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2018年02月25日

マンボウを襲った「バブル崩壊」 学名連発の挙げ句、10分の1に…

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これまで学名が特定されていなかった「ウシマンボウ」

これまで学名が特定されていなかった「ウシマンボウ」

出典: 波左間海中公園

 ネットの都市伝説の的にされやすいマンボウですが、過去に「バブル」で沸いたことがありました。高値で売買されたわけではありません。学名です。「新種だ!新種だ!」と報告されまくり、その数は33種に。ところが近年、DNA解析をしたところたった3種に絞られました。そのうちの貴重な1種「ウシマンボウ」の学名を決定した「マンボウ博士」がいます。「人類には正直なんも利益がない」というマンボウ研究。それでも地道に続ける理由を聞きました。


世界にひとつだけの「標本」

 話を聞いたのは「マンボウに「ギネス塗り替える」発見!「おっとっと」への影響は?」に引き続き、マンボウ博士の澤井悦郎さん。マンボウ属の魚類の分類の研究を12年続けてきました。マンボウ属というのは、マンボウ、ウシマンボウ、カクレマンボウの3種で構成される魚のグループです。

 2017年12月、澤井さんら研究グループは「マンボウ」の別種、「ウシマンボウ」の学名を決定しました。普段はあまり気にならない「学名」ですが、「学名の決定」には、とても長い道のりがあったといいます。

マンボウ博士こと澤井悦郎さん

マンボウ博士こと澤井悦郎さん

学名って、水族館とかでも名前のプレートの下とかに書いてあるアレですよね
 

 

アレです。例えば「マンボウ」っていう名前、これは「和名(標準和名)」です
 

 

和名はあくまで日本の中で種を識別するためのもの
一方、「学名」は1種につき1つしか与えられない世界共通の名前です
「マンボウ」の場合は「Mola mola」といいます

 

学名ってどうやったらつけられるんですか?
 

 

新種を発見し、学術雑誌で公表する際に、自分の好きな学名をつけることができます
しかし、今まで発表されてきた種とは異なるということを証明しなければなりません。これが結構大変で…

 

具体的にはどうすれば……?

 

 

学名がついている種は、基本的に「タイプ標本」という標本が保管されています

 

 

タイプ標本は「この学名の生物はこれのこと!」という世界基準を示すとても貴重な標本です
厳密に言えばタイプ標本にもいろいろ種類(ネオタイプ、ホロタイプなど)があるのですが、基本的には1種につき世界で1つしか指定できません

 


マンボウのネオタイプ標本(ボローニャ大学動物学博物館にて)

マンボウのネオタイプ標本(ボローニャ大学動物学博物館にて)

出典: 澤井悦郎さん提供

新種かどうかを判断するためには、新種が属すると思われるグループすべての種のタイプ標本を調べる必要があります

 

日本にタイプ標本があれば調査もやりやすいのですが、悲しいことにマンボウ属のタイプ標本はすべて海外の博物館に保管されていました

 

マンボウ属のタイプ標本の中には2mくらいの標本もあって輸送も困難なので、現地に飛んで調査もしました
当然お金も飛んでいきました……

 

 

「大変さ」が急にリアルに……

 

 

あとは新種を公表した論文に掲載されている、形態や産地の情報、イラストなどから判別します
種によってはタイプ標本が紛失して無い場合もありますので、こういう情報はありがたいですね

 


学名決定までのおおまかな流れ

学名決定までのおおまかな流れ

出典: いらすとや

「新種だ!新種だ!」で33種

正直、生き物って個体差もありそうなんですが、イラストからでも違いがわかるんですか?
 

 

今となっては「マンボウを識別し得る眼」を獲得したのですが、ぶっちゃけ、私も研究を始めるまでマンボウ属はすべて同じに見えていました(笑)

 

中二病っぽいワードがサクッと語られてる……


 

能力と呼べるくらい、マンボウの「形態」、つまり見た目で判断するのは難しいものなんです
 

DNA解析が可能になる前、特に情報網も今ほど発達していなかった1800年代までは、研究者が「新種だ!新種だ!」と発表を続けた結果、これまでマンボウ属の学名は33種まで膨れあがることになりました


提唱されたマンボウ属の種の数は33種まで膨れあがった(澤井さん提供の資料をもとに作成)

提唱されたマンボウ属の種の数は33種まで膨れあがった(澤井さん提供の資料をもとに作成)

   

その時代、めっちゃ楽しかっただろうな……
 

 

