連載
#4 ここにも「スゴ腕」
コンビニのおにぎり「速さだけじゃない」量産の裏に技術者のこだわり
ある大手のコンビニ1社だけでも年間22億個売るという「おにぎり」。日本の食生活に欠かせない存在です。その自動製造機の開発を手がける一つが、東京に本社があるメーカーの鈴茂器工。最新の開発機が製造するスピードは、1.09秒に1個と、業界最速レベルです。開発の中心になったのは、技術課係長の長島光彦さん(46)。もちろん速さだけではなく、手づくりのおいしさの再現も追求。「人手不足」が進む現場を、機械の生産性向上で支えています。(朝日新聞経済部記者・堀内京子)
鈴茂器工はこの分野の有力メーカーで、回転ずしでも使われるすし製造機や、牛丼やお弁当のご飯をふんわり盛る「飯盛り機」も手がける。長島さんは大学で機械工学を学び、自動車の開発に興味があった。入社当時はすしやおにぎりの製造機に対し、「正直、ちょっとやぼったいなと思う気持ちもありました」。
だが、飯盛り機開発の主担当を任されると、すぐに奥の深さ、面白さに目覚めていった。
コンビニやスーパー向けのおにぎりの生産は、雑菌が繁殖しやすい30~35度付近を避けるため、炊いたコメをまず一気に23度まで真空冷却する。次が、冷えて板状になったご飯の固まりをほぐす工程だ。その後も、定量分割、成形、塩ふり、包装といった工程が続くが、特にこだわるのはほぐし。「ご飯ものは、ほぐしに始まりほぐしに終わるのです」。ほおばるとふんわり、コメ粒が立っているようにするため、最も重要なのだという。
以前は、くし状の金属歯がついた円筒状の部品を2本回転させ、その間にご飯の固まりを通してほぐしていた。だが、温かいご飯と違い、冷ましたご飯は簡単にほぐれない。金属歯でひっかくとコメの表面が割れて傷みやすく、食感も悪くなる。
そこで、金属歯を丸みを帯びた樹脂の爪に変えた。爪をつけた円筒を回転させて冷えたご飯の固まりに接触させることで、小さな穴が開いて、ご飯自身の重みでほぐれ落ちる仕組みにした。
爪だけでも20~30個の試作を重ね、その並びや厚み、配置などを比較するテストを繰り返した。ようやく満足のいく、ほぐしを実現できた。
スピードは当然のように求められる。0.01秒単位にこだわり、機械の無駄な動きや待ちをなくす研究を重ね、初めて担当した01年には約1.5秒に1個だった速度を縮めていった。
現場の目線に立った改良も多い。1日3交代のある製造現場では、パートの女性が重たい部品を取り外して洗浄していた。「軽くしてほしい」との声を受け、金属製の部品を樹脂製に変えた。
現場に増えた外国人も意識し、できるだけ工具なしでも部品を取り外せるようにしたり、ボルト1本でも大きめのデザインを選んだりと、扱いやすさを心がけている。気がつけば、取った特許も20以上になった。
「発想のヒントで手放せない」というのが、19世紀の機械の仕組みなどを載せた事典。テープで補強するほどの愛読書だが、実は入社時に同期に借りたもの。一度返したがこの3年ほどまた自分の机にある。
かつて顧客の食品加工会社の役員らは「これを導入すれば何人減らせる」と、人件費の削減効果を口にした。それが最近は人手不足のためか、「これを使えば現場が助かる」という声に変わってきたと感じる。技術へのこだわりと地道な開発努力が、食品加工の生産性アップを支えている。
これがまさに、生産性向上のための設備投資! と思いながら取材しました。いまコンビニやスーパーのおにぎりや牛丼店の”飯盛り”は機械化が進み、地道に競争する技術者たち。人手不足を、低賃金労働者でなく設備投資で乗り切るという経営判断=投資が、日本の技術開発の血液。https://t.co/iGSvQLs2y2
— 堀内京子 (@Kyoko_quetta) 2019年1月8日
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