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「若者は投票しない」って日本だけ? スイスやアメリカだって…
選挙のたびに聞かれるのが、「若者の投票率が低い」という嘆きです。「やっぱり日本はダメだなあ」なんて嘆きがちですが、世界的に見ると、同じ悩みをもつ国は少なくありません。アメリカの事情や、イギリスで投票率アップに効果があったという取り組みを聞いてきました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
まずは、日本の投票率を調べましょう。
・前回2014年の衆院選挙は、52.66%
・2016年の参院選挙は、54.70%
特に参院選挙は、この20年間、5割台が続きます。20代に限ると3割台です。
この数字は、世界的に見てどうなのか。
OECD(経済協力開発機構)の2016年のレポートでは、国政選挙の投票率は、加盟国平均が65.63%。日本は、スイス、ラトビアに続きワースト3位と、確かに低い。(ただし、投票を義務化し、罰金を設けている国もあります。投票率が高い国には、義務化している国もあります)
そして、ワースト4位が、アメリカです。
昨年は大統領選挙が盛り上がりましたが、投票率は実は5割台。
あれ? 日本とあまり変わりませんね。
そこで、この方にお話を聞きました。
スティーブン・グリーンさん(51)。
世界的イベント「RockCorps(ロックコープス)」の仕掛け人です。ロックコープスは、4時間のボランティア活動をすれば、有名アーティストらによるライブのチケットがもらえるという、新しい形の社会貢献型イベントです。
このイベントは、ボランティア活動が、若者にとって音楽やファッションのように身近な存在になるようにと、2005年にアメリカでプロジェクトが始まりました。現在は、日本を含め世界10カ国で開催されています。
日本は今年で4回目。ボランティアの参加者数(4,595人)も、セレブレーションと呼ばれるライブへの参加者数(4130人)も、過去最高を記録しました。
スティーブンさんは、アメリカだけでなく、世界でいろんな若者を見続けている人でもあります。
――日本の場合、選挙に行かない若者に話を聞くと、「政治を分かっていない自分が投票をしていいのか」「自分の1票に意味があると思えない」といった声を聞きます。
「選挙だけでなく、ボランティアも含めた社会参加全体に言えることなのですが、『自分には、社会を変える力がある』と思わないと、行動に移さないですよね。いまの若者は、かつてと比べて地域に密着していません」
「たとえば地元のスポーツ団体に参加するとか、地元のイベントに参加するといった機会が減っています。自分の住んでいるところに関心が無いだけでなく、関係性をもたない。そうすると、そこを変えていこう、良くしていこう、という気持ちになりません。そして、最終的に投票にも関心をもたないということに繫がっていくんだと思います」
「自分に『変えていく』力があるかどうか。若者は、それを全体的に感じられていないんじゃないかと思います」
――地域のコミュニティが、投票率にまでつながるとは。たしかに地元に関心が無いと、政治との接点が持ちにくいのはその通りです。
「日本では投票権が18歳に下がったと聞いています。かといって、18、19歳の若者が、いきなり投票権を与えられて、ちゃんと投票できるのかというと、そうじゃないと思います。もっと早い年齢から、教育を始める必要がありますよね」
「普通にテレビ見ていると、政治の話をしているのはスーツを着た中年の男性ばかりで、若者は自分に関係がないと思いがちです。でも、いつも行っている公園の開園時間も政治によって決められているし、街に横断歩道があって、歩行者の安全が守られているのも政治の力だと分かってくれば、自分の生活を変えるには投票に行かないと、と思えるようになるのではないでしょうか」
――スティーブンさんは、昔から選挙に関心がありましたか?
