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キャッツ猫メイク、役者が自分でやっていた! ヒゲ、アイライン…
劇団四季のミュージカル「キャッツ」と言えば、あの独特のメイク。カラフルなファンデーションに極太のアイライン、鼻もまつげもアイライナーで描いちゃうなんて、普段のメイクではあり得ませんよね。でも、それこそが「猫見え」のコツ。本番前の楽屋にお邪魔して、メイクの様子をのぞき見しました。(文・岡田慶子、撮影・遠藤真梨)
「キャッツ」の出演者はみんな、自分でメイクを施すそうです。これは今回の取材で、最も驚いたことの一つ。
ヒトから、ネコへ。鏡と向き合う時間は、役と同化していく大切な儀式でもあるのです。
まず、スポンジでおしろいをすくい取り、顔の中央に塗りつけていきます。おでこの両側と頬には、黄色のファンデーション。うなじやあごの際も塗り残さないよう、何度も鏡をのぞき込んで確認します。
しんと静まりかえった楽屋に響くのは、メイク道具を置くかすかな物音だけ。常にカメラを向けられている五所真理子さんのプレッシャーもさることながら、軽々しく話しかけられない、本番前の緊張感たるや。楽屋の隅っこにいるだけの私も、謎に口の中が渇いてきます。
「ただいま開場しました。開演45分前です」
楽屋に放送が流れる間も、淡々と手を動かし続ける五所さん。イスに浅く座り直して、いよいよ目元に取りかかります。
メイクは、演じる役や俳優の骨格に合わせて、あらかじめ決められているそうです。
「この役はこういうメイクというのは床山さんから提示されているんですけど、やっぱり骨格とか目元・口元は人によって全然ちがうので、おのおの自分に合わせて工夫しています」
「たとえば寄り目の人だったらアイラインの縁をちょっと外側に描きますし、わたしは頰が縦長なので、アイラインが下の方まできっちりくるように描いています。その上で、人間に見えないようにっていうのが、やっぱり課題ですね」
「キャッツ」に出てくる24匹のアイメイクを見比べれば、それぞれがどんなキャラか見えてくるから不思議。気性が激しい猫はアイラインも鋭いし、プレーボーイ猫やセクシーなシャム猫はやっぱり目元にも色気があります。
五所さん演じるシラバブは、好奇心旺盛なメスの子猫。
「24匹の中で最年少の子猫ということで、丸みを帯びたメイクを心掛けてます。大人の猫は野性を求められるので、シャープな顔立ちに寄るんですよ。シラバブはまぶたにダブルラインを引きます。ダブルラインっていうのは人間でいうと二重みたいなもので、それがあると目がくりっと見えるんです」と教えてくれました。
アイライン、ひげ。小筆を繰る手は、まるで下書きをなぞっているかのようにスムーズで、少しの迷いも感じられません。
「メイクの時間になるとみんなすごく集中するので、楽屋も無言になります。0.1ミリ上にいっただけで目の形がつりあがっちゃったり、丸くなりすぎちゃったりするので、本当に繊細な作業です」
楽屋には絶えず、客席のざわめきが聞こえてきます。開演を待つお客さんの高揚感と、幕開けが近づく緊張感。その境界で、五所さんは黙々と手を動かしていました。
バチッとスイッチが入るように猫になるわけではなく、メイクを重ねるごとに、少しずつ、少しずつ、猫に近づいていった五所さん。いや、シラバブ。
気づけばもう、猫にしか見えません。
メイクにかかるのはおよそ30分間。一見、塗り絵のように簡単に見えますが、めちゃくちゃ難しいんです。
実はわたし、初めて「キャッツ」を見たときに感動しすぎて、このメイクに挑戦したことが。ただ、骨格や顔つきがハードルになって思うところにラインが引けず。まぶたの2本のラインも同化してしまい、「歌舞伎役者?…いや、オバQか?」という、謎の生き物が現れる始末。
間近で見ても隙のない、奇麗なメイクを施せる俳優たちはすごい! そう痛感しました。
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