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IT・科学

世界一わかりやすい「取扱説明書」を作りたい 元アップル社員の執念

「まごチャンネル」の取扱説明書、文字は少なめイラスト多め
「まごチャンネル」の取扱説明書、文字は少なめイラスト多め

目次

 仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、モノのインターネット(IoT)など、日々、新しい技術が開発されていますが、誰もがついていけるわけではありません。お年寄りにとって、テレビは今も、生活の中心です。元アップル社員だった梶原健司さんが作ったテレビを使った動画共有サービス「まごチャンネル」。一番、苦心したのはマニュアルだったと言います。目指したのは「世界一わかりやすいトリセツ」でした。

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シンプルなイラストと文字

 「まず見てほしいのはマニュアルです」

 2014年に「チカク」を創業した梶原さんがうれしそうに取り出したのは、正方形の冊子です。

 梶原さんが手がける「まごチャンネル」は、テレビに接続されたセットボックス経由で、スマホから送られた動画や写真が映し出されるサービスです。遠くに住む両親に孫の動画を見せたい家族を想像して作りました。

 「かんたん設置ガイド」と書かれた、シンプルなイラストと文字のマニュアルが「世界一わかりやすい取扱説明書(トリセツ)」です。

アップルを辞めて「チカク」を立ち上げた梶原健司さん
アップルを辞めて「チカク」を立ち上げた梶原健司さん 出典:「チカク」提供

トリセツのために仕様変更

 マニュアル作りにあたって、百人を超えるお年寄りの声を聞いたそうです。

 「文字はほとんど読まないですね。ケーブルの種類もわからない人が多くて…そして、まず読み返しません」と梶原さん。お年寄りの声を聞く中で、最新の技術を使う製品だからこそ、作り手目線ではいけないことを痛感したそうです。

 完成したトリセツは、文字は大きめ、行間も広くとってあり、マニュアルというより絵本のような雰囲気です。

 電源ケーブルの説明は「一番右に差し込む」。HDMIケーブルは「先端が台形になっている」。なるべく専門用語を使わないよう工夫されています。

 「マニュアルの書き換えから製品の仕様を変更したこともたくさんあります」と明かします。実際、ケーブルの差し込み口を減らしたそうです。

極力文字を減らした電源ケーブルの説明
極力文字を減らした電源ケーブルの説明

iPhone使えない世代

 アップル時代、梶原さんは新製品のマーケティングなどを担当していました。iPhoneをはじめアップル製品は「説明書いらず」で有名です。しかし、自分が関わった製品を淡路島に住む両親に送ったところ「使いこなせなかった」と言います。

 「自分たちの世代が日常的に使うスマホは、一定の世代以上にとって、テレビなんだと気付いたんです。直感的に誰でもどんな世代の人にでも使えるようなものを作りたかった」

梶原さんは「田舎ほど大型テレビを買う人が多いので、大画面で見られる孫の様子にみんな喜んでいます」と話す
梶原さんは「田舎ほど大型テレビを買う人が多いので、大画面で見られる孫の様子にみんな喜んでいます」と話す

「フォトフレーム」しまっちゃう心理

 写真や動画を見せる製品としては「フォトフレーム」があります。しかし、梶原さんは「お年寄りは表示させない間、電気を使うのがもったいないと思ってスイッチを切っちゃう。そうすると使わなくなる」と考えました。

 毎日、使ってもらえる工夫として「プッシュ通知」をつけました。といっても、実家にスマホはありません。そのかわり、新着動画や写真が届くと家型セットボックスの窓の明かりがつきます。

 「プッシュ通知が大事なのは、スマホもお年寄り向けサービスも同じ。送る側も、明かりがついて喜ぶ親の顔が想像できるので、送信してみたくなるんですよ」

動画や写真が届くとセットボックスの窓に明かりがともる
動画や写真が届くとセットボックスの窓に明かりがともる

技術が進化するほど広がる格差

 トリセツ以外にも、使いやすさにこだわりました。「まごチャンネル」にはあらかじめ通信カードが入っているのでID、パスワードの設定がいりません。電源ボタンすらありません。

 梶原さんは「核家族化が進んで世帯当たりの人数が減っています。つまり、身近に無線LANや受信設定をしてくれる家族がいないのです」と話します。

 「らくらくホン」のようなお年寄り向けの情報機器が生まれています。アマゾンは日用品を直接、注文できる「Amazon Dash Button」を開発して話題になっています。

箱のステッカーを家族の名前にすることができる。社内では「ラベル」をきれいに貼ることにこだわる職人のようなメンバーもいるという
箱のステッカーを家族の名前にすることができる。社内では「ラベル」をきれいに貼ることにこだわる職人のようなメンバーもいるという

 しかし、梶原さんは「便利なサービスが出れば出るほど、デジタルデバイドと呼ばれる、最新技術の恩恵を受けられない格差が広がっている」と強調します。それをつなぐのが「テレビ」でした。

 クラウドファンディングで資金を募集すると目標の5倍を超える5百万円以上が集まりました。伊勢丹新宿本店で販売されたり、最近では、ANAのマイレージが使える商品として選ばれるなど販路が広がっています。

 梶原さんは「もう少しで、全都道府県に『まごチャンネル』ユーザーが広がります。距離も時間も超える新しいサービスを、これからも作り上げていきたいです」と話しています。

関連リンク:まごチャンネル|実家のテレビに、動画をおくろう。

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