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キャッツ、裏方の職人魂 カツラは何の毛? 本番中に「穴開いた」
劇団四季の「キャッツ」は、猫たちが主人公のミュージカル。それだけに「俳優がヒトに見えてはいけない」という、ムチャ振りとも思える高いハードルがあります。今回は猫の世界をつくるのに欠かせない、床山と衣装担当の仕事を紹介します。(文・岡田慶子、撮影・遠藤真梨)
それぞれの仕事場は、楽屋と同じフロアにあります。取材中も、部屋の前を通り過ぎる俳優が声をかけていったり、お菓子を差し入れにきたり。思わず、中学校時代のことが頭をよぎりました。まるで、人気の先生がいる保健室のようだったもんで……。
大阪公演の猫のカツラは、床山の遠藤綾さん(24)が1人で手入れをしています。
毛が抜ければ新しい毛を植え、1週間おきにシャンプー。どのカツラを洗うかは曜日ごとに決まっていて、1日に洗うのは4~9台です。
食器用洗剤でメイク汚れを落とし、人間用のシャンプーで押し洗い。コンディショナーでケアした後は、乾燥機で10~15分乾かし、カーラーや整髪剤を使ってセットし直します。
「キャッツ」のカツラは、ウシ科のヤクの毛を使っています。硬くて縮れているので、慣れないと扱いが難しい一方、見た目は野性的。ちょっとねじっただけでも跡が付き、形を保ちやすいのが利点だそうです。
遠藤さんは「キャッツ」の前は、「アラジン」のヘアメイクを担当していました。「『アラジン』のカツラは人毛ですし、『キャッツ』のように逆毛を立ててセットをすることはありません」と遠藤さん。
最初は「猫が全部同じように見えるし、名前を覚えるのも大変だった」そうですが、先輩に一から教わり、歴代公演の資料を見返して、手順をたたき込みました。
「キャラクターごとに、毛をいろんな方向に散らしたり、スマートにピタッとさせたり。耳は平面的になってはいけないので、いろんな方向から毛を立てて、猫らしく見えるように気を遣っています」
「キャッツ」は数ある四季の作品の中でも、俳優の動きがハードな演目の一つ。四つんばいになってステージ上を滑るとなれば、衣装のタイツやレッグウォーマーが擦れて穴が開くのも、日常茶飯事です。
俳優は、1人6枚の衣装をローテーションし、1幕と2幕の間にも着替えているそう。猫は24匹。となると……? その全ての補修を一手に引き受けるのが、衣装担当の山下友実さん(27)です。
衣装ハンガーや色とりどりの手芸用品に囲まれた作業場には、「終演後、『穴が開いた』と一気に5人がやってきたり、幕あいに役者が駆け込んで来ることもあります」と山下さん。
「本番中に靴底が全部はがれたということもありました。その時は予備の靴を出して、なんとかしのいでもらいました」。さながらF1のピットストップのようです。
着用後の衣装は、穴が開いているところはないか、擦れて薄くなっているところはないか、直に触ってチェックしていきます。
必要があればタイツの穴を塞ぎ、毛並みをペンで描き足します。肩や胸元に毛糸を付けるのも、ひざパッドを入れる隠しポケットを縫うのも、全て手作業だそうです。
「『キャッツ』の衣装は少しの凹凸でも動きを遮ってしまうため、ごまかしが利きません。着る相手は生身の人間。こうしたら着心地がいいかなと思ってやったことを、『動きやすい』と役者が言ってくれると嬉しいですよね」
2人とも、仕事中は黒い服に黒いエプロン姿。理由を聞くと、「本番で何かあったとき、お客さまの前に出て行くことがあるかもしれないので。万が一のときに、少しでも存在感を消せるようにしています」と話してくれました。
こんなところにも「猫の世界」を守るための気遣いがあったとは……。お見それしました!
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