IT・科学
「できるならずっと仮想の世界に…」バーチャルYouTuberが見た境地
急速に利用者を増やしているVRコミュニケーション空間。そこにはどんな世界が広がっているのでしょう。異色のバーチャルYouTuber「ねこます」さんが、その独特な世界を語ってくれました。
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急速に利用者を増やしているVRコミュニケーション空間。そこにはどんな世界が広がっているのでしょう。異色のバーチャルYouTuber「ねこます」さんが、その独特な世界を語ってくれました。
バーチャルリアリティー(仮想現実、VR)を駆使するユーザーの間では、自分の「外見」は交換可能なのが当たり前になっています。「男」という外見をうっとうしいと感じ、少女のかわいらしい姿を積極的に選んで、仮想の世界に遊ぶ――。そんな変化が起きているのです。その交流の場VRChat(ブイアールチャット)の初期からのユーザーで、いま異色のバーチャルYouTuberとして注目される男性に、急伸するVRコミュニケーションの世界について語ってもらいました。
話を聞いたのは、「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」ことねこますさんです。
ねこますさんの動画を初めて見た人は、最初の音声が流れた瞬間に仰天するでしょう。見た目はかわいい狐耳の女の子なのに、声は間違いなく男性。しかも「本職がコンビニバイトで……」というように、話題はぶっちゃけまくり。
一方で、かざらない人柄とユーモアがにじみ出て、みるみるうちに、バーチャルYouTuber界の台風の目になりました。いま、ねこますさんのチャンネル登録者は26万に及びます。
――どんないきさつで女の子のアバターを使うようになったんですか?
高校生のころからオンラインゲームをよくプレイしていたんですが、あえてリアルの自分に合わせる必要もないと思って、女性のアバターを使ったのが最初だったと思います。
せっかく仮想の世界で、しかも外見を思い通りに変えられるわけですから、かわいいキャラクターにして、さらに好みにカスタマイズしていくようになりました。
自分にとって一番フィットするのは、かわいい獣耳(けもみみ)の女の子なので、キャラクターやアバターを選ぶときは、それに近づけていった感じです。
――美少女のアバターに、内面が影響される感じはありませんか?
自分の場合は、あまりないですね。これが普通というか当たり前の状態です。オンラインゲームなどでずっとかわいい女の子の姿でいたので、これがもう大前提で。
何だろう……「ストレスがない姿」というのが一番近いでしょうか。逆に、自分のリアルな3Dアバターを使ったら、居づらいというか、ストレスを感じると思うんです。
――自分の内側に合わせていったのが今の姿ということですね。
自分に限ったことではないと考えています。特定のキャラクターになりきってチャットをする「なりきりチャット」というものがありますが、これも自分の理想とする何かになれるというものですよね。
あくまでもテキストベースですが、リアルで縛られていた役割や立場から離れて、内面の欲求を満たすことができる。だから多くの人が参加したんだと思います。
――VRChatもその延長という捉え方でしょうか?
基本的にはそうなんですが、表現力と情報量がけた違いになったことで決定的な変化が生まれました。
なりきりチャットだったら、自分の仕草とか動きとかまで、地の文で書かなければいけません。オンラインゲームの場合も、ゲームに実装されていない動きや表情はできませんし、会話もやっぱり書き言葉です。
けれどVRChatに代表されるVRソーシャルの世界では、書き言葉が話し言葉になっただけでなく、もっと微妙な身振り、顔の向け方や手の動き、視線の向きまで表現できるようになった。
あえてボイス(声)を使わない人までいるんです。非言語コミュニケーションですね。そうすると、余計な情報が逆になくなって、純粋なかわいらしさが際立つんです。
最初期のVRChatって、ボイス機能が実装されていなかったんです。自分はそのころを知らないんですが、当時から利用していた友達は、そのころのVRChatを「究極の愛の世界だった」というふうに語ります。
――「究極の愛の世界」…。すごいな。でも言語なしというのは驚きですね。まるで赤ちゃんがやっていること、赤ちゃんでなければ許されないことが、VRChatの世界で可能になっているわけですよね。
あ、そう! そうですね。普通の社会で、言葉なしでコミュニケーションを成立させて、社会生活を送るなんて、すごく難しいじゃないですか。
でもVRChatでは、ボイスを切っても、動きだけでコミュニケーションを成り立たせることができて、しかも集団の中で長時間過ごして、その中で役割やポジションもちゃんと獲得できているんです。
――言葉がないことにこそ意味がある、と。
あえてボイスチャットを選択しないことで、キャラクターがすごくピュアになってくるんです。
言葉を使うと具体的な「意思」が見えてしまうけれど、言葉がないと抽象的で純粋な存在になっていく。
むしろ非言語だからこそ、集団やグループの中で果たせる役割があるということを、その人は「文字で」書いていました。実は自分もその人の声は一度も聞いたことがないんです。
――実際にねこますさんが、非言語のキャラクターの人たちと接触してコミュニケーションをとったとき、どういう印象や感情を持ちますか?
