地元
奈良、三重県境にまたがる「白骨林」がすごい!インスタ映え国立公園
「白骨林」とはその名の通り、立ち枯れた樹木が乾燥して白くなり、無数の骨のように見える様子を言います。何だか少し不気味な呼び方ですが、とても美しい白骨林が奈良県と三重県の県境にあると聞いて、取材に行ってみました。実はこの一帯、半世紀前は、うっそうとした緑の森でした。いったい何があったのでしょうか?
奈良県上北山村と三重県大台町にまたがる大台ケ原は、吉野熊野国立公園の特別保護地区に指定されています。奈良市内からは車で約2時間半。標高1600メートルの台地に広がる公園内には遊歩道なども整備されて散策しやすいため、春や秋には大勢のハイカーが訪れます。
中でも、高さ800メートルの断崖絶壁に突き出た天然の展望台「大蛇嵓(だいじゃぐら)」は紅葉が美しく、眼下に雄大な山々を一望できる人気のスポットです。切り立った岩の上では、まるで大蛇の背中に乗っているかのようなスリルを味わうことができます。
白骨林が広がる正木峠は、駐車場から歩いて40分ほどの場所にあります。朝焼けの空や日の出の写真が撮りたかったので、まだ暗いうちからヘッドライトを点けて出発です。頭上には見たこともないような満天の星空!
そして正木峠に到着すると、何と、遠く離れた富士山がくっきりと見えました!その距離270キロ。まさか、奈良県から富士山を見ることができるとは……。驚きです。
空が明るくなり始めると、立ち枯れした樹木のシルエットも浮かび上がってきました。
東の空から太陽が顔を出しました。朝の光で赤く染まった白骨林は幻想的な美しさです。奥に見えるのは熊野灘。ずっと山道を歩いてきたので、海がこんなに近いなんて思ってもいませんでした。雄大な自然を写真に収めるため、無人航空機ドローンを飛ばして撮影しました。(※ドローンは関係各所に特別な許可を得て飛行させています)。
環境省によると、大台ケ原は屋久島と並んで日本で一、二を争うほど雨が多い地域なんだそうです。直線距離でわずか15キロの熊野灘から吹き上げられる湿った空気が大量の雨をもたらし、豊かな自然を育んできたと言われています。
そのため、周辺が晴れていても大台ケ原では雨や霧の日が多いそう。実際、私も前日に下見をしたのですが、霧で辺り一面が真っ白。写真で見ても不気味な雰囲気が漂っています。
ところがこの正木峠、半世紀前までは苔に覆われてうっそうとした緑の森だったようです。遊歩道沿いに1960年代に撮影された写真が展示されていました。白骨化した樹木はどこにも見当たりませんね。
なぜ森は激変してしまったのでしょうか。奈良県大台ケ原管理事務所の田垣内政信さんによると、大きな原因は1959年の伊勢湾台風による被害だったそうです。
台風の後、尾根周辺の樹木がなぎ倒されて地表に日光が当たるようになったために笹が繁殖しました。すると笹を主食とする鹿が増え、残った樹木の皮を剝いで食べることで木が枯れる被害が拡大したそうです。今では山一面を笹が覆うようになりました。
幻想的できれいだなと思っていた白骨林ですが、森が衰退した姿だったんですね、、。
森を再生させようと、国も動き出しました。新たに生えてきた稚樹が鹿に食べられてしまわないように、樹木を護るための「防鹿柵」を400カ所以上に設置しているそうです。上空から見ると、パッチワークのようですね。
帰り道、遊歩道の脇からトウヒの稚樹が顔を出していました。高さはまだ1メートルほど。何十年も経てば、元の立派な森に戻ることができるかもしれません。白骨林も幻想的で良いですが、日本有数の原生林がその姿を取り戻す日も待ち遠しく感じました。
自然豊かな大台ケ原は、冬季の11月下旬~4月下旬の間、途中のドライブウェイが閉鎖されているため入山できません。詳細な開通時期など確認が必要です。
1/9枚