「私の両親は実はふたりとも政治学者でして。政治にくわしい親に育てられたので、小さいころから、自分が決定権をもっているんだと教えられてきました。自分が何もしなければ、周りからどんどん決められていってしまうんだ、押し付けられてしまうんだと。ちょっと他の家庭とくらべると特殊かもしれません」
――選挙はもちろん大事なのですが、それだけで社会課題は解決しそうにありません。選挙以外にも、社会をよくする方法ってありますよね。
「どうしても私は仕事柄、『ボランティアがあるよ』と言いたいところですが(笑)。先ほども言ったように、1~2世代前と比べると、地元密着というか、地域のアクティビティへの参加が少なくなってきました」
「スポーツクラブ、クッキング、自然楽しむ会など、いろんなイベントが地元にあったんです。しかし、バーチャルな世界が広がって、そちらの方が気軽に手軽に参加できるようになったので、地域とのつながりが薄れてしまった」
「企業もNPOも、地元に関われる機会を増やすことに、真剣に取り組むべきだと思っています」
――日本だけでなく、米国も投票率が低いんですね。
「アメリカは、選挙の前に有権者登録をしておかなければ投票できないというシステムなので、単純に比較はできません。ただ、アメリカも日本も、問題なのは、若者の低投票率だと思います」
「政治で決められていることって、お年寄りより若者の未来に直接関わってくることが多いので、若者が無関心であることは非常に問題だと思っています。なんとかして巻き込まないと、本当の民主主義にはならないんじゃないかと思います」
若者の投票率は、どれくらい低いのか。
さきほどの2016年のOECDレポートに、国際比較が載っています。
25~50歳の投票率を1として、それに比べて18~24歳の投票率がどれくらいなのかを表したデータです。1に近いほど、若者と上の年代との投票率に差がないことになります。
日本は0.78、アメリカは0.82です。OECD平均が0.84なので、諸外国に比べると、やはり日本の若者の投票率が低いことがわかります。
ただ、同じデータを見ると、イギリスは0.64と、日本より低い。
昨年イギリスは、EU離脱を決める国民投票が話題になりました。この選挙の投票率は約72%。日本の国政選挙と比べると高いですが、18~24歳の投票率は36%しかなかったと報じられ、その差が大きな問題になりました。
実はスティーブンさん、アメリカ国籍ですが、現在はイギリスに住んでいて、イギリスの若者の投票率アップに向けて、活動をしているそうです。
「私がイギリスで6年前から関わっているプロジェクトをご紹介します。『National Citizen Service (NCS)』です。当時、イギリスのキャメロン首相から頼まれて、私が代表に就任しました」
「これは、16歳向けのプロジェクトです。イギリスでは、16歳になると多くの子が家を出ます。16歳は要の年齢なんですね。その16歳の夏休みの4週間、同じ地域出身だけど違う学校に通っていたという若者を集め、12人ずつのチームに分け、様々なチャレンジをします」
――具体的には?
「最初の1週間は自然の中でのチャレンジ。みんなで協力して何かを乗り越えるというチームビルディングを学ぶ。次の2週目は自分の地域について考える」
「3週目はソーシャルプロジェクト。地域をよくするための企画を考える。ボランティアの企画でもいいし、クラブをつくろうというものでもいい。そして4週目に実際にその企画をやってみる」
「自分たちの地域での問題を分析し、それに対して行動を起こすプログラムです」
――けっこう大がかりですね。
「今年だけで10万人の16歳が参加しました。イギリスの16歳の6人に1人は参加した計算になります」
――そんなに?
「参加して2~3年たった若者に聞くと、ボランティアとか地元に対する関心が全然違うんです。投票率も上がっています。こういうプロジェクトは世界でも少ないのではないでしょうか」
「たった4週間のプロジェクトですが、長期的な目線で見ると、良い影響が残せています」
実際に投票率が上がったというのは、すごいですね。スティーブンさんが手がけるこの「NCS」では、次にような結果が出ているそうです。
<貧困層出身者の参加前、参加後の変化を調べると、大学入学が50%増えた>
<イギリス国家統計局のデータによると、2000年時点で16~25歳のボランティア参加率は他の年齢層に比べて最も低かったが、2015年には最も高い率になった>
前イギリス首相のキャメロン氏も、そのことをツイートしていました。
Great to meet NCS Trust team today. New data shows @NCS boosts university admission for most disadvantaged by 50%: https://t.co/jS1CKW4ly0 pic.twitter.com/zHkCcLZpRa
— David Cameron (@David_Cameron) May 2, 2017
政治に限らず、「日本ってダメだよね」という議論になりがちですが、「若者と政治」には、他の国にも共通した課題があって、いろんな努力が広がっているんですね。
「日本だけじゃありません。日本でも、若者と政治を結ぶための活動をしているNPOがありますよね。未来の社会に関わることですから、ぜひ、しっかり議論してください」
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