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#9 ここにも「スゴ腕」

青汁「10万杯飲んだ」名物社員 苦みの理由見抜き、飲みやすく改良

数々のヒット商品を開発したキューサイの川上征志さん=福岡県宗像市、河合真人撮影
数々のヒット商品を開発したキューサイの川上征志さん=福岡県宗像市、河合真人撮影 出典: 朝日新聞

目次

 「まずい、もう1杯」

 青汁を飲んで、悪役俳優の八名信夫さんが顔をしかめるテレビCMで有名になったキューサイ(福岡市)。しかし今、特有だったあくの強い苦みは少なくなりました。「本当はまずくない」と、会社自らも広めてきた世間の青汁のイメージを変えるために、開発の中心にいる名物社員は飲みやすさを絶えず追求しています。(朝日新聞記者・女屋泰之)

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苦みの理由、全工程調べ発見

 キューサイの開発部でグループリーダーを務める川上征志さん(46)は、約10種類ある青汁商品のほとんどの開発に携わってきました。担当して約20年。試作で飲んだ青汁は「最低でも10万杯を超える」といいます。「青汁のことは川上に聞け」と社内で信頼されるほどです。

 販売する青汁には、原料の野菜・ケールを粉末にして水に溶かして飲む「粉末タイプ」と、凍らせたペースト状のケールを解凍する「冷凍タイプ」があります。2005年ごろ、冷凍青汁の鮮度を保ち、特有のあくの強い苦みをなくすという課題に打ち込みました。

 川上さんはずっと疑問でした。ケールの葉を食べても、青汁の苦みはしない。一体どこで味が変わるのか。

 葉の収穫から、液体にして冷凍するまでの全ての工程で、葉や液体を口に含んでみました。すると、ケールをしぼってペーストにする際に苦みが出ていることに気づきます。酸化によって成分が変化していたのです。

 酸素に触れないように、しぼる工程を中心にカバーをつけたことで味が劇的に変わりました。

開発の苦労を語る川上さん
開発の苦労を語る川上さん 出典: 朝日新聞

「はちみつ青汁」がヒット

 その後、商品の主力は冷凍よりも粉末タイプに移ります。粉末なら手軽に持ち運べる上、家で冷凍して保管する必要もないからです。

 この粉末の味も改善しました。ケールの葉の乾燥を火であぶるのではなく、低温の風にさらして自然乾燥する方法に変えたのです。均一に乾燥できて葉も傷めず、味わいがすっきりしたといいます。

 08年夏に発売され、最大のヒット商品となった「はちみつ青汁」の開発も手がけた川上さん。はちみつの種類と量を変えながら、青汁と混ぜて試飲する。半年ほどは毎日、10~20杯を飲みました。

 やがて、一般的なはちみつでは、青汁の味に負けてしまうことがわかりました。各メーカーの約50種類のはちみつを試し、青汁の苦みを中和できるような、「強い味」のものを見つけます。その後、液体であるはちみつを粉末にすることが、最も頭を悩ませたそうです。どうやって粉末化したかについては「門外不出でヒントも言えません」。

キューサイの「はちみつ青汁」=同社提供
キューサイの「はちみつ青汁」=同社提供 出典: 朝日新聞

もっと、もっと飲みやすく

 「まずい」CMの放映が始まったのは1990年。このCMで青汁が普及し、今では多くの食品メーカーも手がけますが、ケールよりも苦みが少ない大麦若葉を原料にするものが多いです。

 しかし、キューサイは、ケールにこだわります。ビタミンCや葉酸など多くの栄養素をバランスよく取れるとみているからです。「キューサイはパイオニアであり、今も品質はトップ」という自負も持っています。

 川上さんは1996年に入社後、冷凍食品の製造部門を経て、2000年からは商品開発に関連する部署一筋。新商品をつくるときには子どもたちの顔が浮かびます。長男(16)と次男(13)には、「離乳食を始めたころ」から青汁を飲ませていました。

 開発で一番うれしかったことは、はちみつ青汁を初めて飲んだ2人の評判がよかったこと。今でも愛飲者です。「家族が飲むんだから、変なものはつくれない」。そう自分に言い聞かせて、開発にあたっています。

 今、取り組んでいるのは「まだこの世にない青汁の模索」。粉末でも冷凍でもなく、固形やチューブなど、新しいかたちで摂取する青汁を開発することを目指しています。主力の粉末も、水に溶かさなければ飲めない。

 「味の改良だけじゃない。お年寄りでも、見ただけで摂取する方法がわかるものをつくりたい」。もっと、もっと飲みやすく。信念はぶれません。

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