか。
バブル時代をピークに、バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。
私は、その生存個体を保護するための「保護活動」を全国で行っているのです。
ファンシー絵みやげの保護活動において、私は手段は選びません。前回の記事では、スノーボードに行くリア充たちの車に同乗してスキー場へ行きました。
友人たちにとっては、大部屋での宿泊費や、レンタカーの料金やガソリン代などを割り勘するとなれば、車の座席がある分人を参加させたほうが安くなるので、人数合わせで私にお声がかかることが稀にあります。
なんと今回は、前回の2010年から4年の時を経て再び誘われました。野沢温泉スキー場へ行った前回と同じく、今回もスキー場が多い長野県。目指すは湯田中渋温泉郷です。今回はどんな保護活動だったのでしょうか。
早朝に車で東京を出発した我々は、まず昼前ごろに長野県の菅平高原に到着しました。今回は前回のようにスキー場が宿泊する温泉のすぐそばではないので、私は同行したスノボ勢が滑るのに飽きるまでゲレンデの近くにいなくてはなりません。
ほんの数時間とはいえ少し不安でしたが、ゲレンデの周囲には土産店がいくつかありましたので、これは調査のし甲斐があるなと思い喜んで仲間はずれになりました。
菅平ではラグビー部モチーフの状差しを保護できました。なぜラグビー部だけ売られていたりするのか最初は分かりませんでしたが、ゲレンデから少し離れたほうへ歩いていたときに理解しました。
道の脇に、雪原が広がっていたのですが、よくみると「H」型のポールが突き出ているのです。それは、雪に覆われたラグビー場でした。
スキーのオフシーズンに、宿泊施設がラグビーの合宿などを受けて入れているようです。この状差しは、そんなラガーマンたちをターゲットに作られたものなのでしょう。
さて、我々はほどほどに菅平高原を離れて北上し、夕方ごろには渋温泉の旅館に到着して荷物を置きました。さっそく友達は、ナイトスキーといういかにもリア充のアクティビティに興じるため、少し離れたゲレンデへ車で出かけていきました。
私はというと、リア充たちがゲレンデでキャッキャウフフしている間、車もないので、積んできてもらった折り畳み自転車を使い、夕方から夜の温泉郷をまわる算段です。
まずは渋温泉から1kmほど自転車を漕いで湯田中駅へ向かいました。駅から渋温泉の温泉街は離れているため電車を使ってくる人は少ないのか、駅前は少し寂しい雰囲気で、土産店もシャッターがおりていました。
まさかの展開に一瞬頭が真っ白になりました。さすがにこの店で「おみやげありませんか?」などと質問する勇気もありませんでしたし、そんな意味はないと思っていたので、これは完全に予想外でした。
成人向け雑誌メインの店では、店員さんに話しかけるどころか、目も合わさず商品を買ってすぐに帰るようなイメージでしたが、気になりすぎてそうも言ってられません。私は思い切って店員さんに話しかけました。
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
山下メロ
お店の方
店構えを見て、土産店のように感じた私の予感は当たっていたのです。
しかし土産店が成人向け雑誌メインの店になるとは……。今後は成人向け雑誌ばかり売っている店だからといってスルーせずに、ちゃんと調査しなくてはなりません。
現在は東京オリンピックなどの影響もあって、成人向け雑誌を扱わなくなるコンビニエンスストアが増えています。そして、それ以前から成人向け雑誌そのものもどんどん廃刊しています。
ファンシー絵みやげが売れなくなって、業態転換を迫られた土産店が成人向け雑誌を売り始めるも、今ではその成人向け雑誌も売れなくなっているという。まさに時代の流れを感じます。今、あのお店は何を売っているのでしょうか……。
渋温泉まで戻ってきました。こちらには外湯などがあり、夜温泉街をそぞろ歩きする習慣があるので、土産店も遅い時間までやっていたり、夜だけ営業したりするのです。
渋温泉は「千と千尋の神隠し」に登場する温泉旅館「油屋」のモデルになったとも噂される旅館「金具屋」さんがあるなど、人気の温泉街です。そのため洗練されたお店が並んでいることもあり、あまりファンシー絵みやげは見つかりませんでした。
そんな中、とあるお店にて干支と星座のキーホルダーを見つけました。普通の人はまず見落とすような、店内の隅っこにポツンと置かれた什器(じゅうき)にかかっていたのです。地名こそないものの、ファンシー絵みやげのイラストが描かれていました。
お店の女性の方に、それを購入したいと言ったところ「これを欲しいと言われたの何年ぶりかしら。ずっと売れないから親戚の子供なんかが来たら無料で配っていたんだけど、欲しい人が現れるとは思いませんでした」とのお返事。
無料で配っていたためか各種1個くらいずつしか残っておらず、どのみち干支と星座を全種類買うので、全部買うのと一緒だなと思ったので、いっそその什器ごとまとめて買わせていただけないかとお願いしました。
なぜならその什器の上には、当時の空気感が残された手書き文字の看板が付いていたからです。すると、前例のない申し出に、女性の方は自分だけで判断できなかったのでしょう、二階から旦那さんを呼びました。
戻ってきたスノボリア充たちに什器を見せると驚いていましたが、「みんなのボードとかも積むし、折り畳み自転車もあるし、そんな大きいもの乗せるスペースないよ?」と言われてしまいました。
しかし、四の五の言ってられません。東京まで持ち帰るしかないので、私の膝の上にのせて乗車することにしました。
東京までの数時間、什器を入れた段ボールを抱えて過ごすのは快適ではありません。周りはみんなスノボで疲れて眠っていますが、さすがに私は眠れる状況ではありませんでした。
しかしこの段ボールは、お店の方がちょうどいい段ボールを探し、2つの段ボールを組み合わせてまで梱包してくださったものです。普通売ることのない什器を引き継がせてもらえたことがとても嬉しく、まるでお店の方とハグしているような気持ちになり、気がつくと眠りに落ちていました。
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山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則週1回、山下さんのルポを紹介していきます。
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