「声」がない場合、そのアバターの見た目の印象が全てになるわけじゃないですか。ただ100%純粋に「かわいい」「好き」という感情しか抱かないんです。それ以外の雑な情報がカットされたような気持ちになりますね。
――それやっぱり、赤ちゃんの戦略に似ている気が。とにかく問答無用で「かわいい」と感じてもらえることが、哺乳類の赤ちゃんの最大の生存戦略なわけで。
そうですね。たぶん猫とかは、大人になってもそういう戦略をとっている生き物ですよね。
――かわいらしい女の子のアバターの意味はそこにあるのかな、という気もします。
そうだと思います。現実社会で戦うのに疲れた人たちが想像以上に多くって、VRの世界で女性化しているのかもしれませんね。
――ねこますさんご自身には当てはまらないとおっしゃいましたが、一般論として、美少女のアバターを使うことで、内面が影響されることはないんでしょうか?
普通は自分の内面に合わせて能動的にアバターを選ぶわけです。VRChatの世界での社会性や役割をそれで選択するんですね。でも、そうして選んだはずのアバターに内面が影響されていると思えるケースもあります。
赤い色のミニギャング団みたいなアバターがあるのですが、それを使ってVRChatの中でセクハラ行為や迷惑行為をする集団がいます。
元々は迷惑行為をするアバターではなかったのに、一部悪質なプレイヤーが集まるようになって、そういう性格を帯びてきました。
本人たちは、自分が主体的にそのアバターを選択しているつもりかもしれませんけど、逆にそのアバターによって荒らし行為に駆り立てられちゃっているのかもしれない。一種の制服のようなものですよね。
――そういうギャング的なアバターとは逆の「中身おじさん外見美少女」のキャラクターの人たちですが、やはり男性の声でしゃべっているんでしょうか?
案外黙っている人が多い印象です。かわいいアバターの場合、理想はかわいい女の子の声が出ることなんですが、ボイスチェンジャーなどを使ったとしても、なかなか難しいですよね。
そうすると、相手によっては幻滅されてしまうかもしれない。なので女の子のアバターであることを優先して、自分の性格をそちらに合わせているのかな、かわいらしさの方を優先しているのかな、と感じることがあります。
――それはそれでストレスがたまりそうな気がしますが。
ただ、日常的に続けていると、それが当たり前になっちゃって、その方がストレスがなくなってくるんですよ。かわいくありたいという欲求は満たせるので。
――となると、その人たちも非言語コミュニケーションの方向に行きそうですね。
そうですね。ただ、自分は「かわいい姿なのにおっさん」という立ち位置ができあがっているので、何かあったときには話してくれるんですよ、男の声で。
そこは信頼感を持ってもらっているのかなと。
――バーチャルの世界に強い関心を持つようになったきっかけは何だったんでしょう?
(バンダイナムコのアニメ)「.hack//(ドットハック)」ですね。それからアニメ「ソードアート・オンライン」。
バーチャルの世界に住んでいるということのリアリティーというか、実感が伝わってくる。実際、VRChatに入ると、「やっぱりこっちの方が落ち着くなあ、こっちがいいなあ」と感じます。
――むしろ心としては、主体はあちら側にある、と。
そうですね。もちろん、食事とか入浴とか、そもそも仕事とかは「こっち(リアル)側」でないとできないので、戻ってこないといけないんですが。
ずっと向こうにいられるんだったら、自分は向こうの世界にいます。自分のホーム、原点は向こうだと思っています。
――ずっと向こうにいたいという、その理由はどの辺にあるんでしょうか?
単純に、自分にとってしっくりくる、ストレスがない、ということですね。
だって現実って、きれいじゃないし、おしゃれを楽しいと感じることなんかもないですけど、VRの世界だったら、どんなかわいいアバターを使おうかとか考えることができる。
花火だって、あえて現実で見たいとか思いませんもん。VRデバイスで火薬のにおいが出る機能を実装できたら、夏の空気感を出せるだろうなとか、そっちの方を考えちゃいますもん。
――来ますねえ(笑)。でも実際、大半の男にとって、リアルの世界でおしゃれをしたって、自分の現実に打ちのめされるだけですからね。本当にカッコいい、あるいはきれいな男性は別だけど、普通の男性にとってはおしゃれなんて……
ない、ないですから。それと、自分の姿を撮ったり、見せたりして、楽しいことなんてないですもの、現実は。
――ないですよね。
これ、体験としてわかったのは、最初にFaceRig(フェイスリグ)とLIVE2D(ライブツーディー)で動画を撮ったときなんです(注:FaceRigは、ウェブカメラで自分の顔の表情をトラッキングするソフト。LIVE2Dと合わせて使うと、アニメ的なキャラクターが、自分の表情に合わせた動きをする)。
それで自分の動画を撮ってみると楽しかったんですよ。そのとき、「あ、SNSで自撮り写真を上げている人って、自分のことをかわいい、好きと思ってるんだ」と気がつきました。
想像はしていたけど、間違いないと実感したのはそのときでしたね。
――たしかにリアルの自分の写真を見て、楽しいなんて思ったことないですもんね。
ないですよね、ないですもんね。撮ろうとも思わないし、SNSに上げようなんて絶対思わないですけど、VRChatだと、みんなスクリーンショット撮って、上げるんですよ。
それは自分をかわいいとか好きだとか感じるからで、アバターって、ちょっと驚くような効果を持っていますね。
男性として生まれて 生きていると、男性として振る舞わなきゃいけません。女性らしい願望や欲求が自分の中にあっても、それを満たすのは難しいです。
でも、女性のアバター(姿形)をまとったら、それが可能になります。本来の自分の願望に、よりマッチしたことができる。
何より、かわいい方が魅力的だし、コミュニケーションも楽なんです。