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ろう者のLGBTQを描く 映画「虹色の朝が来るまで」ができるまで
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ろう者の女性カップルを主人公した映画「虹色の朝が来るまで」が、今年6月にできました。制作にはLGBTQもそれ以外の人も、ろう者も聴者も、立場を越えて色んな人が協力してくれたといいます。手話通訳を交えてインタビューを行い、監督の今井ミカさん(29)に制作の裏側を聞きました。
――「虹色の朝が来るまで」は今井さんにとって初めての、LGBTQをテーマにした作品です。今、この映画をつくろうと思ったきっかけは。
2013年に、女性同士のカップルが東京ディズニーリゾートで結婚式を挙げたというニュースが流れました。メディアで取り上げられるようになり、時代が変わってきたんだと思いました。社会の動きにも背中を押されて、私も自分のことを少しずつオープンにできるようになってきました。
最近はろう者のLGBTQの活動が活発で、「ろう×セクシュアルマイノリティ全国大会」という催しも数年前に始まりました。そんな中、知り合いから「映像をつくったら」と背中を押されて、「ろうとLGBTQ」というテーマに取り組もうと思いました。
――脚本はどこから着想しましたか?
LGBTQの当事者から聞いた体験談や私自身の経験を、映画に織り交ぜました。たとえば私がろう学校の先生にカミングアウトしたとき、家庭を持つ幸せを説いてきた先生もいれば、自身への好意だと誤解した先生もいました。
こうした人たちは、少数派を否定するような考えを実は持っていないのかもしれない、とも思うんです。単にLGBTQに関する知識がないから、否定的な態度をとってしまうのかも。深く考えていないんだと思います。
一方で周りには、応援してくれる人も多かったです。「人と違ってもいいんだよ」「そのままでいいんだよ」というのは、言葉では簡単に言うことができる。でも、目が違います。
相手の目を見れば、心の底から言ってくれている言葉かどうか分かります。本心で「そのままでいいよ」と言ってくれている友人たちがいたことが支えになりました。
――華のキャラクター設定のこだわりは。
私自身、今までお付き合いした方は男性より女性の方が多いのですが、いろんな人と出会うたびに、その人と一緒にいて幸せかどうかが大切で、性別は関係ないと感じるようになりました。
自分をレズビアンと決めつけて良いのかと悩んだこともありましたが、最近は「無理に当てはめなくてもいい。私は私だ」と思えるようになりました。
なので、映画の主人公も、自分の性的指向が何なのか悩んでいる設定にしました。映画をみた人に「ありのままの自分でいい」というメッセージが伝わればと思います。
――華とあゆみがLGBTQのろう者が集まるバーに出かけるシーンがあります。モデルにした場所はありますか?
実際にあるお店をモデルにしたのではなくて「こんな居場所があったらいいなぁ」というイメージをつめこんだ架空のバーです。
居場所って大切だと思うんですよね。相談できる相手がいなくて、気持ちを隠している人にとって、ほっとできる場所があればいいなと思います。ろうLGBTQが常時あつまれる場所は、まだ少ないです。これから増えていったらいいなと思います。
撮影のリハーサルでは、バーのママ役の菊川れんさんの周りに、みんなが集まってワイワイと手話で話していました。その様子をみていて、とても楽しかったです。時間を忘れるようでした。
――いろんな人が制作に協力してくれたそうですね。
これまでは脚本から監督、編集、撮影まですべて1人でやり、制作費も自己負担で映画を作っていました。私自身耳が聞こえないこともあって、音楽がない作品ばかりつくっていたのですが、聴者にも楽しんでもらえるよう、映画にプロがつくった音楽をつけたいと思うようになりました。
そこで今回は、制作費をクラウドファンディングで集めました。映画の趣旨に賛同して100人を超える方が支援してくれました。当事者もそうでない人も、立場を超えて協力してくれたことがうれしかったです。カメラマンなどのスタッフも約30人にのぼります。
ろう者の中で、テレビなどに出るような専業の俳優はとても少ないので、出演者はプロでなくてもいいので、役の背景にあった人や、作品の思いに共感してくれる人をキャスティングしました。たとえば主人公の華は、両親ともろう者という環境で育った設定なので、同じような背景の人に出演してもらいました。
――劇中のピアノ音楽が美しかったです。曲選びはどのように進めましたか?
音楽ってはっきりと言葉では表せないので、曲選びはとても難しかったです。先に映像をつくって、映像制作に詳しい作曲家と話し合いながら、場面ごとの音楽を選んでいきました。
耳が聞こえない私でも音楽が感じられるよう、音を波形で描いて目で見て分かるようにしてみたり、音が振動で体に伝わる特殊な枕を使って音を感じてみたり、いろんな方法を試しました。
試行錯誤していたとき、目の前でその方がピアノを弾いてくれたんです。楽しいメロディーは肩を揺らして、悲しいメロディーは肩を落として、表情や体の動きを使って弾いてくれました。映像とその方がピアノを弾いている姿を同時にみて、これはイメージに合うかもしれないと少しずつ分かっていきました。
――映画に出てくる群馬の風景も印象的でした。
中でも、小学生のとき遠足で訪れた赤城山近くの大沼で撮ったシーンは思い入れがあります。小学生だった私は当時、性別に関係なく人を好きになる自分をどう受け止めていいのかと悩んでいました。でも静かな沼の水面をみたときに、時間が止まったように感じました。
みんなにバレたくないと苦しんだり、将来どうしたらいいのだろうと悩んだりしていたのですが、そうした周りに打ち明けることのできない思いを沼の中に沈め、思いを受け止めてもらえるような印象を持ちました。
大沼を映画のロケハンで訪れて、改めてこの映画のテーマにふさわしい場所だと感じました。主人公2人をロングショットで撮ったのですが、たまたま誰もいないタイミングで霧が出て、最高のシチュエーションでした。映画の中で、とても好きなシーンになりました。
今は大都市だけでの上映ですが、地方の映画館にも広がって、いつか地元の群馬でも上映してもらいたいなと思います。
<上映予定>
【京都】関西クィア映画祭 10月20日午後5時10分、京都大学西部講堂(京都市)。今井監督や主演の長井恵里さん、小林遥さんのトーク。
【NY】 ニューヨークLGBT映画祭 10月29日。
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