連載
同性カップル映画に「ほっ」 LGBTQ描いた「ろう者」監督の歩み
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LGBTQなどの性的少数者は、ろう者の中にもいます。群馬生まれの今井ミカさん(29)もその一人。映画監督になりたいという夢をかなえ、今年6月には女性カップルが主人公の映画「虹色の朝が来るまで」をつくりました。手話通訳を交えてインタビューを行い、これまでの歩みをお聞きしました。
ーー今井さんご自身のことを教えて下さい。
私は幼い頃から、男女関係なく人を「好き」と思うことがありました。相性が合うから好きになる。男だから、女だから好きになるわけじゃなくて、その人だから好きになるという感覚です。好きになる相手は女性が多かったです。
でも小学校で手話でおしゃべりをしていたとき、同級生たちが同性愛者について否定的なイメージで話していたので、自分のことも話せなくなりました。ろう者の世界は狭くてうわさがすぐに広まってしまうので、バレないように生きていました。誰にも相談できませんでした。
――当時、支えになっていたものはありますか?
男性同士や女性同士のカップルが出てくる映画のDVDを借りてきて、それを見ているとき、心が落ち着きました。「Kissing ジェシカ」「ブロークバック・マウンテン」「四角い恋愛関係」などを見ていました。「素顔の私を見つめて」も何度も見ました。暗い映画もあったけれど、その中に同性同士がひかれ合って幸せそうにしている描写もありました。そういうシーンをみると、少しほっとできました。
当時暮らしていた群馬では借りられる映画も限られるので、インターネットでDVDを探しました。まだ家族にカミングアウトしていなかったので、部屋でパソコンでこっそり見ていました。
大学生になって、ゲイやバイセクシュアルのろう者の先輩たちに会いました。ゲイの先輩たちが「イケメンがいる」「カッコイイ男の子がいる」という話を楽しそうにしていて、私も言ってもいいのかなと思うようになりました。
家族に初めて彼女ができたことを話したのは19歳のとき。「やっぱりね」と言われました。LGBTQ映画のDVDは隠していたつもりでしたが、見つかっていたみたいです……(笑)
――そもそも映画をつくり始めたきっかけは。
小学6年のときに父が買ってきたホームカメラで、遊びで映像を撮り始めました。当時、映画「マトリックス」がはやっていたので、まねをして、家の周りで撮っていました。
両親と弟の4人家族で、みんなろう者です。私が演出と監督、弟が演技をして、ヒーロー役や悪役など4役くらいを弟に演じてもらいました。それを両親に見てもらったら、面白がって繰り返し見てくれました。
小学生まではろう学校で手話が禁止され、口の形を読み取ったり、発声したりする訓練を強制的にやらされました。うまく発音できない人は、厳しく指導されました。今は状況が変わっていると思いますが、当時はひどかったです。先生がいないときだけは、生徒同士で手話を使って話すことができました。
中学からは学校で、日本語対応手話が使えるようになり、映像にも手話のシーンを多く入れるようになりました。中学の先生に映像をみてもらったら感心してくれて、手話がたくさん出てくる映像なので、ろうの生徒も楽しんでくれました。
高校2年のとき、映像コンテストで賞をもらいました。授賞式でアメリカのプロの監督に出会い「ろう者の映画監督がいるんだ!」とうれしくて、私も映画監督になりたいと思うようになりました。
大学で映像制作を学び、いまはIT会社で勤めながら映画を撮る生活を続けています。小さいときから、これまで40本くらいの作品をつくってきました。ろう者と聴者の恋愛物語やホラー、アート系などジャンルはいろいろです。
LGBTQがテーマの映画を撮ったのは、今回が初めてです。性について悩んでいる人が、この映画を見て一歩を踏み出すきっかけになればと思います。
――悩んでいる10代に伝えたいことはありますか?
1番苦しいのは、自分が何者なのか分からず「社会の多数派と自分が違うんじゃないか」「おかしいんじゃないか」と悩んでしまうことだと思います。周りと自分が違うと気づくことは、本来はいいことだと思うんです。
今はインターネット上でも、色んな情報が得られます。いろいろな人がいるので十分注意しつつも、自分と思いが通じる人を探してみる。そうすれば、価値観を共有できる人がきっとみつかると思います。
――この社会で女性カップルで生きていく中で、変わったらいいなと思うことは?
いっぱいありますね。今1番不安なのは、もしパートナーが事故にあったり、命に関わることがあったりしたときに、最期まで一緒にいられるのかなということです。周囲から断られたり、拒否されたりしてしまって、一緒にいられないんじゃないかなと心配です。
それからアパートや家を借りるときにも、不動産屋からパートナーとの関係性を詮索(せんさく)されたりもします。一つ一つのことに気を使いますね。
――最後に、好きな手話を教えてください。
手話って、おもしろいんですよ! 関西と関東でも違う表現がありますし、群馬だけで使われている「方言」もあります。どれか一つ好きな手話を選ぶのは難しいですが……。映画「虹色の朝が来る」のタイトルにもある「朝」という手話が好きです。太陽が昇っていく様子を、手の形で表しています。
1日色んな人に会って、うれしさや苦しさなど色んな感情を感じて、夜になって、また朝が来る。映画のタイトルも、目覚めたときにハッと思いつきました。昨日とは何か違ういいことがあるんじゃないかなという予感がしました。
悩んでいたり苦しんでいたりしても、どんな人にもすてきな朝が来ます。人々を応援してくれるすてきな手話だと思います。
<上映予定>
【京都】関西クィア映画祭 10月20日午後5時10分、京都大学西部講堂(京都市)。今井監督や主演の長井恵里さん、小林遥さんのトーク。
【NY】 ニューヨークLGBT映画祭 10月29日。
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