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#8 ここにも「スゴ腕」

崎陽軒の「シウマイ弁当」、深夜から動く工場 手作業で1日8千個

崎陽軒のシウマイ弁当=同社提供
崎陽軒のシウマイ弁当=同社提供 出典: 朝日新聞

目次

 横浜名物・崎陽軒の「シウマイ弁当」。その生産は深夜から始まります。出張や旅行などで朝からお弁当を買い求める人たちに、できたてを届けるためです。機械化された工場で次々と生産されているのかと思いきや、多くの人の手作業に支えられていました。1日平均8000個を超すシウマイ弁当の生産を管理している「職場の要」を取材しました。(朝日新聞記者・土屋亮)

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崎陽軒の弁当工場は横浜駅前の本社以外に2カ所にあります。衛生面を考慮して、マスクと帽子で顔をすっぽり覆って作業をしています=横浜市都筑区、村上健撮影
崎陽軒の弁当工場は横浜駅前の本社以外に2カ所にあります。衛生面を考慮して、マスクと帽子で顔をすっぽり覆って作業をしています=横浜市都筑区、村上健撮影 出典: 朝日新聞

気持ちよく働くため、作業前の「雑談」

 崎陽軒の弁当調理部主任・中野真太郎さん(34)は、多くの勤め人が帰宅の途についた午後11時、横浜駅のすぐそばにある本社に出勤します。

 白衣に着替えて地下の工場に下りていくと、人気の無い静かな工場内を見てまわり、昨日と比べて何か異常はないか、食材や容器はそろっているか、急な欠勤者はいないかを確認。その後、出勤してきた他の社員やパートタイマーの女性ら50人ほどとちょっとした雑談をするのを日課にしています。少しでも気持ちよく働いてもらうための気配りです。

 機械化が進んでいない弁当工場は、食材の下ごしらえから、揚げたり炒めたりの加熱調理、最後の箱詰めまで手作業の積み重ねで成り立っています。

一つひとつ手作業でおかずを盛り付けるシウマイ弁当=崎陽軒提供
一つひとつ手作業でおかずを盛り付けるシウマイ弁当=崎陽軒提供 出典: 朝日新聞

 たとえば、箱詰め作業では約20人が一列に並んで、ごはんやシューマイ、タケノコの煮つけ、かまぼこなどの担当に分かれ、一箱分ずつ丁寧に取って入れていきます。量の微調整が求められるため、機械を導入しにくいそうです。

 横浜の本社で箱詰めされた弁当は、手で箱にひもをかけてから出荷しています。作業スペースは生産ラインを見渡せる位置にあり、忙しい時にはひもかけを手伝いながら全体を目配り。1個あたり5、6秒で結ぶ早業です。

シウマイ弁当のひもかけも手作業
シウマイ弁当のひもかけも手作業 出典: 朝日新聞

出荷計画守るため、臨機応変な配置

 工場は昼勤務と夜勤務の2交代制。本社工場では、それぞれの勤務で約8500個の「シウマイ弁当」をつくります。機械化されていないので生産のスピードはその日に担当する従業員の力量や体調に左右されますが、出荷計画は毎日必ず守らねばなりません。

 夜勤務の場合、午前5時から勤務が終わる午前8時まで1時間ごとに出荷数が設定されていて、臨機応変な人の配置こそが、計画達成のカギになります。

 それぞれの従業員の作業ごとの得手不得手を頭に入れたうえで、「箱詰めが遅れはじめた」と気づいた段階で、作業の途中でも配置を切り替え、計画通りの出荷を守ります。

経木の折り詰めもシウマイ弁当の特徴
経木の折り詰めもシウマイ弁当の特徴 出典: 朝日新聞

職場の要は「年下上司」

 「1時間半後に弁当50個を届けてほしい」。昨年秋、台風の接近で夜間作業が必要になった鉄道会社から夕方に急な注文が入りました。この日の生産は終わっていましたが、中野さんは職場に残っていた同僚に声をかけ、急きょ生産ラインを動かし、的確な指示で間に合わせました。

 現場では部下から「これ、どうしたらいいですか」と、よく声をかけられます。所属する弁当調理部の野村謙次部長の評価は「彼は本当に人柄がいい。だから、人がついてくる」。

 従業員どうしが話し込んで作業のスピードがやや落ちることがあっても、間違っても「早くやってもらえませんか」などとは言いません。配置をちょっと変えてみたり、別の仕事をやんわりお願いしたりと相手の気分を損ねずに作業のペースを上げてもらいます。

 かたや、細かな口出しをいやがる職人気質のベテラン社員もいます。「料理人」のプライドを尊重し、「お願いするときにも、自分の意見を押しつけることはしません」。

崎陽軒弁当調理部主任の中野真太郎さん
崎陽軒弁当調理部主任の中野真太郎さん 出典: 朝日新聞

 神奈川県湯河原町の生まれで、県内の工業高校を卒業して入社以来ずっと、弁当の生産現場で働いています。下ごしらえから箱詰めまで完璧にこなせるようになり、2017年、32歳のときに異例の若さで主任(サブリーダー)に抜擢されました。

 多くの部下を抱え、現場を切り盛りする立場にありますが、偉ぶるそぶりはまったく見せません。「毎日どこかしら反省点があります」と、どこまでも謙虚。うまく組織をまわす「年下上司」が、1954年からハマっ子に愛される伝統の味を支えています。

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