連載
#11 ここにも「スゴ腕」
針なしホチキス、発売10年で1千万台超 ゴミ箱での針外しが原点
コクヨ(本社・大阪市)の針なしホチキス「ハリナックス」。針を使わず紙をとじるという発想が話題を呼び、2009年の発売後、シリーズ累計で1千万台以上を売り上げています。開発者によると、きっかけはゴミ箱の針外し。実は100年前からあった技術が、環境への意識の高まりとともに再び日の目を見ることになった舞台裏がありました。
1905年創業のコクヨは、言わずと知れた老舗文具メーカーです。約2千人の従業員を抱え、オフィス用品、オフィス家具などの製造販売や通販事業なども手がけています。
企業の環境への取り組みが、クローズアップされるようになった2007年。環境に配慮を欠く商品にカタログ上で「エコバツマーク」をつけ、3年でマークの商品をゼロにする運動を全社的に始めました。
そんな中、ゴミ分別のため、ゴミ箱やシュレッダーの周りに人が集まって針外しをする光景は、社内でも度々話題に。そこから、針なしホチキスへの挑戦が始まったそうです。
「結構、チャレンジングだなと思っていましたが、エコへの取り組みが高まる中、挑戦を後押しする雰囲気があり、企画がスタートした」とクリエイティブプロダクツ開発部シニアアソシエイトの長谷川草(そう)さん(38)。
「技術は100年以上前からあり、他社製品もあったが、3~4枚しかとじられなかった。面白文具的な商品でした」と言います。
紙の一部をU字形などに切り込み、そこを折り返してとじ込むタイプの初代ハリナックスは、2年半かけて開発。穴をH字形にしたことで10枚までとじられ、大ヒット。国内外の数々の賞も受賞しました。
一方、「書類に穴を開けたくない」というユーザーの声に応え、金属の歯で紙を押しつぶして圧着させるハリナックスプレスの開発が始まります。長谷川さんは「力を加えるとくっつくのは紙の特性だが、目に見えず検証が難しい」。
手のひらサイズで圧着させる力を出すのにも苦労しました。力の方向や歯の材質など、試行錯誤を繰り返し、3年がかりで5枚を圧着できる機種を開発、14年に発売しました。
とじ部分は幅1.6ミリで長さ1センチ。細かい凹凸があります。コーヒーのフィルターが圧着するのと似た原理です。固いものでこすって凹凸をつぶせば、きれいにはがせます。
昨年入社し、今年から開発を担当している本間愛彩さんは、学生時代にハリナックスが登場した時の驚きを今でも覚えています。
「ホチキスから針をなくすという私にはなかった発想にびっくりしました。こういうものがあったらいいなという思いがなければ、ものはつくれない。勉強しつつ、お客様の欲している商品を作り出していければと思っています」
ハリナックスのキーワードは「環境・安全・効率」。異物混入を警戒する食品業界のほか、病院、福祉施設などでも針の誤飲を防ぐために使われています。外国人観光客からも人気が高いです。
広報室の久保秀喜さん(42)は「人々の生活に密着し、無意識に使っているものがエコに役だっている。そういう貢献ができればうれしいですね」と話しました。
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