連載
バトル鉛筆、エスパークス「遊べる文房具」で振り返る平成カルチャー
ノートからペンケースへ…まさかの「メディアミックス戦略」も

ファンシー絵みやげとは
「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称です。地名やキャラクターのセリフをローマ字で記し、人間も動物も二頭身のデフォルメのイラストで描かれているのが特徴です。

バブル時代がピークで、新しい商品を「出せば売れる」と言われたほど、修学旅行の子どもたちを中心に買われていきました。バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。
しかし、限定的な期間で作られていたからこそ、当時の時代の空気感を色濃く残した「文化遺産」でもあります。私はファンシー絵みやげの実態を調査し、その生存個体を「保護」するため、全国を飛び回っているのです。
「遊べる」機能を取り入れたファンシー絵みやげ


しかし、子どもたちの欲望は、休み時間だけにとどまりません。
なんとかして、授業中だって遊びたい。
ファンシー絵みやげのメーカーは、そこにも目をつけました。
授業中に机に出して使えるものといえば、文房具です。
わざわざ文房具を観光地で買わなくても近所で買えるわけですが、ファンシー絵みやげとして地名やキャラクターイラストをプリントしたものがいくつか存在します。鉛筆、消しゴム、鉛筆削り、メモ帳、ノートなどです。
非日常空間である観光地に来てまで、勉強のことを考えたくないからか、そこまで多いジャンルではありません。しかし、そのように多くない中に、確実に目立つ存在があります。それが今回紹介したい「遊べる文房具」です。
まずは、遊べる文房具の歴史を見ていきましょう。
文房具が「遊び」に寄っていく
他にも、机にコンパスで穴を掘り、練りケシや消しカスで作ったボールなどでゴルフのようなことをしたり、消しゴムを指ではじいてサッカーのPKごっこをしたり、色々な遊びが考案されました。
しかし時代が進むと、文房具自体に遊べる機能が付くようになりました。ボタンでフタが開いたり、鉛筆が起き上がったりする多機能筆箱や、サイコロの目がついた六角形の消しゴム、ルーレットがついたカンペン(缶のペンケース)、ミニカーのような消しカスローラーなど、続々と登場しました。

「もはや漫画」なエスパークス


しかも、たとえばノートの漫画の途中で「ここからはカンペン(缶のペンケース)を読んでね」となって、途中の部分がカンペン買わないと読めなかったりします。これはメディアミックス戦略です。ノートからカンペンにストーリーが繋がるメディアミックスは後にも先にもエスパークスだけでしょう。しかし、商品仕様に対する値段がそもそも安いので、「子どもだましで売り上げアップ」というより「子どもたちをワクワクさせるため」という動機なのではないかと思えるのです。

エスパークスは、ノートとカンペン以外の文房具も色々ありますが、ほとんどに遊べる仕掛けがありました。ちょうどその時代に小学生だった男子は、背徳感を感じつつも、夢中になったのです。しかし、もはや自分で工夫する要素が一切なく、完全に遊ばされている状態でした。
授業中に遊んだり、漫画読んだりしすぎて、教師にエスパークスという存在がバレてしまい禁止になる学校もありました。しかし、特に驚きませんでした。いくら文房具の形をとっているとは言え、やり過ぎではないかと、みんな内心思っていたのです。「これは長くは続かないだろう」と薄々思っていました。禁止されてガッカリするどころか、なんだかホッとした子どもも多かったのではないでしょうか。
「バトエン時代」が到来
そして、1990年代後半になるとバトル鉛筆が登場します。エスパークスはオリジナルのキャラクターとストーリーのRPG的世界観でしたが、今度はすでにRPGとして大人気だった『ドラゴンクエスト』。ドラクエのキャラクターやモンスターを使って対戦できる鉛筆が、通称・バトエンです。サイコロのように六角形の鉛筆を転がして出た目で戦うのですが、ダメージを与えて体力を削ったり、アイテムや魔法で回復したり、かなり複雑になっています。

人気キャラクターの使用、そして遊び方はガッチガチに決められていて自由度がない……1980年代から1990年代にかけての遊べる文房具は、そんな進化を遂げました。
観光地も取り入れた「遊べる文房具」
しかも、全国流通でないからこそトライできるのか、文房具店では見たことのない商品もあるのです。



小さいものもありますが、45cmという超ロングサイズの商品も出現。よくある竹製の30cm定規の長さを超えています。実用性ではなく、迷路をロングコースにして、すぐゴールできないようしたいがための長さなのではないかと疑わしくなります。
こんな文房具で遊んでいたら、おそらく授業の内容は頭に入らないでしょう。

遊ばせたい?遊ばせたくない?土産メーカーの思惑

「勉強中にゲームをするのはやめよう!」
じゃあ、ボールペンにパズルを付けなければ良いのでは……という気もしてしまいますが、これこそが土産メーカーから子どもたちへのメッセージです。

「決して授業中にあそばないでください」
これを書いておけば、学校やPTAからの糾弾を少しかわせるのでしょうか。授業中に遊ぶなと書かれていますので、それでも遊ぶなら「自己責任」なのでしょうか。
わざわざそう書かないといけないということは、裏を返せば授業中に遊びたくなるような商品を作っているということでもあります。
ここにメーカーの気持ちがしっかりと書かれているなと思いました。
あくまでメーカーは「授業中に遊ばないでください」という立場をとりつつ、「授業中に遊べちゃうよ」というメッセージも伝えているのです。
そんなニーズに応え、遊べる文房具は進化しすぎてしまったのです。
久しぶりに遊んでみると、当時の教室の騒がしさや、夏の陽ざしまでも思い出しました。学生時代、どんな文房具で遊んでいたでしょうか。
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山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則隔週月曜日、山下さんのルポを配信していきます。