あまりに増えすぎていたため、1951年に再検討が行われて、33種から「マンボウ(Mola mola)」と「ゴウシュウマンボウ(Mola ramsayi)」の2種に整理されました

       

これがマンボウバブルの崩壊……

 

 

これで収束したと思われていたのですが、DNA解析の時代に突入して少し経った2009年、私の先輩の研究によって、マンボウ属が遺伝的に3種に分かれることがわかりました
 


ざっくりとしたマンボウ属の分類研究の流れ(澤井さん提供の資料をもとに作成)

ざっくりとしたマンボウ属の分類研究の流れ(澤井さん提供の資料をもとに作成)

恐るべしDNA解析の力……
そうだ、この3種の学名はどうなるんですか?

 

 

そうです、ここからが私の研究。真の学名をつける旅が始まるのです…


 

これまでに発表された種が、この3種と一致する場合は、過去に提唱された学名を採用しなければなりません
 

ということは?

 

 

1951年に発表された2種含め、マンボウ属全33種と遺伝的に分かれた3種を比較して、「この学名の種とこの学名の種は同種! この学名の種はよくわかんないから保留!」という感じで学名を整理する必要があるんです
 

これが、マンボウ仕分けや……


 

 

そうそう、マンボウの古い資料って500年以上前のものもあるんですよ

 

 

過去の論文はラテン語とか様々な言語で書かれているので読むのも大変で、しかも日本じゃ入手できない論文もあって、海外の図書館に依頼して数週間かかって1ページのコピーを送ってもらったりして……
 

 

世界中から集めたマンボウ類に関する文献の数は1,300点以上
マジでもうこれ精神が崩壊するかと……分類学者みんなスゴい……
 


研究の大変さを語る澤井さん

研究の大変さを語る澤井さん

なんかバブル崩壊の闇を見ているようで……
 

 

分類の研究は時代が進むほどにしんどくなりますね(泣)


 

 

ちなみに、学名が決定するまでは、マンボウ属の3種のそれぞれをA種、B種、C種という仮称で呼んでいました

 


存在はわかっていたのに、発見できなかった「新種」

結果から話すとC種は、過去に提唱された33種のどれにも当てはまりませんでした
つまり、新種です。2017年に発表した「カクレマンボウ」です

 

 

33種も提唱されていたのに!?
というか、2009年の研究から結構時間かかりましたね
 

 

これがカクレマンボウの悲運で、長らく形態がわかっていなかったんです
と言うのも、解析に使用したC種のDNAサンプルは、南半球から送ってもらったのですが、魚そのものは解体されていました

       

しかも南半球にはマンボウを効率的に獲る漁法がないんです
 

     

なるほど…、日本だと定置網とかで結構獲れるらしいですね
 

 

そうなんです、存在はわかっているのに、見つけられない
長い間やきもきしていたところ発見されて形態が判明しました
2017年の夏にやっと論文発表できたのが「カクレマンボウ」なんです

 

 

それでこの和名なんですね

 


新種として報告された「カクレマンボウ」©Cesar(eは鋭アクセント付き)  Villarroel

新種として報告された「カクレマンボウ」©Cesar(eは鋭アクセント付き)  Villarroel

 「カクレマンボウ」の学名は「Mola tecta」。「Mola」はマンボウ属の名前で、「石臼」を意味するラテン語。マンボウの丸みを帯びた体を石臼に例えたことが由来です。「tecta」は「偽装する、隠れる」という意味で、長い間見つからなかった背景からこの名前がつけられました。

せっかく研究していたんだから正直、自分の名前とかつけたくないですか?
 

 

いや、自分が発見した種に自分の名前はつけないっていう暗黙のルールがあるんですよ
 


学名の特定に至る発見は「たまたま」

 DNA解析で分かれた3種のうち、残る2種の学名を決定したのも、澤井さんをはじめとする研究グループです。最も認知度の高い「マンボウ」はB種と一致し、さまざまな議論の末、学名は「Mola mola」にするのが適していると結論づけられました。もうひとつのA種は、2010年に「ウシマンボウ」という和名は提唱されていましたが、学名の特定には至っていなかったそうです。

実は、「ウシマンボウ」の学名問題を解決したのは「たまたま」の発見だったんです

 

    

たまたま?

 

 

調査で行っていたイタリア・ボローニャ大学の博物館で、たまたま「ウシマンボウ」の標本を見つけたんです

 

  

ちなみに発見したのは博物館の階段の壁で、来館者が通る場所に展示されていました
学名は「マンボウ」となっていたので、誰も別種とは気付かなかったのでしょう(笑)


 

ここでもマンボウと混同されてる!

 

      

博物館の人には由来がわからない標本と言われましたが、形態は「ウシマンボウ」そのものでした
実はこの標本、紛失したと考えられていた「Orthragoriscus alexandrini」という学名で発表された種のタイプ標本であることがわかりました


ボローニャ大学動物学博物館でウシマンボウと同定されたホロタイプ標本を発見した澤井さん

ボローニャ大学動物学博物館でウシマンボウと同定されたホロタイプ標本を発見した澤井さん

出典: 澤井悦郎さん提供

つまり、現存する最古の「ウシマンボウ」のタイプ標本だったのです
属名を現代の「Mola」に合わせて、2017年12月にMola alexandrini」をウシマンボウの学名とする論文を発表しました!

おお~!おめでとうございます!

 

                

ちなみに「ウシマンボウ(Mola alexandrini)」と「ゴウシュウマンボウ(Mola ramsayi)」は同種であることもわかったのですが、wikipediaでは別種のままになってるんで気をつけてくださいね!

       

ここまでで11年……、むちゃくちゃ長かったです……
論文解読に挫折したこともありましたが、意地と執念と愛でなんとかやってこられました

       

とにかく、人生の1/3をつぎ込んだ甲斐がありました
ここまで自由に研究させてくれた親にも感謝ですね

 


(人生の1/3……すごいパワーワードや……)


 

本当に良かったです…
でもこれまでの研究が、ひょんなことから解決するって、ちょっと複雑な気持ちじゃないですか?

 

複雑というより、驚きでしたね、失われたとされていましたから
ここまで地道に研究してきたからこそ、ウシマンボウと一瞬で判別できたんだと思います


 

なるほど、ここで「マンボウを識別し得る眼」が役に立った訳ですね
 

 

マンボウ属3種の成魚の見分け方

マンボウ属3種の成魚の見分け方

出典: 澤井悦郎さん提供

マンボウのことをもっとディープに知りたい

そもそも澤井さんがマンボウの研究を始めたのはどうしてだったんですか?
 

 

やっぱり昔からあの丸っこい形が好きで、見てると面白いんですよね
 

 

いやいや、「見てると面白い」だけじゃ、普通12年も続けられないと思うんですよね
 

 

ですよね、でもやっちゃった(笑)
正直、何で続けたいのか自分でもよくわからないです
でも、ずっとひとつのことを極めたいって思っていて、それがマンボウになりました

 

 

 澤井さんは2015年に広島大学大学院で博士号を取得しました。しかしそのままマンボウの研究を続ける環境が得られず、ハローワークに通っていたこともあります。現在研究機関で働いていますが、仕事としてマンボウの研究はしていません。

マンボウの研究で「人類に何か利益があるのか」って聞かれると、正直特に思い浮かばないんですよね
いや、考えたら魚類巨大化の解明に繋がるとか言えるんですけど、私がやりたいのは、そういう視点から離れた「純粋な科学」です

 

だから私は研究者というより、マンボウのことをもっとディープに知りたい、ただの「マンボウオタク」なんです
マンボウの研究だけで安定した収入が得られたら最高なんですけどね……

 

   

でも自分が知ったことを多くの人と分かち合いたいと思っていて、マンボウの一般書も書きましたし、Twitterや「マンボウなんでも博物館」という同人サークルでも積極的に情報発信しています
いつか世界でただひとつの「マンボウの博物館」をつくりたいですね!

 

 マンボウ分類の成果は、純粋な「マンボウ愛」に支えられていました。澤井さんによると、マンボウはまだまだ謎が多いため、これからも新しい発見は続々と出てくるとのことです。今後もマンボウから目が離せません。

   ◇

 澤井悦郎(さわい・えつろう)
 2015年、広島大学大学院で博士号を取得。マンボウの研究を12年間続けている。2017年8月には、マンボウの一般書「マンボウのひみつ」を出版。JFN系列「山田五郎と中川翔子の『リミックスZ』」(2月27日より全国15局で順次放送)にゲスト出演予定。海とくらしの史料館(鳥取県境港市)で開催される「マンボウ祭~其肉潔白ナリ油多味ヨシ~」では、4月7日、8日にトークショーを行う予定。


【クイズ】これ、何マンボウ?「実在する動物?」マンボウ謎の骨格も
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【第1問】これ、何マンボウ?
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出典:朝日新聞
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